15.頑固頭を相手するのは大変です
「なるほど。君の言いたいことは理解した。しかし、挽回する気はないのか?」
あら。意外と食い下がるわね。どうしてもわたしにペイリー家を継がせ、お姉様を嫁がせたいみたい。
でも、そうは言われてもねぇ……。わたしの独断で決められることではないもの。
「もちろん、これから頑張りますわ。お父様にも家庭教師をお願いしております。でも時間がかかりますし、今までの行いのせいで、社交界では『わがままな妹』の名が独り歩きしていますし、お姉様に代わって領地経営をすると言っても、今の実力では信用してもらえないでしょう?」
前世の記憶を取り戻したからといって、たかがいちOLが領地経営とか無理でしょう。
そして、今から勉強しても、一度に全部覚えられるわけでもない。
わたしだって記憶を取り戻してから、自分でも勉強しているけど、そう簡単に出来るものじゃないと実感している。それらを踏まえたうえでの発言なのに、この人はどうしてもわたしに跡を継がせ、お姉様をお相手の方に嫁がせたいということばかり。
これ以上話し合っても無駄だと結論付けた。
「お話は平行線ですわね。わたくしとしては、お姉様のお相手の名前を明かしていただけないのであれば、これ以上のお話は不要だと思いますわ」
相手は公爵令息で、伯爵家のうちより身分が上――そう思って、我慢していたけど、話が進まないので見切りをつける。
言い切ると、残っていたフルーツタルトにフォークを入れ、一気に食べ始めた。
美味しいはずのフルーツタルトを味わう時間もなく、黙々とフォークを進めていく。ああ、今度は1人で来てゆっくりコーヒーとケーキを楽しもう。
リアム様のおかげで、美味しいケーキも半減ね。彼の話は正論で、わたしの不甲斐なさを突き付けられて複雑な思いだわ。
「まだ話は……」
話の堂々巡りでうんざりした顔で最後の一口を口に入れた後、
「お姉様をその方に嫁がせたいからと、わたくしに跡を継がせようと促すのであれば、今の時点ではお断りいたしますわ。その考えはないとは言いませんが、今のわたくしでは口に出せるものではありません。悪戯に混乱させるだけですわ。リアム様は、我がペイリー伯爵領まで混乱させるおつもりですの?」
「いや、そこまでは……」
鋭い視線を向ければ、リアム様は何か言いたそうだったがそれ以上は口にしなかった。
せめて歳が一桁の頃に思い出せていれば良かったのに。そうしたら、お姉様が嫁いでも良いように、お姉様と一緒に勉強を頑張ったし、運が良ければわがままな妹なんて言われずに済んだかもしれない。
でも、その頃に戻れる可能性はないので、今から出来ることをするしかない。
自分でも何度もそう考えたのだから。
まだ何か言いたそうなリアム様を置いて、立ち上がる。
「でしたら、リアム様に出来ることは、相手の方にも家を捨てる覚悟があるか、お訊ねすることだけですわね。そのほうが、お相手の方の本気度もわかりますわ。我が家のみに強いるのであれば論外です」
まだ何が言おうとしているリアム様を放って、わたしはさっさと退室してしまった。
もう面倒くさい。不敬とか言われてもどうでもいい。まあ、もともとこの話し合いは秘密裏にしたい傾向が見えたので、我が家に抗議は来ないとは思っているけれど。
お姉様の幸せは、その方に嫁ぐことなのかもしれない。けれど、お姉様は決して家のことを放置できる性格でもない。自分のみが幸せになることに、罪悪感を感じてしまうほど優しいから。
原作でも、ヴィンス様のもとでペイリー家および領地の事を聞いて、心を痛めるシーンがあったもの。
そういう意味では、わたしは原作どおりのほうが良かったのかもしれないわね。
ただ、わたしだけが『ざまぁ』されるのならいいけど、我が家の没落が領地にまで及ぶとなれば話は別になる。その未来を良しとしなかったから、ざまぁ回避に動いたのだし。
だから、お姉様が納得して、わたしを跡継ぎに変えるという流れにもって行きたいけれど……一朝一夕に行くわけではないのよね。……思わず遠い目になるわ。
色々考えていると明るい未来がなかなか見えなくて落ち込んでくるわね。嫌だわ。
考えごとをして立ったままでいるのを思い出して、廊下を歩いてお店の入り口のほうに向かう。予約された個室は奥の方だったので、カフェエリアまで結構あった。廊下からカフェエリアに出ると、一気に視界が開け明るく感じた。
そういえば、コーヒー豆とか買えるかしら? 買えるなら買って帰りたいわ――と思っていると、入り口から入ってきた令嬢に目が行った。
お姉様の友人である、アッシャー伯爵令嬢クラリス様だわ。
クラリス様とわたしはお姉様を挟んで会話をした程度で、仲が良いわけではないけれど……お姉様の友人だから、挨拶くらいは必要かしら? ちょうどクラリス様もわたしに気付いたようだし。
「あら、これは……ごきげんよう、エレン様」
「ごきげんよう、クラリス様。今日はお姉様とお会いする予定と伺っておりましたが」
「先ほどお別れしたの。ここにも誘ったのだけど、コーヒーが苦手らしくて」
「そうでしたか。お姉様は甘いものがお好きですから、コーヒーは少々苦手かもしれませんわね」
「まあ、そうでしたのね。でも、1人では淋しいから、お付き合いしてくれないかしら?」
「……わたしでよろしければ」
クラリス様がどういう思いでわたしを誘ったのかは分からないけれど、クラリス様にはご迷惑をおかけしたことがある。ここで謝罪してしまいたいので、付き合うことにした。
席に着いてからリアム様が出てきて、なにか言いたそうな表情を浮かべていたけれど、無視してクラリス様に以前のことを謝罪した。




