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8.決戦直前の地、ザナドゥ

まずは子供達の空腹を何とかしてあげよう。

サンクラの食べ物アイテムが手っ取り早いが、弱っている体にあまり重い食べ物で負担をかけたくない。


と、なるとやはり【通販機能】を使ってアマテラスのサイトをオープン!

さぁ子供達に優しく美味しい食べ物は……


目に飛び込んだのがいわゆる「フルグラ」。

よし、これだ。

栄養豊富、甘くて旨い、お手頃、三拍子揃ってる。

業界老舗で信頼のケルビー、フルグラ950グラム入りが937円。

よし、これを10……いや、ついでだから20袋買ってしまえ。

俺も食べたくなるだろうし。

さて、セットで牛乳は欠かせない。


アカデイ、お腹にやさしい牛乳。 氷印の人気商品。

これなら異世界チルドレンの体にも優しいはず。

まぁ調子悪そうな兆候が見えたらポーションに頼ってしまおう。

900ミリリットル、6本で2907円。

5セットほど買っておこう。


食器はサンクラのアイテムで問題無い。

さぁ、これらをテーブルの上に並べて、食べ方を説明。

少々子供は戸惑っていたので俺も一緒に食べる事にしてやってみせる。


「ほら、こうしてフルグラを好きなだけ皿にあけてな。 お好みの分量、牛乳を足すんだ。 初回だし、少しふやかしてから食べようか」


たどたどしく真似する子供達が可愛らしい。

食器を使うような食事すらままならなかったのだろう。

これからひとつひとつ覚えていけばいい。

ああ、牛乳こぼしちゃったな。

泣かない、泣かない。 大丈夫、怒らないよ。

まだたくさんある。 失敗は少しずつ減らしていけば良いのさ。

俺も今日、大きな失敗をしてね。

トレック少年にとても辛い思いを。

そして君たちに怖い思いをさせてしまったんだ。

だから一緒に学んでいこうな。


「さぁ、いただきますだ!」

「いただきます……?」


ああ、気にしない。 気にしない。

俺の出身地の挨拶みたいなものだから。

さぁ食べよう食べよう。


「美味しい! 旦那様、とっても甘いです!」


うん、牛乳かけると甘味が一層増すよな。


「細かく砕かれたフルーツが凄いです! こんな美味しい食べ物が食べられるなんて!」

「美味しくて何が何だか分からないー」

「すっごく柔らかい! でも焼いた麦みたいな香ばしさもあって、フルーツの酸っぱさと合わさってもっと美味しくなってる!」


誰だ? 食レポの才がある子がおるな?


「ははは、そうか、美味いかー どんどん食べろ。

お代わりもたくさんあるぞー」


あまり一度に食べさせるのも負担が大きいかな?

まぁ慎重に見守ろう。


町一番の冒険者パーティ、ヴォーパルウエポンのリーダーが来て相談してくる。


「旦那、そっちもいいが今夜の事をそろそろ詰めたい。 こっちはうちのメンバーとギルド職員に任せてくれ」

「ああ、分かった。 今いく」


名残惜しいがのんびりしている余裕も無い。

バンデシネの奴等は今夜中に滅ぼす。

それが子供達とプリシラさんとその商会を始めとする町の皆のためだ。


嘘だな。


俺が奴等の存在を許せないだけだ。

もはや心底憎いのだろう。

綺麗事で済ませても仕方ない。

とにかく根絶やしにしたい。

こいつらが生きていると心から笑えない。


ギルドの会議室をまた借りてヴォーパルウエポン、そして先の作戦の指揮を執ったバトルアクスの2パーティ、それに記録係としてすっかり俺担当になったらしい茶髪美人な受付嬢のシエルさんを加えたメンバーで作戦を話し合う。


