13.人に言われるとムカつくんですよ
本題に入るべく、コーヒーカップを置くと、リアム様に向きなおった。
リアム様は、深く頷く。
「まずは、改めて言わせてほしい。王宮主催の夜会での出来事を謝罪させてほしい」
「それはお聞きいたしましたわ。謝罪は受け入れます。アルドリッド公爵令息」
「堅苦しい言い方はいい」
「ですが……」
「私の事はリアムと名で呼んでくれ。さて、話を戻すが、それだけではない。私はああする事でエレン嬢を見定めようとしたのだ」
「見定める……?」
どういうことかしら? お隣さんとして、わがままな妹がいるペイリー家をどうしようかと思っているのかしら? うちに婿入りする――お姉様の婚約者の斡旋を考えているけど、わたしがまた邪魔をすると考えているのか……。
「はっきり仰ってくださいませんか?」
「では失礼して……。君が噂通りの姉のものを欲しがってわがままを言う妹であるならば、今後、困る事があるんだ。そのため、夜会ではたまたまぶつかってしまったのを利用して、君がどういう人間なのかを観察させてもらったんだ」
リアム様の話の意味が分からなさすぎて、頭の中はハテナマークが乱舞する。
「そうなった理由は分かりませんが、それで貴方はどう思われたのですか?」
こうして話をしようと思うくらいだから、嫌悪感丸出しというわけではないだろうけど、釘を指すくらいはしそうよね。
早く結論を話してくれないかしら? と、コーヒーカップに残ったコーヒーの波紋を見ながら、小さくため息をついた。
「噂とは違うと思った。もし、噂通りのわがままな令嬢なら、メイド達の言葉に憤慨し、その場で罰を求めてもおかしくない。君も言っただろう? 『使用人は主の鏡』だと。確かに、あれはそのまま主人である私の失態――君は苦情を言って彼女たちに罰を求めてもおかしくはないのに、気分を害したが、それだけだった」
たしかに、主人たちの話に割って入るくらいの声量で聞こえよがしに言うメイドは、ああいった夜会に連れていくのに恥ずかしい存在だ。その家できちんと教育されていない事になる。首になったりしたら、いい紹介状は書いてもらえないでしょうね。
「わがままを言っていたという自覚はありますが、いい気分ではありませんでしたわね。正直、お姉様には多大なご迷惑をかけたと思いますけれど、他家に対してご迷惑をおかけしたことは少ないかと思いますわ」
お姉様が絡んだ時だけ、話を遮るような事をしていたから、完全に他家に迷惑をかけなかったと断言はできないのが情けないけど。
リアム様は「確かに」と頷いた。
「逆に言わせてもらえれば、君が言ったように、姉君だけは君のわがままに振り回されていたという事かな?」
「……そうですわね。否定はいたしませんわ」
どう取り繕おうとも、やってしまった過去は変えられない。お姉様には謝罪の言葉しかないし、これから変わったという事を自分の行動で示さなければならない。
ケーキに手を出そうと思い、フォークを手に持ったまま、自嘲してしまう。前世の記憶が戻って、ここが漫画の世界でお姉様が主人公だという事が分かったけれど、前世の記憶がない時のエレンもわたしなのだ。
前世の記憶が戻って、変わったのはお姉様に対して気持ちの表現の仕方だけだ。昔のエレンもお姉様の事は好きだった。好きすぎて、お姉様にとって代わりたいと思うくらいに。
漫画のせいで未来が分かって、お姉様に対する執着のような感情をもって行動していたらまずい事になると分かったくらいで、過去を顧みて、素直にお姉様の事を好きだと認め、幸せを願う――それが好きな人に対するものだと思うから。
そう思えるようになったくらい、エレンの性格は前世のわたしと大して変わらなかった。
「今はどう思っているんだ?」
「お姉様の幸せを」
リアム様の問いに、間髪入れずに答える。
本心で言っているのかという視線がリアム様から突き刺さる。それに臆さずにわたしもリアム様を見つめ返した。
「今までの事があるので、信じられないかもしれません。ですが、今はお姉様に幸せになっていただきたいですわ」
「どうしたら、急にそう思うんだ?」
まあ、さすがに信じないわね。わたしだって信じないもの。
「……少し前に、お姉様が元婚約者から頂いた物を欲しがって、誤って階段から落ちて怪我をいたしましたの。自業自得にも拘わらず、お姉様はわたくしの事をとても心配してくださったんです。そこで、気づいたんですわ。こんなわがままな妹でも、お姉様は愛してくださっている、と。わたくしがお姉様のものを欲しがっていたのも、お姉様が好きでお姉様のものを身に付ければ、お姉様のようになれる――そんな、幼稚な考え方からだったのです」
ここまで言って、区切ってコーヒーを口に含む。
少し温くなったコーヒーは熱いコーヒーに比べて飲み切るまでに時間をかけられるので、コーヒーの味をゆっくりと味わった。
「実際は姉の事が好きだったから、姉の真似をしていた……と?」
「言ってしまえばそうですわね。お姉様の事が好きだったけど、素直にその気持ちを表す事が出来なかった。両親のお姉様に対する期待を見ていて、お姉様は両親に期待されているのに、わたくしには何も期待していない――と、思ってしまい、コンプレックスもあったのだと思います」
わたしは自分の事ながら、今までしてきた事に対してため息をつくしかなかった。




