35.暴走しないでくれます?
思い悩んでいる間に、リアム様が手をこめかみに当てて、頭痛に耐えているようなポーズをしていた。
「どうしたの?」
気づいたら、わたし、リアム様に対して令嬢モードで話してなかったわ。
もう面倒くさいので、そのまま話すことにしてしまう。
「……エレン嬢、君のその治療方法が他の誰でも出来るようになれば、新たな魔法の使い方になる――というのは分かるか?」
「え、ええ。そうね」
「そうね――じゃない。世界を変えるような発想だ!」
「いえ、たかが切り傷の治療じゃないの? もっと深い傷も治療できるかは分からないし」
やってみろと言われても困るので、先に牽制しておく。だってグロ耐性ないもの。
悪いけど、重傷者のところに連れていかれて試されても困るわ。
「確かにそうだが、他の者が同じように出来るか――または、少しずつ傷の深いものの治療を行っていくとか、後、病気にも効くか――いろいろ試すことはある」
「あの、1人で突っ走らないで欲しいんだけど。あと病気は無理だと思うわ。傷は……なんとなく治り方が分かっているので出来たけど、病気はどうやって治すのかなんてわからないもの」
風邪1つとっても、細菌という目に見えない微生物のせいで起こるんだけど、その説明だって出来ないもの。また、その細菌の除去なんてやり方分からないし、除去出来れば治るか――と言われれば、それは違うと思う。
体が弱って免疫力が下がると風邪を引く可能性があって、元気な人は近くに風邪を引いている人が居ても移らないもの。
とはいえ――先ほどまでわたしに文句を言われていたのに、それを忘れて興奮しているなんて……大丈夫かしら?
でも子供のようにはしゃぐリアム様は新鮮で、突っ込みを忘れて見ていた。
「いや、でも新たな発見だ。私も怪我人がいたら試してみよう」
「ちょっ、待って! 他人で人体実験のようなことはやめてちょうだい!」
黙っていたら、人様の体で試そうとしてるわ。
わたしだって自分の体で出来るか試してみたのに。
どこまでも、人を使う気なのかしら?
「しかしだな、私は怪我をしないし」
「しないことはいいことだけど、人の体で試して何かあったらどうするの!? 少しは他人を気遣いなさい!」
この人ヤバいわ。ほっといたら本当にやりかねない。
もう、それからも止めるのに必死で、相手が公爵家嫡男なんてことはすっかり頭から消え、子供に説教するかのように危険性を説くことになった。
「あのね! あなたは公爵家嫡男という立場であり、他の人はあなたの言葉を拒否できるものではないの! あなたのほうこそ自分の立場を考えて動きなさいよ!」
一気に捲し立てると、息切れしてしまう。
肩で息をしていると、リアム様が感心した表情でこちらを見ていた。
「リアム様?」
「いや、意外と思慮深いんだなと。君に窘められるとは思わなかった」
「失礼ね!」
自分のことを棚に上げて、言うことはそれなのっ!?
なんかすごい疲労を感じるわ……。
「自分ではなく、他人を使う……相変わらず、他人を駒のように扱うのね! 本当に嫌な人!」
すでに言葉遣いはいつもの通りで、もう取り繕う気も起きない。
それに――
「もう1時間以上経ってるので、失礼するわ」
これ以上ここにいても、苛々するだけだわ。
それに――わたしが使った治癒魔法についても、考えなければならない、と思う。
まさか、この世界の魔法はもとになる何かが必要で――それが精霊だったり薬草だったり――魔力のみで魔法を生み出すことが出来ないなんて知らなかった。
前世で読んだ様々な物語のせいで、他の人よりもイメージ出来ることが多いのかもしれない。
他の人たちは、両親や家庭教師から教わる魔法の使い方で覚えるだけで、自分でイメージを膨らませてみることも少ないのでしょうね。
それが出来た一部の人たちが、歴史に名を残すような存在になれるのかもしれない。
……でも、わたしはそんな人間になりたくない。
前世の記憶を持つのは特殊かもしれないけど、わたし自身は何処にでもいる普通の女の子だ。
前世の記憶も、お姉様の幸せと我が家が没落しなければ、それでいい。
それが、前世を思い出してからの、わたしの1番の願いごとなのだから。
今回は短いけどキリがいいのでここまで。
次回は別視点になります。
誤字脱字報告ありがとうございます。




