9.バンデシネの滅ぶ地、ザナドゥ
A級冒険者パーティ、ヴォーパルウェポンのリーダーであるダスティン視点です
ザナドゥ一番のA級冒険者パーティ。
そのリーダー、巨剣のダスティンなんて皆から持ち上げられても実態はこんなもんだった。
バンデシネの横行に対抗しきれず、護衛すべき対象の安全と引き換えに荷物を全て明け渡した上に土下座をした事もあった。
作り笑いで町中での悪事を見逃さなければならない日もあった。
バンデシネの下っ端が動いてるだけの事件なら解決できたが、それは奴等にとって重要ではない件だからで幹部が表に出て来たらもう終わり。
幹部ですら6人全員がS級冒険者と同等以上だから一対一では絶対勝てない。
仲間の死を覚悟しないと一人の幹部すら撃退できない。
ましてや幹部が二人以上出て来たら降伏しか無かった。
町の皆は優しく、あれは仕方ないと言う。
言葉の外で、せめて対抗できてるポーズだけでもしてくれと言われている。
冒険者として、ザナドゥの町で育ち町を守っているつもりの俺は人としての尊厳を、冒険者の誇りを失ったまま妥協の沼に浸かるしかない日々だった。
パーティメンバーと共に泣き叫んだし、命懸けのトレーニングもやった。
だがバンデシネの奴等には届かなかった。
メンバーの一人で妻でもあるマーテルが妊娠し、喜びと共に休養に入った。
余計に無茶はできなくなった。
しかし3ヶ月後に事態は急変する。
バンデシネの精鋭である騎馬隊を一瞬で壊滅させたという魔法使い。
なるほど、ドラゴンが可愛く見えるくらいの生命力と魔法力のオーラが見える。
呑気そうな表情がオーラで見辛いくらいだ。
ギルド受付嬢のシエルも震えている。
シエルも一般人ながら相手の強さが何となく見えるようで涙目になっている。
ギルドに巨人が来たように見えている事だろう。
この魔法使いの旦那がいてくれれば、バンデシネの奴等に対抗できるようになるかも知れない。
情けないが幹部が出て来たら対抗しきれない現実を伝える。
護衛対象に嘘はつけない。 悔しいが。
そこで旦那が出した支援装備というのが全て国宝級で驚く。
こ、これがあればバンデシネの幹部を倒せる!
2対1でも楽勝な気がするぞ!
今すぐ倒しにいきたい誘惑に駆られるくらいだ。
メンバーも皆そんな感じに目をギラつかせていた。
だが事態は悪い方向に転ぶ。
旦那が初めてザナドゥで得た友人だと言う孤児の少年がバンデシネの見せしめにされた。
旦那は怒り狂いバンデシネを自分が滅ぼすと言って外へ飛び出そうとする。
命懸けで止めた。 バンデシネめ!
最悪の筋書きを仕立てやがって!
正確に魔法使いの弱点を攻めている。
冷静さを失った魔法使いは脆いからな。
必死、いや決死の思いで説得し、冷静さと譲歩を引き出した。
正直、一世一代の説得だと思う。
逆にここでバンデシネへの勝利を確信した。
孤児の少年達の救出チームを編成してもらう。
いや、ちょっと多過ぎでは……?
俺達に渡した装備と同じものを貸与している。
いや、ちょっと戦力過剰では……?