シエルさんが涙目で言う。


「あ、あのぅ。 こういったウェットオペレーションをギルド内部で話し合うのは正直ちょっと……」

「ウェットオペレーション?」


苦笑いしながらヴォーパルウエポンのリーダーが教えてくれた。


「汚れ仕事。 非合法任務の事さ。 相手が賞金首とは言え、表面的には町中で人殺しをするわけだしな」

「なるほど。 料金はやはり跳ね上がるか」


「ああ、口止め料が上乗せされるしな。 ギルド経由で普通の討伐任務の10倍にもなる。 旦那、さっきの救出ミッションも大盤振る舞いだったが懐は大丈夫かい?」

「余裕だ。 奴等を今夜中に屠れるなら金貨の1万や10万は安いものさ」


先の救出ミッションでは87人動員して諸々の費用込みで金貨400枚ほどだった。

成功ボーナスを最大に振る舞ったがための値段だが。

ちなみに3名が姿をくらまして装備を持ち逃げ中。

ギルドが威信をかけて捜索チームを即座に編成して解き放った。

ギルドの職員が平謝りをしてきたが謝罪の必要無しと伝えた。

ミッションと貸与装備のバランスの悪さ、管理の甘さは依頼主である俺自身の責任感が大きい。

おかしな気を起こしてしまうのも無理はない。

今回はもっと気を付けよう。


今夜のバンデシネ殲滅作戦は確実な戦闘が発生するから依頼料もそれぞれ倍、非合法任務なので更に10倍だ。

その代わり事が済んでからも守秘義務が継続し、漏らせば追っ手ではなく刺客が差し向けられるとか。

契約魔法で縛られるため意図的にでなければ情報を漏らす確率はとても低いが、やろうと思えば手段はいくつもある。


ヴォーパルウエポンのリーダーが突入チームの総指揮、バトルアクスのリーダーが奴等の縄張り封鎖、街道封鎖を担当。

参加メンバーは103名。

前回の87名から3名減った分、事態を後から知ったパーティを追加で勧誘。

ちなみに非合法任務なので今回は強制力無し。

本当に料金の合計は金貨1万枚を余裕で越える。


装備の貸与は前回と同じに加え魔法の武器・防具を追加する。


「旦那、やり過ぎだぜ。 火力過剰だ」

「本当なら俺自身で幹部と親玉をくびり殺す所を譲ってるんだ。 あんた達はもちろん、封鎖やバックアップメンバーにも不要な犠牲と怪我人は出せない。 この条件が飲めないなら俺が出るまで」


「分かった、分かった……怖えなぁ」


ステータス偽装は完璧なはずだが?

まぁ既に見てしまった人には意味無いか。


「状況はとても良い。 例の孤児の少年が命懸けでばら撒いた偽情報が功を奏して、奴等は幹部もバンデシネ自身も屋敷に籠城の構えだ。 罠は多いに違いないが、一網打尽の好機だ」

