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65.ヴィンス様の心配は杞憂ですよ



 ヴィンス様が語るお姉様の話に、わたしは心が温かくなった。


「いえ。わたしは、きっと、そんな話を聞きたかったんですわ」

「そうか、なら良かった」

「ありがとうございます」


 お姉様が好きになったのも分かる気がするわ。

 人の噂を鵜吞みにしないで、自分の目で見たものを信じる人なのね。

 それなら、ヴィンス様がお姉様がいいと思うのもよく分かる。お姉様は後継ぎとして育てられたのもあって、淑女としてもしっかりしているし、知識もあるため話をしてもいろいろな話ができる人だもの。

 なにより優しいしね。

 自然と笑みが浮かんだ。


「お姉様をよろしくお願いします」


 両手を前で重ねて、深くお辞儀をした。


「エ、エレン嬢!?」

「ヴィンス様なら、お姉様を任せられますわ」


 わたしがそう言うと、ヴィンス様は持っていた小皿をテーブルに戻して。


「ありがとう。今日1番嬉しい言葉だ」


 真面目な顔で、そう答えてくれた。

 ヴィンス様は、真面目でも柔軟性がないわけじゃない。わたしのことも噂を鵜吞みにせずに見てくれた。

 そして、誠実な答えをくれた。


 ――この人が、お姉さまのお相手でよかった。


 素直にそう思える。

 漫画の、主人公ローズのヒーローだからじゃない。ちゃんと生きて、人を見てる。


「ホッとしました。お姉さまが自分の立場を忘れてしまうほど、お好きになった方はどのような方なのか、とても気になっていたので」

「……そう言われると、照れてしまうね。で、合格はもらえたようで良かった」

「ええ、合格点を振り切ってますわ」


 そう言うと、ヴィンス様は照れくさそうに笑った。

 今日初めての、作った顔ではなく、自然と出てきた笑みだった。


「今のを見て思いました」

「何かな?」

「ヴィンス様、緊張されていたのですね」

「……ばれてしまったか。やはり緊張するよ。エレン嬢が大好きな姉であり、ご両親が大事に育てた娘をいただきに来たのだから」

「正直ですね。でも好感が持てますわ。でも、あと少し待っていただきましてよ?」


 まだわたしが正式に跡取りとして名乗ってないからね。

 貴族院のほうには書類を出して通ったらしいけど、跡取りとしてのお披露目が必要になる。なんしろ、貴族は親戚や派閥で繋がっているからね。ここを疎かにすると、後が面倒になるらしい。

 だけど、お披露目の前に、ニールとわたしの婚約式が先になる。

 わたしの婚約者になろうと思わないように、先にニールとの婚約式にするんだって。

 そのため、お姉様にも少し待ってもらうことになっている。

 こういうしがらみが面倒くさいと思うけど、根回しは大事。うちが食いものにされないよう、注意が必要なんだって。


「もちろん、分かっているよ。ローズ嬢も家のことを心配しているし」

「……お姉様が気にしないなら、どうでもいいような口ぶりですわね」


 なんとなく、チクりと嫌味を言ってみる。

 わたしはヴィンス様がどういう為人なのか、漫画の情報でしか知らない。

 でも、実際ここで《《生きている》》人たちは、漫画とは違っていて、それ探るようにヴィンス様の様子を見る。


「そういうわけではないよ。ちょっと言い方が悪かった、と思う」

「ふふっ、素直に認めますのね」

「貴族として生まれた以上、自分よりも家を大事にする……または、しなければならない者は一定数いる。特に、」

「お姉様は跡取りとして育てられましたもの。人一倍責任感は強いですわ」

「……そう思うよ」


 ヴィンス様の言葉を遮るように言うと、少しやれやれといった雰囲気で同意した。


「これも、私を試しているのかな? それとも様子を見ている?」

「どちらも、ですわ。ヴィンス様もわたくしが義妹になるのに対して、思うことをおっしゃってくれてもいいですわよ? 探り合うより、本音をぶつけ合った方が分かり合えますもの」


 そう言い切ると、ヴィンス様は少しだけ目を細めた。

 そしてわたしの目をしっかり見て、少しだけ探るような目線になる。

 そして、納得したのか、ようやく口を開いた。


「なるほど。エレン嬢は直球タイプなんだね。ちょっと普通の令嬢とは違う……リアムが気に入るわけだ」


 いきなりリアム様の名前を出されて、わたしは思いきり顔をしかめてしまった。


「それほど嫌かな? 幼馴染と婚約するほどに」

「……正直に言えば、リアム様の話はやめて欲しかったですわ。でも、リアム様から逃げるためにニール――リントン子爵令息と婚約したわけではないですわ」

「なるほど。リアムはやりすぎてしまったみたいだ。でも、幼馴染との婚約が、リアムから逃げるためのものでなくて良かった」


 なるほど。

 リアム様とくっつけようとかそういう訳じゃなくて、わたしが急に幼馴染と婚約することなったことに対して気にしていたのね。

 それなら問題ないわ。


「そうですわね。ニールは……今シーズンまでは意識していませんでしたが、わたくしのことについ周囲の誤解を解こうと手を尽くしてくれたり……何より傍にいて居心地がいいと思ったのですわ。ずっとそばにいるのなら、彼がいいと」


 ニールのことを思い浮かべれば、訝しげな表情から自然と笑みに変わる。

 それだけ、わたしの中でニールの存在が大きくなっているのに気付いた。



誤字脱字報告ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

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