作戦は無事成功し、旦那をおびき寄せ暴走させたかったバンデシネとにらみ合いながらも孤児達を全員保護した。
孤児の少年によると旦那の能力について罠を張って捕らえる系だと思わせたとの事。
なるほど、だからにらみ合いになっても幹部が一人も出て来なかったわけだ。
自分達の得意戦法で負ける訳にはいかないからな。
穴熊になるしかない訳だ。
この孤児の少年、何て知恵と機転だ。
勇者とか英雄という言葉はこの少年のためにあるのだろう。
俺達みたいなちょっと強いだけの弱虫のためではないはずだ。
そしていよいよバンデシネ殲滅作戦が始まった。
怖い。 いや、バンデシネの奴等じゃない。
俺自身が怖い。 全身国宝級以上の装備だ。
旦那は+4装備だと言っていた。
普通の魔法装備が+1だとしたら、更に3段階上のクラスなのだろう。
もはや確信するがこの状態では幹部すら雑魚。
親玉のバンデシネがどこまで粘ってくれるか。
危ない危ない。 考えが既に呑まれてる。
粘ってくれるか、じゃない。
普通に殺すだけでいいんだ。
分不相応の力は身を滅ぼす。
早く終えて旦那に装備を返したい。
スラムなのに大豪邸、そこがバンデシネの本拠地。
打ち合わせ通り、味方パーティが屋敷を包囲し陣を狭めていく。
各パーティに配布された【罠探知の竿(ロッド オブ トラップデテクティング)】で感知した罠がひとつ、またひとつと解除されていく。
罠の形まで丸分かりなのだからスカウト系でなくとも解除らは容易い。
町の要所や入場門や街道を封鎖しているパーティも上手く配置した事だろう。
突入チームの他2パーティのリーダーと顔を合わせ、頷き合う。
頃合いだ。
俺達がバンデシネと幹部のいる地下遊戯室。
1階2階を他のパーティに任せる。
合図と共に1階制圧パーティが突入。
待ち構えていたはずのバンデシネの手下の混乱が聞こえてくる。
何重にも仕掛けたはずの入り口のトラップがうんとも寸とも作動しないからだろう。
【罠無効化の魔法棒(ワンド オブ トラップネゲイション)】
なんてアイテムだ。 使いきりとは言え罠を近づかずに無効化できるなんて。
入り口を確保した先行パーティの合図で2階制圧パーティが突入する。
まだだ、俺達の出番まで後少し。
仲間もソワソワしている。 うずくよな。
入り口確保担当から合図が入る。
さぁ、仕上げだ。
血祭りになったロビーを駆け抜け右手の地下遊戯室に繋がる部屋へ。
【罠感知の竿】と【罠無効化の魔法棒】で入り口も隠し扉も罠を丸裸にして無力化。
チャージ使いきりアイテムとは言え、魔法ってここまで便利なのか。
そう思いつつ【全道検索の巻物(スクロール オブ パスファインダー)】を使う。
巻物の結び目を解くだけでその場周辺の全ての地形、建物の形、抜け道が丸分かりだ。
しかも分からない抜け道の突破法とかがあると、巻物上にステファニーを名乗る可愛らしい美人の絵が出てきて懇切丁寧に教えてくれる。
緊張感が台無しになるくらいだ。
罠を無力化し、メンバー全員で地下遊戯室へ。
さっそく投げナイフで歓迎ありがとう。
だが【飛び道具無効化の腕輪Ⅴ(イミューン フロム ミサイルウエポン5)】の前には意味が無い。
毒もたっぷり塗ってあったのだろうが、当たらない事にはな。
仲間のスカウトであるミスティなんかは律儀に全て指の間で受け止めた。
近付くと飛び道具無効化の魔法効果が発動するから手を精一杯伸ばして掴んだのだ。
この二重に凄い神業にバンデシネ達は気付く事すらできない。
しかも鼻で笑って足元に放り返しつつ手をクイックイッ。
いくらでも投げてこい、と挑発までしている。
幹部の一人、投げナイフ使いのダムドが激昂するも、バンデシネの一喝で収まる。
「おう、ダスティン。 ちっと会わねェうちにエラく出世したみてェじゃねえか。 俺の部下に土下座までした坊やがよォ」
「よう、バンデシネ。 ずいぶん不機嫌そうだな。
得意の罠はひとつも上手くいかない。 ヤキが回ったとはこの事だな。 運も神も、全てがお前を見放したのさ」
「ふ、何やら小細工が好きな魔法使いを味方につけた、と聞いたがこういう事か」
「魔法使いの旦那も凄いが、お前達がヤキを入れた孤児の少年の勝利だ。 彼の命懸けの情報操作でお前達は穴熊になった。 罠は全て魔法で無効化されるのにな。 俺達や魔法使いの旦那以前に、お前は少年の勇気に負けたんだ!」