「そうか……やはり俺はトレック少年に守ってもらったんだな……報いねば」


それぞれの動くタイミング、連絡など実運用レベルになると俺が口出しすべき事は無い。

戦術家でもないしな。 本職に頼るのが一番だ。


貸与用の魔法武器と防具をアイテムボックスから出す。

各人で装備が違うからまとめるのも楽じゃない。

突入チームには更に探知と罠検知のアイテムも配らねば。

後は……


「世界が終わる時って、こんなんなんかねェ……」


黙々と出された魔法装備と道具の山を見て、ヴォーパルウエポンのリーダーがしみじみつぶやいていた。


こんな程度で世界は終わらんよ。

サンクラの異界侵攻イベントとか全身廃課金装備でも一瞬で蒸発するからな。

エリクサーのポーションバリア張りながら陣を築くんだからな。

……まぁ、ゲームの時と比べても仕方ない。

今やこれは現実で、俺は極悪人相手とは言え自分の意思で大量殺人を巻き起こすのだ。


「まぁ突入チームは+4武器でいっか……+5無いと半端で合成の手間が面倒くなんだよなぁ」

「旦那が何を言っているか分からねぇが、国宝級の武具を安物扱いしているのだけは理解できるぜ……」


独り言を聞かれてしまった。

というか+4武器が国宝級に見えるのか……

困ったな。 無課金でも合成と確率で+20までは当たり前なのだが。

課金アイテムを惜しげなく投入すれば強化限界の+30までいくのも夢ではない。

そこからスキルや魔法や特性のエンチャントが始まって面白くなってくるのに。

まぁ課金アイテム山ほど突っ込んでたら財布が空になるから+20そこそこで妥協するのが常だが。



打ち合わせが終わり装備をひとしきり貸与する頃にはもう夕方。

すぐに作戦決行に移る。

頼んだ。 任せたぞ。


夜になると町は本当に暗くなる。

街灯は無いし、かがり火は防犯の要所でしか焚かれない。

燃料費がばかにならないから庶民は太陽と共に起き、日が沈むと共に寝る。

酒場や食堂、売春宿くらいしか開いてない。


だが今夜のザナドゥは少々騒がしい。

冒険者が100名動いてる。

この2日の騒動は風より早く町を巡り、今夜何が起きるのかを誰もが知っている。

バンデシネが滅ぶか、冒険者が駆逐されるか。

ザナドゥの運命の分かれ目だ。


とは言っても俺にできる事はもう何も無い。

余裕で完勝できるだけの装備と探知アイテムは出して使い方もしっかり教えた。

後は上手く活用してもらうだけだ。


トレック少年達の所に戻って一緒にいるのが一番だ。

大会議室でキャッキャと楽しそうに遊んでいた。

フルグラは全部食べたようだな。

じゃあ空き箱なんかのゴミを回収……おや、少し足りないな。

うん、後ろの子がいくつか隠し持ってるな。

だが、同じ間違いを2度連続でするわけにはいかん。

その隠し持ち担当の男の子の一人を手招きして呼ぶ。


「大丈夫。 怒らないよ。 ええと、君の名前は……?」


その6才くらいの子はバリーと名乗った。

埋葬(バリー)か……忌み名だな。

病気や不幸が寄り付かないなように幼少時に汚い物や忌まわしい物の名称をあえて名前にする風習。

そのうちきちんとした名前を付けてあげないとな。

バリーが食べ物を隠したのは昨日のトレック少年と同じ心理で皆で打ち合わせてやったのだ。

バリーが俺に呼ばれた時に皆が悲鳴みたいな声を小さく漏らしたからな。

大丈夫、今度こそ。


「分かってるさ。 まだ、助けたい仲間がいるんだよな? 大丈夫だ。 食べ物はまだまだいっぱいあるんだよ。 ほら」


アイテムボックスからパンをたくさん出す。

パフォーマンスだから大会議室の巨体テーブルからこぼれ落ちそうなくらいに山盛りに。

子供達が歓声を上げて喜ぶ。


「ははは、まだまだあるから食べてもいいぞー それともまだお腹空いてないかな?」

「いつでも腹ぺこです!」「パンならいくつでも!」


皆が口々に食欲の旺盛さを主張する。

まだフルグラ食べてから3時間くらいのはずだが……

まぁいい。 腹いっぱい食べさせると約束したからな。


「よーし、じゃあ好きなだけ食べてくれ。 おっと、飲み物も出さないとな」


木のコップと瓶詰め果実ジュースを人数分出す。


「ご主人様、このパン凄く美味しいです!」

「おお、良かった。 気に入ったか。 いくらでもあるからなー」


子供達にコップとジュースを配りながら自分でもひとつ食べてみる。

うん、普通。 ゲームアイテムだしこんなもんか。

いや、ちょっと味気無いかな。

ジャムも出してあげよう。

子供達が絶叫しながら喜んだ。

甘味とパンの旨味のシナジーがそうさせるのだ。

あまりの興奮に廊下側にいた護衛の冒険者が飛び込んできたほど。

謝って何となくイチゴジャムをパンの裂け目に大量注入したものを手渡した。


程なく廊下から「あっまぁ!!」という絶叫が聞こえる。

その声の大きさに思わず全員無言になって互いに見つめあって思わず笑い出してしまう。


これからこんな時間をたくさん紡いでいこう。


「で、助けたい仲間ってのはどこにいる子達なんだい? 今夜はもう暗くて無理だが、明日食べ物を皆で持っていこう」

「はいっ! 場所は町の南門を出て少し歩いた所にあるザナドゥ孤児院です」


なるほど道理だ。

ここにいる子供達はストリートチルドレン。

しかし赤子と幼児がいない。

一番下で4才くらいの女の子がいるくらいだ。

ならばそこから下の子が居る場所があって当然。

しかしトレック少年達であの状態だったのだから、孤児院の方も切羽詰まっているに違いない。

早急に支援にいこう。


「じゃあ少し身なりを整えようか。 君たちに服をプレゼントしよう」


まぁ通販サイトのお仕着せになるけど許してね。

今のぼろ布を被ったような状態では可哀想というもの。

子によっては靴すら無くて裸足だったり、ぼろ布を足に巻いて植物の蔓で縛ってたりする。

そりゃあ凍死も免れえまい……

「アマテラス」から子供服を選んで片っ端から買う。


服と靴を試着しては歓声をあげる子供達の姿を眺める。

今日はひとつ子供達に幸せと安心を与えられたように思う。

最も朝にトレック少年を巻き込んで、文字通り死ぬ程辛い目に合わせてしまったのだが。


ひとつミスして取り返して……

やりたい事がいくつも増える。

ふと冷静になればバンデシネの討伐作戦が気にもなる。

町一番の冒険者パーティ、A級ヴォーパルウエポンのリーダーも太鼓判を押してくれたし大丈夫だろう。

おとなしく作戦完了の報告を待って寝るとしようか。

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