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14.お姉様の恋は困難そうです

「君の話は分かった。君としても思うところがあったのだろう」


 リアム様はわたしの話を素直に受け入れてくれた。

 それに対してどう思うかは別として。


「ありがとうございます」

「さて、君の姉君に対する気持ちは分かった。では、今の君は姉君が幸せなら素直に祝うのか?」

「お姉様が幸せになれる相手ならば、喜んで」


 漫画ではヴィンス・エアルドレッド侯爵令息と恋仲になるけど、漫画通りに行くのかは分からない。少なくとも、アドルフ様はすでに退場しているため、わたしとペイリー家に対する『ざまぁ』が無くなったからだ。

 いえ、完全に無くなったとは言えないかもしれないけど、そんな先までは漫画であらすじを知っていても見通せないから。


「リアム様は、お姉様が幸せになれる何かがあるとおっしゃっているんですの?」

「ああ。少なくとも、前の婚約者のような事はない。誠実な男性を紹介する事が出来る」

「それは……」

「ただし、相手は嫡男……言いたい事は分かるか?」


 リアム様の話から、ヴィンス様の事のように思える。

 漫画の知識からヴィンス様しか出てこないとも言えるけど。

 ただ、一応お姉様の現状を。


「嫡男……それでは難しいかと思いますわ。お姉様は、我がペイリー家の継嗣として育てられました。両親もいまだにそのように考えております。なので、たとえ良縁でもお姉様が素直に頷くかは分かりません」


 相手がヴィンス様なら、わたしは手放しで喜ぶけれどね。

 でも、先にアドルフ様が退場してしまったから、お父様はペイリー家に婿に来てくれる人を探しているのよね。

 漫画では、アドルフ様はわたしの婚約者にスライドし、ペイリー家を継ぐのもわたしになったから、お姉様はお嫁に行っても問題なかったけれど。


「それは分かっている。ただ、相手が強くローズ嬢を望んでいる」

「でしたら、まずは我が家へ婚約の打診を送るべきですわね。相手の方が嫡男だという事で、お断りさせて頂くかもしれませんが」

「そうならないよう、君に話をしている」


 なるほど。わたしの性格とか諸々を考慮したうえで、先に話し、面倒な芽を摘んでおこうというわけね。

 でも、お姉様は我が家の継嗣として育てられている。お姉様自身も、それを良く知っているから、お相手が同じ継嗣なら、頷かない可能性が高いのよね……。


「それは、わたくしに話す事でしょうか? 少なくとも、お姉様のお気持ちのほうが先ですわ。家を捨ててまで、その方と添い遂げる気があるのか……」

「お互い想い合っている……としたら?」

「まあ! でしたら、お姉様にだけでなく、相手の方にも同じ質問をいたしましたの?」

「同じ質問?」


 あ、これはしてないわね。

 前世より男尊女卑が強いこの世界では、女のほうが家を出るのが当たり前と言えば当たり前なのだけど……。

 でも、相手の覚悟ってものもあるでしょう?


「その方が、家を捨てられるかどうか――ですわ。我が家だけに訊くのはおかしな事でしょう?」


 一緒になりたいという気持ちがあるのなら、お姉様ではなく、相手の方が家を捨てる事だって考えなければフェアではないんじゃないの?

 リアム様がその方とどういう関係かは分からないけれど。


「なるほど。確かに、ペイリー家だけに継嗣である事をやめさせるのは一方的か」

「お姉様には、幸せになっていただきたいとは思いますわ。でも、お父様にとってペイリー家の跡継ぎはお姉様です。お姉様も同じように思っていると思いますわ。でなければ、お姉様の今まで頑張ってきた事が無駄になりますもの」


 幼い頃から厳しい家庭教師に付けられて、家を継ぐために勉強していた。それを他人が無駄にしてしまうのは、お姉様に対する侮辱でしかない。

 お姉様が自分からそれらを捨ててでも、一緒になりたいという人なら別だけど。

 お姉様の責任感の強さから、継嗣である事をやめたいと自分から言えるとは思えない。今までのわたしの態度や成績から言っても、わたしに頼む事はないように思う。


「お姉様には幸せになって欲しいですわ。だけど、お姉様の責任感の強さは、時に自分の幸せを置いていってしまうかもしれないですね」


 わたし自身も、今までの自分が学んだ内容から「わたしが跡を継ぐから、お姉様はお嫁に行っても大丈夫よ」とは言えない。お父様だって困るだろう。逆に、わがままな妹は、とうとう跡継ぎの座も欲しくなったのか――と言われかねない。

 こんな事なら、お姉様に何かあって大丈夫なように――と、わたしにもきちんと教育をしてくれれば良かったのに。勉強が嫌だと逃げていたわたしが言えることではないけれど、お姉様に何かあった時に、スペアとして使えるように教育させる必要はあったでしょうにね。

 まあ、お姉様の事を考えても答えは分かり切っているので、相手の方を訊ねる事にしましょう。


「それで、お姉様のお相手はどなたか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 まだ肝心な事を聞いておらず、真面目な顔をしてリアム様に訊ねた。

 リアム様は少し考えた後、口を開いた。


「その前に、エレン嬢に訊きたい。君はそれだけ気にしながら、自分が代わりに跡を継ごうと思わないのか? 姉の重荷を取ってやろうと思わないのか?」


 リアム様の問いに、わたしは眉をひそめた。

 ……痛いところをついて来るわね。

 考えた末に、わたしからは言い出せないと思ったんだけど。


「今のわたくしがどう言おうと、わがままな妹がお姉様の居場所まで奪おうとしている……としか思ってもらえないでしょうね」


 空に近くなったコーヒーカップをソーサーに置いて、リアム様を静かに見つめた。

 何が言いたいのか分からないけれど、前世の記憶が戻ってから何度も考えた事なのよ……。



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