「何だとォ……!? ずいぶんとナメた口をよぉ」
どちゃり
やけに水っぽい音がした方を振り返ると、仲間の軽装魔法剣士ストライドがバンデシネ幹部の一人、影使いのブロッケンを5つに切り裂いていた。
「リーダー、話長いよ。 俺の仕事終わっちゃったぜ」
ああ、何か緊張感とか因縁とか全て台無しだよ。
でもそれでいい。
散々プライドや尊厳を踏みにじられてきた俺達にそういうカッコ良さなんて不要だ。
バンデシネ一味を全滅さえさせられるのなら、後は何だって良い。
「な……ブロッケンが一瞬で!?」
「悪いな。 もうお前達程度の賊に構っていられる時代は終わってしまったようだ。 積もる話が無い事もないが、早く決着を──」
ストトトトッ
小気味良い音がしたかと思うと、バンデシネ幹部の一人である幻術使いのファンダスムに10本近い矢が。
「リーダー、だから遅いって」
パーティメンバー弓使い、ハーフエルフの血をひくラーラアルカスが弓を下ろしながらため息混じりに言った。
あれか、獲物を前に長々としゃべる奴はド三流、って奴だな。
「もう誰もお前のために時間を費やしたくないようだ。 決着しようぜ、バンデシネ」
「わ、分かった。 ここは俺達が引こうじゃねェか。 なぁ、今まで俺達はバランス取ってやって来ただろ? 突然これは無いだろ」
「土下座までさせて何がバランスだ、笑わせる。 今日まで何千人殺してきた? 万人か?」
「や、やめろォ!」
両手剣、旦那に貸与された+4とやらをゆっくり振りバンデシネに受け止めさせる。
バンデシネも短めの幅が広い肉切り包丁のような両手剣を使う。
体格は2メートルを越え、半身に身体強化のタトゥーを刻み込んでいる筋肉お化けのバンデシネ。
だが、俺の両手剣がバンデシネの剣をゆっくり割る。
「ま、待て落ち着け。 話し合おうじゃねェかダスティン。 ぐあっ!」
奴の剣を割り俺の剣はゆっくりバンデシネの左肩に食い込み切り裂き始める。
力は大して入れてない。
剣速なんていうほどにも動かしてない。
絶妙な火加減で焼かれた肉にナイフを入れる程度の感触。
「あががががッ! や、やめッ! 死にたくねェ! 助けてく──」
「今さらお前がそれを言うなッ!!」
一気に力強が入り、バンデシネの身体を左肩から袈裟斬りに真っ二つ。
出来の悪い彫像のように、左肩から頭部にかけてがどちゃっと床に落ちた。
「言い忘れていたが、俺の弟は賊に殺されてるのさ。 明らかになぶり殺しにされてな。 まぁこれも今更か……」
振り返ると幹部は全員倒されていた。
隠し通路も開けられて潜んでいた刺客も倒されている。
「やれやれ、一番仕事が遅いのは俺かぁ」
「リーダー、ご託が多い」
ピシャリとミスティに言われる。
さぁ終了の合図だ。
包囲側のパーティはもうひと仕事だが。
【魔法の笛】を取り出し強く吹く。
強く一回。 完全討伐の合図だ。
取り逃しがあれば2回、退却なら3回、全面敗走なら4回と決めていたが必要無くて良かった。
48時間以内に笛に触れたものだけに届くという魔法の笛。
これもかなりのお宝だ。
「うるせーーーー!」 「耳が! 耳がぁー!!」
あちこちから怒声と悲鳴が聞こえてきた。
なるほど、かなりの効果らしい。
しかし最後まで俺達はしまらないな。
こんな血なまぐさい仕事、締まらない形で終わった方が良いのかも知れない。
残敵掃討。 それすら魔法の道具でカバーできた。
できてしまった。
【敵感知の薬(ポーション オブ エネミーデテクション)】
接続時間が10分程度と短いのでパーティで一人ずつ飲むように言われてたアイテム。
密かに逃げ出してるチンピラも全部丸裸だ。
文字通りネズミ一匹逃げられない。
だが仕方ない。 皆バンデシネの奴らには散々な目に合わされてきた。
ここで発散させないと歪む。
末端のチンピラまで血祭りになっているのはその反動でしかない。
血の一夜が明けた。
バンデシネ一味の首を綺麗に狩り、ギルドへ運ぶ指示を出す。
後は火事場泥棒を防ぐために見張りを配置し、奴等の財産をまとめる。
そんなこんなでギルドに戻れたのは朝だった。
ギルドへ戻る途中にやたらテンションの高いパーティを見かける。
確かあれはDランクの……名前は何だったか。
チンピラをわざわざ一人捕らえている。
しまった!
