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62.布越しではなくて



 ソファーに座ってニールとゆったりと紅茶を飲む。

 一時間くらい前までの、アルドリッド公爵家での出来事が噓のようだった。


 ただ、ニールはわたしの気持ちを聞かなかったことに対して罪悪感を持っているようで、ごめんと何度も繰り返す。

 それがちょっと辛い。

 わたしだって無神経にニールの立場を考えずに言ってしまったのだもの。お相子だと思うの。


「もう、いいわ。わたしこそ考えなしだったもの」

「エレン」

「それより、これからのことを話したいわ」

「……そう、だな」


 きっと、これから忙しくなるわ。

 お父様からのお勉強もあるし、婚約式もある。書類を出して終わりかと思ったけど、伯爵家の跡取りの婚約だから、周知させる必要があるらしい。

 そういえば、お姉さまの婚約式も人を呼んでのパーティーだったわ。


「きっと、忙しくなるわ」

「そうだな。俺も両親や兄さんにちゃんと伝えなきゃならないし」

「そうね。テリーお兄様にはちょっと悪いことをしてしまったかしら?」


 自分を補佐してくれる人を、わたしが奪ってしまったようなものだから。

 でも、そう思うなら返してくれと言われても、返す気はないんだけどね。


「その兄さんが自分の幸せを選べって言ってくれたんだ。きっと祝ってくれるさ」

「そうなの? それなら良かった」

「そっちこそ、ローズさんの婚約もあるし、何より《《お勉強》》が必要だろ?」

「うっ。そうだけど……」

「俺も一緒に教えてもらうから」

「うん」


 勉強と言われて、少しだけ表情が歪んでしまう。

 分かってはいるのよ。お姉様の代わりに後を継ぐと宣言したのだから、これからお父様が行っている領主としての仕事を覚えていかなければならないって。

 それに、お父様が居なくなったら、わたしが判断していかなければならないことも。

 それが今のわたしにはとてつもなく重圧で、いつか慣れることが出来るのか心配になってくる。

 1歩間違えば、今日のアルドリッド公爵のようになってしまう。


「エレン?」

「……ごめんなさい。ちょっと、今になって重みを感じているの。お姉様はこんな重圧を日々感じていたのかしら」


 お姉様はそんな事を表に出さず、尚且つわたしのわがままに付き合ってくれていたのだ。


「ローズさんも大変だったと思う。想像でしかないけど。でも、エレンはローズさんの代わりに頑張るって決めたんだろう?」

「……ニール」

「俺も、傍に居る。一緒に頑張ろう」

「うん」


 そうだったわ。わたしは1人ではないものね。

 家が決めた婚約者じゃない。自分で選んだ婚約者ひとだもの。

 わたしは恵まれているわね。


「あのさ」

「何?」


 改めてニールを見れば、少し頬を赤らめて緊張した顔が目に入った。


「ニール?」

「……エレン、ちょっと手を貸してくれるか?」


 何がしたいのか分からないけど、別に手を出すのは問題ない。

 カップから手を離して、ニールの前に手を出すと、ニールはそっとわたしの手を取った。


「ニール?」

「……」

「どうしたの?」


 自分から手を出してと言ったのに、手を取ったまま固まっている。


「ニール?」

「……いや、その……こうやって触れるのって、久しぶりだから……」

「? いつもエスコートやダンスで触れていたじゃない」

「そうだけど……手袋越しじゃないのは久しぶりで……自分から手を貸してって言ったのに、ドキドキしてる」

「!?」


 そうだった! 今は手袋もなく、ニールの肌に直接触れているんだった!

 いつもドレスや手袋で直接触れているわけじゃなかったんだっけ……。

 そう思うと、ニールの熱が伝染して、わたしの頬にも熱がこもる。


「ば、馬鹿。馬鹿馬鹿、変なこと言わないでよ!」

「ははっ、エレンも真っ赤だ」

「ニールもね!」


 手から熱が伝わる。その熱さに体中が熱くなる。

 うう、ニールがあんなこと言わなきゃ、全然気にならなかったのに……。

 かといって手を引っ込めるのは何か違うと思っていると、ニールがわたしの手を持ち上げて……わたしの手の甲にそっとキスをした。


「……っ!」


 手の甲に感じるニールの唇の柔らかさに驚き、そのあとは離れるときの吐息に震えた。

 鼓動が早鐘を打ち始め、全身にまた熱が回った。

「ニ、ニール」と戸惑っていると、同じように頬を赤くしたニールが真面目な顔をして。


「エレン、俺と結婚してください」


 その言葉に感極まって、わたしは「はい」と返事をしてなんとか笑みを浮かべた。


「小父さんと小母さんには了承を取ったけど、エレンにちゃんと伝えたかったんだ」

「……うん、ありがとう。すごく、嬉しいわ」

「あと、俺が伯爵にはなれないから、エレンが表立って動かなければならない時がどうしてもあるだろう。でも、傍にいるから。エレンを1人にしないから」

「うん。嬉しい」


 その気遣いがとても嬉しい。

 ニールはわたしとの将来を、しっかりと考えてくれているのがこの言葉でわかる。

 わたし達は相手の手を握りしめたまま、この後に訪れるだろうことについて、とりとめもなく話し合った。



 ***



おまけ



 エレンとニールが居る部屋の隣の部屋――

 ここはパーラーでの会話を盗み聞き出来るよう壁が薄く細工をされた所がある。

 そこで聞き耳を立てているのは、エレンの両親と姉のローズだった。


「ふむ、心配は要らないようだね」

「そうねぇ、それにしても可愛らしい反応をするわね。かまいたくなってしまうわ」

「そうだねぇ。今までの反動でもうちょっと進むかと思ったのに、手を握っただけであの様子ではね」

「勢いに任せて口づけまで行けば良かったのに。ニール君って意外と初なのね」

「それを言うならエレンもね。お互い初々しいものだねぇ」


 好奇心を隠さない2人に、ローズはため息をついた。

 まさかこんなところで出歯亀をする羽目になるとは。


「お母様、悪ふざけは良くありませんわ」

「あら、だって、ねぇ……」


 ふふふ、と笑みを絶やさない母に、またもやため息をつく。

 ローズはここに来て、はじめて母が悪戯好きだと認識した。


「お母様がそんな性格だとは思いませんでした」

「……そうねぇ。あまりこういったのは見せなかったものね」

「なんか、こう……今頃になってお父様やお母様の新たな一面を見ることになるとは思いませんでした」

「そうねぇ。あなたの輿入れもすぐでしょうし、そうなるとゆっくり話をする時間は少ないわね。もう少し打ち解けて話をするべきだったわ」

「お母様……」


 今まで、跡取りとして自覚させるためにと、あえて母はローズと距離を置いていた。

 それが今になってもったいない時間だったと、母は大いに反省していた。


「うん、まあ、たまには里帰りでもしておいで」

「……そうですね、お父様。エレンの成長も楽しみですし」


 ほんの少ししんみりしたローズに父が頷いていると、母は面白そうに笑った。


「本当に面白い姉妹になったわねぇ」


 と。



やっと区切りのいいところまで来ました(*´ω`*)


ポロっと出た別の話を打ち込み中です。

きりのいいところまでの目途が立ったので投稿しました。

https://ncode.syosetu.com/n1432ma/

婚約破棄から始まる異世界ファンタジー。転生なしです。

良ければ見ていただけると嬉しいです(*'▽')


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