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61.ずっと言えないと思っていた(ニール)



 俺の気持ち――そんなのは最初から決まってる。

 俺がずっと見てきて、想ったのはエレンだけだった。


「俺に、エレンの補佐ができるとは限らないですよ?」

「そんなものはこれからの頑張りようでなるようになるよ。実際、私も伯爵位を継いでからやっと自覚が出て、勉強しながら領政をこなしたからねぇ。奥さんの協力がなかったら、挫けていたかもしれないね」


 そこで小父さんは小母さんを見て、小母さんは笑みを返した。

 夫婦仲が良くて羨ましい。


「そう、だったんですか? 俺は最初から領民思いの良い領主だとばかり……」

「そんなわけないだろう? これでも紆余曲折しながら来たんだよ」

「じゃあ、エレンも……?」

「うん、やる気があるから後継ぎとして認めたよ。私もまだ現役でいられるから、その間は実地で教えてあげられるよ。もちろん君にもね」

「そう、ですか」


 小父さんは未熟なエレンや俺でも、やる気があれば見捨てることはないだろう。

 何度も諦めなければならないと思ったことが、ここで頷けば実現できる。


「小父さんが、俺でいいというのであれば、俺はエレンの傍に居たいです。お願いします、エレンとの関係を認めてください」


 まだ気持ちを交わしたわけではないけど……。

 でも、エレンを手放さなくてもいいのなら、この話は絶対に受けるべきだ。

 握りしめていた拳を開いて、足の上に置いて頭を下げた。


「いい返事だね。ああ、もちろん君のご両親には昨日のうちに手紙を書いた。返事はもらってないけど……まあ、答えは君に委ねると思うよ」

「わたくしとしては、貴族令嬢としては規格外のあの子をもらってくれる気持ちだけで嬉しいわ」

「小父さん、小母さん……」


 2人とも笑顔で答える。

 小母さんなんか、エレンのことを『貴族令嬢としては規格外のあの子』と評しているのに、その口調と表情はすごく優しい。


「ありがとうございます」


 俺は素直にお礼を言った。

 小父さんも小母さんもエレンの気持ち、俺の気持ちを汲んでくれた――そう思うと、自然と頬が緩んでいった。


『娘さんをください』なんて言葉、俺には無関係だと思っていた。言いたくても言えないと思っていた。

 それなのに、言う機会があって、相手が子供のころから好きだったエレンと……

 あり得ないと思っていた未来が、今ここにあった。


「俺、こんな未来があるなんて思わなかったです」

「未来は1つではないよ」

「そうよ。でも、自分で切り開いていかなければならない時もあるけれどね」


 小母さんはそう言うと、小父さんを見つめた。

 昔、2人の間に何があったのだろうか。

 どちらにしろ、スムーズに婚約――そして結婚といかなかったのが窺える。


「どうしたかね?」

「いえ、小母さんがそう言うのなら、何かあったのかと思って」

「ふふ、それなりにあったわよ。でもそんなものでしょう?」

「小母さん……強いですね」


 思わず出てしまった言葉に、しまったと思って口を押える。

 けど。


「当り前よ。いい? 良い子でいるのもいいけれど、欲しいものは欲しいと言わなければ手に入らないのよ」

「そうですね。自分の立場を考えて動けずにいました。何もしなかったのに、エレンが跡取りになって婿を必要としていると聞いて、少し虫が良すぎるかな……とは思いますが」


 不自由な生活をさせるくらいなら――とエレンの思いを突っぱねたのに、その心配がなくなったら名乗りをあげるなんて、ちょっと図々しいけど。

 でも、チャンスがあるなら逃しなくない。


「構わないよ。君の立場では、どうしても選択範囲が狭まってしまうのは仕方ないからね」

「そうよ。あの子を幸せにできるかどうか考えた結果だと思うもの。でもね」

「小母さん?」

「幸せは人それぞれというのを覚えておいてね。身分や贅沢が幸せではないの。もしそうなら、あの子はアルドリッド公爵家との話に飛びつくはずでしょう?」

「……確かに。でも、しなかった」


 エレンは最初からアルドリッド小公爵と距離を置きたがっていた。

 貴族令嬢のほとんどが、彼の目に留まろうとしているのに。


「あの子はそういう子なの。自分が気に入らなければ、道に転がっている石ころと同じなのよ」


 小母さんがくすくすと笑う。

 それに追従するように、小父さんが。


「少し前は姉のローズの真似ばかりだったね。まあ、これについては私たちの教育のせいでもあったのだけど」

「そうね。いつまでも姉の後を付いて回り、迷惑をかけていて困った子だったわ。つい最近までそうだったのに、もう昔のことのようだわ」


 確かに今シーズンの最初の頃はそうだったと聞いている。

 俺と会ったときは、もうローズさんのものを強請るばかりの妹ではなくなっていたけど。

 最近になってローズさんから離れて、自分1人で立とうとしている。

 でもまだ危なっかしくて……傍にいて支えてやりたいと思う。

 エレンが俺を選んでくれるなら、なんだってやってやるさ。



誤字脱字報告ありがとうございます。

思ったより長くなりましたが、ニール一人称はこれで終わりです。

次回からエレン一人称に戻ります。

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