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29.さて、カフェに行きましょう

2話くらい前からなので今さらですが…

リアムの弟ルカが登場したので、呼び方がこんな感じになってます。

リアム→アルドリッド小公爵

ルカ→アルドリッド公爵令息



「わたくし達の仲を取り持ってくれるのは嬉しいけど、エレンに迷惑をかけるわけにはいかないわ」


 やはり、お姉様はリアム様に対して憤りを感じているらしい。

 そして、わたしのことを気遣ってくれる。


「確かに小公爵のやり方には引っかかるものがありました。なので、小公爵との交渉は不成立です」

「エレンったら……」


 しかめっ面で言うと、お姉様は呆れた表情をした。

 確かに小公爵を相手に、伯爵家の次女が物言える立場ではないのは百も承知だけど。

 でも、譲れないものがあるし、裏取引のようなものだから、言える状態でもあるのよね。


「とはいえ、お姉様の恋を邪魔する気はないのです。ただ、わたしが代わりに家を継ぎますと自信――とまでは行きませんが、言える状態にならなければ、お父様も納得されない気がして」


 こんなことなら、勉強を怠らなければ良かったんだけど。それは今さらだから、今から挽回するしかない。

 お父様に相談する前に、お姉様に及第点をいただきたいものだわ。


「ありがとう、エレン。あなたの気持ちはしっかり伝わったわ。だから、あんなに勉強を頑張りだしたのね」

「はい。もう、隠さないで言ってしまったほうが、お姉様も安心できるかと思って。できれば、もうちょっと自信を持って言えるくらいになりたかったのですが」


 ようやく汚名返上し始めたばかりだから。それでも、お姉様が今を悲しむよりはいい。

 それに、お姉様は今、家を継がなければならないという洗脳まがいの状態にある。

 そうでない未来もあるのだと、今からでも少しずつ言葉にして、思考に絡まった洗脳の糸を解していく必要があった。


「お姉様。確かに小公爵とは合いませんでしたが、それでもこう考えてください」

「……どういう意味かしら?」

「ええ。小公爵やわたし――お姉様の恋を応援する者は少なからずいるということに」


 そう言うと、お姉様は目を大きく開き「エレン……」と呟いた。


「応援しているのがわたしだけなら不安ですが、アルドリッド小公爵が応援してるんですよ? それに、お相手は侯爵家嫡男です。うちは伯爵家――この2家に言われたら、言い返せませんよ。お父様との交渉で大きなカードになります。切り札と言えますね」

「エレンったら……」

「わたしはお姉様に自分の恋を諦めて欲しくないのです。わたしの思いを汲んでくれませんか?」


 少々ズルい言い方だけど、優しいお姉様はそう言われれば断れない。


「ありがとう、エレン」

「いえ、今までお姉様にさんざん迷惑をかけてきたんですもの。これくらいで無かった事にはできませんけど」

「いいえ。とても嬉しいわ。それに、昔のエレンもわたくしにとって大事な妹よ」

「わたしも、お姉様がとても大事です」


 そう言って、お姉様に抱き付いた。

 お姉様も同じように抱き返してくれる。


「エレンがここまで頑張ってくれるんだもの。わたくしも頑張ってみるわ」

「ええ。お姉様は自分の気持ちを信じて進んでください」

「ありがとう」

「……こんなことを言っていてなんですが――今日は家庭教師も来ないので、少し気分転換をしてきますわ」


 少しだけでも、お姉様の考えが変わってくれたと思いながら、お姉様が冷静になる前に、早めに出かけましょう。

 でないと、また目が赤いことに気付かれてしまうわ。


「まあ、エレンったら」

「わたしは逃げ癖があるので、時々息抜きしないと逃げたくなっちゃうんです」

「ふふっそう、気を付けてね」

「はい。じゃあ、お姉様、行ってきます」


 それにしても、コートを着たまま話をしていたから暑いわね。

 お姉様に軽く手を振って、玄関の扉に手を伸ばした。扉の開閉は軽く出来るようになっているのか、わたしでもそれほど力を入れることなく、すんなりと開く。

 普通の近世ヨーロッパあたりだと、こういう仕掛けもなさそうだし(人力?)、貴族令嬢のお出掛けには侍女や護衛が付くだろうに、1人ですんなりと外出出来る――漫画の世界万歳。

 きっと、現代日本の様子で漫画を描いたんでしょうね。漫画ではお姉様が、1人で出掛けたりしていたもの。(そして、わがままな妹は姉の後をこっそりとついて回ったのよね)


 大きく乖離してしまった漫画を、もう参考には出来ない。

 未来は自分の手で開き、足で歩んでいくしかない。

 その隣に――


 駄目だ。目頭が熱くなる。

 脳裏には馬車の中で戸惑った表情のニールが思い浮かぶ。

 やだなぁ、漫画では全然出てこないモブでもないキャラ――ううん、駄目ね。こういう考えは。

 漫画はお姉様が主人公だけど、それはあくまでお姉様に絞ったもの。わたしの人生はわたしが主人公なんだから、自分が幸せになれるように考えなければ。

 もちろん、お姉様が犠牲になるのは駄目だけど。


 そんなことを考えて歩いていると、すぐにノーリッシュ・カフェに辿り着いた。

 扉を開けると「いらっしゃいませ」という声が聞こえる。こういうのも日本がベースになっているって思えるわね。

 1人だと伝えてコートを預かってもらい、空いている席に誘導される。席に座るとメニューを手渡された。

 そういえば、前はリアム様が勝手に決めてたけど、今日は自分で決められるわね。

 メニュー表を開いて……ブラジル、キリマンジャロ、モカ……まんま、前世で飲んでたコーヒーの名前ね。地名でもあるんだけど……まあ、そこまでは考えてなかったんでしょうね。

 あ、トラジャがある。苦味が強いけど、酸味がないコーヒーだったはず。飲んでみたかったのよね。

 店員を呼んで、トラジャ・コーヒーと軽食のホットサンドを頼んだ。


 待っている間、近くにあったニュースペーパーを持ってきて一面から見始める。最近あった出来事が、お硬い文章で掲載されている――真面目な経済新聞だ。

 読み進めていると……あら、サザーランド侯爵って、アドルフ様のお家よね。どうやらアドルフ様とハリーズ未亡人との恋仲がバレてしまったらしい。随分、スキャンダラスな内容だと思ったら、すでに三面記事に入っていた。

 でも、そっか。アドルフ様は未亡人との関係がバレてしまったのね。早めに家と縁が切れて良かったわ。お姉様と婚約している間にこんな話が出たら、お姉様の傷になってしまうもの。


 そう思った時点で、店員がコーヒーとホットサンドを持ってきた。

 うん、いいタイミング。

「ありがとう」と伝えて、店員が去るとコーヒーに口を付けた。予想通り苦みが強めだけど、酸味を感じない、わたしにとって飲みやすいコーヒーだった。朝食を摂っていなかったのでホットサンドもより美味しく感じられる。中身はハムとチーズで、熱さによりチーズがとろけて糸を引くように伸びる。熱さに口の中が火傷しそうだけど、美味しい。

 少しだけお姉様を説得できたのと、美味しいコーヒーのおかげで、心が軽くなった気がした。


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