「ミスティ、ラーラアルカス! 俺が全ての責任を取るからあのチンピラを殺せ! いや、殺してあげろ! 誰も幸せになれないぞ!」
あれは孤児の少年を直接いたぶったチンピラに違いない!
旦那への「貢ぎ物」だ。
しかしミスティもラーラアルカスも、他のメンバーも悲しい顔で首を横に振る。
くそっ、ここで殺してももう旦那の不興を買うだけか……
彼等は意気揚々と旦那と面会し、チンピラを引き渡した。
旦那から冷たいオーラが立ち昇るが見えるぜ。
だから嫌だったんだ。 今更だが。
「お前がブラッキーか。 トレック少年を死に際まで痛めつけたらしいな」
ブラッキーはぼろ布で猿ぐつわをされていたので反論できない。
旦那は静かに手をかざし【枯死の指先】とだけ唱えた。
体格だけはバンデシネ並みだったブラッキーはみるみる間に痩せ枯れ、老人の成れの果てのようになった。
二百年生きてもここまではなるまい。
しかもギリギリ死んでない。
立ち上がる事すらできないだろうが。
「死ぬ迄のわずかな間、後悔するといい」
旦那は興味を失ったかのように孤児達の所へ戻っていった。
誰も声をかけられなかった……
旦那はブラッキーを捕らえたパーティに金貨3百枚ずつの追加報酬を弾んだそうだ。
首の検分やら報告書の作成やらで皆忙しくギルドを駆け回り、報告は夕方になった。
バンデシネ一味の死亡者571名。
町の表向きの人口の3%にもなる。
こいつらが市民登録をしてたはずもないから人口にはカウントされていないが。
この数値はバンデシネ一味の完全壊滅と、むしろバンデシネとは言えない程度のチンピラ未満まで含まれている事を意味していた。
時代の区切りには血の生け贄は必要なのだ。
支援装備を持ち逃げした者は5人出た。
ギルドは激昂し、討伐回収チームを編成し放った。
旦那の機嫌次第では確かに何が起こっても不思議は無い。
ましてやブラッキーの末路を見てしまっては、ギルド職員は全員生きた心地になれるはずがない。
旦那はバンデシネの財宝をいらないから参加者全員で分けるように、とか言い出した。
さすがに不味い。
全部で金貨5万枚はゆうに越える試算。
頼み込んでみたら「好きに分配していいよ」との言質があっさり取れた。
美術品や宝飾品は換金に時間がかかるし変動的なので旦那自身へ。
金貨銀貨の現金だけ参加者で分けさせてもらおう。
それでも金貨3万枚少々あり、冒険者達にとって莫大な収入となった。
町も大いに潤う事だろう。
一番潤ったのはギルドのはずだが、彼等は今それを喜べる状況には無い。
合計8名もの装備持ち逃げ犯を捕らえない限り、ギルド職員に安寧の日は訪れない。
旦那自身の取り分も黒字になってくれそうで助かる。
一番の功労者で発起人だからな。
後は持ち逃げ犯からいくつ取り返せるかだが……
あまり手の届かない事を心配しても仕方ない。
俺は旦那の性格をもっと知り、注視する形で貢献するとしよう。
恐るべき力と無限の魔法道具を持ちながら、どこか浮世離れして地に足の着いてない感じの男。
それでいて身内が傷付くと突然神のごとく怒り狂う。
不安定でとらえどころが無い。
目を離してはいけない存在だ。




