64.初めてヴィンス様を話をしました
最初の顔合わせは無事に済んだ。
エアルドレッド侯爵家の方々は、アルドリッド公爵家の皆と違い、意外と気さくだったのもある。
リアム様の従兄だからと、ヴィンス様に対してもちょっと身構えてしまったけどね――と、つい、苦笑が漏れる。
エアルドレッド侯爵家は、わたし達姉妹2人と違って、男兄弟2人の家族構成だった。弟のノーマン様は18歳でヴィンス様とは違う緩やかな天然の髪を短めにしていた。
ご両親はお二人とも優しそうで、おっとりとしていた。
「エレン嬢、少しいいだろうか」
両家八人で話すのは話がまとまりにくいので、立食パーティよろしく、飲み物と軽食が中央に置かれて、好きなものを取り壁側の椅子に座って談笑する予定だったのが、スコーンを取った時点でヴィンス様に声をかけられた。
正直、わたしに声をかける人はいないだろうと思っていたので、早いけどおやつを満喫しようと思っていたんだけど。
「なんでしょう? ヴィンス様」
さて、何を言われるのか。少々身構えてしまうわ。
「いや、この度はローズ嬢と私のことに関して、いろいろ心砕いてくれたと聞いた。本当に、ありがとう」
ヴィンス様はそう言って、軽く頭を下げた。
……少々意外だった。リアム様の従弟だからと、身構えていたのもある。
「いえ。お姉様には幸せになってもらいたくて。さんざんわがままを言ってお姉様を困らせてしまったから、わたしなりのお詫び――と言えるでしょうか」
「なるほど。エレン嬢の言う『わがまま』は私も目撃したことがあるが……あれから変わったのだな」
「そう思っていただけると嬉しいですわ」
そこまで言って、自分のことをいつものように『わたし』と言っていることに気づいた。
ヴィンス様については、漫画の知識とお姉様と恋仲という状態なので、つい家にいるような状態になってしまうわ。
「そういえば、失礼をいたしました。わたくし家にいるような話し方をしてしまいましたわ」
「いや、構わない。義理とはいえ兄妹になるのだから。逆にそれだけ親しみを持ってもらえたと思っていいだろうか?」
「お気遣い、ありがとうございます」
ふぅ、良かった。
礼儀作法にうるさい人でなくて本当に良かったわ。
ヴィンス様の家は侯爵位。我が家に比べれば格上なのだから、失礼なことがあったら問題になるかもしれないのに。
……爵位に拘ってしまうのは、アルドリッド公爵と話をしたせいかしら。嫌だわ。
「ヴィンス様は、我が家のスコーンはお召し上がりになったことは?」
「いや、まだないが」
「そうですか。我が家のスコーンはわたしが言うのもなんですが、絶品ですの。甘いものが苦手でなければ、添えてあるクリームと一緒に召し上がってくださいな」
「なるほど。ローズ嬢が言っていたのがこれか」
「まあ、お姉様からもお話を?」
「ああ。美味しいが、平民のような温かみのある家庭料理もあるとか」
まあ、お姉様ったらそんなことまで話をしていたの?
でも、我が家の料理長は、うちに落ち着くまであちこちで料理をしてきたせいか、レパートリーが多い。その中では、平民が好むような料理もあるけど、美味しくて我が家の食卓には月に数度は出るくらい。
「お姉様は、ヴィンス様にいろいろなことを話されているようですわね」
「……そうだな。どの話も、些細な幸せを感じさせるような話ばかりだ」
そこで、ヴィンス様は柔らかな表情で笑みを浮かべた。
ああ、お姉様のことが本当に好きなんだわ。
お姉様もそうだけど、ヴィンス様の想いがプログラムされたものだとしても、こんな複雑な恋心や切なさ、ほのかに感じる幸せなんて、プログラムにはきっと出せない。
お父様とお母様も、そう。漫画の設定とは全然違うものからくる、お姉様とわたしの扱い。
ちょっと考えすぎていたようだわ。
考えてみれば、さんざん引っ掻き回してくれたリアム様をはじめ、アルドリッド公爵家の面々も漫画には名前すらも出てこないのに。
「ヴィンス様」
「どうした?」
「お姉様をお願いいたします。自分で言うのもなんですが、わたしのわがままで振り回してしまい、お姉様にはつらい思いをさせてしまったと思います。だから、本当に幸せになってほしいんです」
「それは先ほども聞いたよ。でも、エレン嬢はローズ嬢のことがすごく好きで大切なんだね」
ヴィンス様にそう言われて、あ、と思った。
漫画のようなつらい思いをさせたくない。
前世でけなげででもしっかりとしたローズを応援しながら、ページを捲ったものだった。
だから、お姉様がヴィンス様と幸せにならなくては――と思い込んでいたけど、それだけじゃない。
エレンが、お姉様に幸せになってもらいたかった。
その相手が、ヴィンス様だった。
なのに、いつの間にか、手段の方が優先になって、お姉様たちの気持ちを決めつけていた気がするわ。
「エレン嬢?」
「ごめんなさい。ヴィンス様がとてもやさしい方だと思ったので。お姉様から聴いた話をもとに見てくださっているのだな、と」
「もちろん、自分で見て確認はするよ。でも、エレン嬢はローズ嬢が言っていたように、姉であるローズ嬢のことが好きなんだなと思ったよ」
「……お姉様が?」
つい最近まで、あれほどわがままを言ってお姉様を困らせていたのに、ヴィンス様にそんなことを言っていたの?
しかも、どんな風に言われたのかしら……。
なんとなく気恥ずかしくて、ヴィンス様から視線をそらして、小皿にスコーンを取って、クリームをたっぷりと小皿の端に載せ、ついでにリンゴジャムもスプーンですくってクリームの横に載せた。
「……あの、召し上がります?」
「……いただこうか」
自分に差し出されると思わなかったのか、ヴィンス様は少し目を見開いた後、手を出してわたしから小皿を受け取った。
「ちなみに、どのような話をされたのか――伺っても問題はないでしょうか?」
「そうだね。先ほども言ったように些細なことだよ。エレン嬢が言った『わがまま』に対して、少しばかり悲しくなる時もあったけれど、それでも『お姉様』と言って、自分の後をついてきてくれるのは、なんとも言えない気持ちになるとか……ね」
「まあ。それは……わたしとしても、少し恥ずかしいですわ」
そっか。お姉様は、わたしがわがままを言っていた時でさえ、姉と慕うところもあったから、それを大事にしてくれていたのね。
「それで、少しお話は変わりますが、お姉様を見初めたヴィンス様から見て『いいところ』はどこかお聞きしても?」
「『いいところ』か。なかなか難しいね。好きなるのに、しっかりとした理由なんて思い浮かばない。……気づいたら目が追っていた、というのが正しいかな。言ってしまうと、エレン嬢が『お姉様』と言いながらくっ付いていくのを、周囲は微妙な視線を見ていたけど、ローズ嬢はエレン嬢から逃げなかった。芯が強い人だと思ったよ。そして、エレン嬢のような華やかさはないけれど、凛とした美しさに目が奪われた。……完全に惚気だね」
気づいたら饒舌になっていたヴィンス様は、途中で気づいて顔を少し赤らめながら照れ臭そうに言った。
また間が空いてしまいました。せめて週1くらいで投稿したいかったんですが…(;'∀')
ニールの前に、エアルドレッド侯爵家との顔合わせの回になりました。




