7.反撃の地、ザナドゥ
プリシラさんは泣きながらトレック少年の身に起こった事を説明してくれた。
「トレック少年に誓ったんです。 旦那様に心配おかけしないように、と」
「分かってる。 俺はトレック少年に守ってもらったんだな。 俺が守るべき立場だったのに」
行こう。 トレック少年の元へ。
「だっ、旦那! 待ってくれ! どこへ行くつもりだ!」
「トレック少年の所に決まってる」
「バンデシネの奴等が手ぐすね引いて待ってるぞ!
これは罠だ!」
「分かってる。 俺は、俺なら奴等を一人残らず殲滅できる。 自分の不甲斐なさに八つ当たりをしなきゃ気が収まりそうにない。 それとも、俺はそんなに弱そうに見えるか?」
「とんでもねえ。 初見から旦那が化け物級だってのは分かってたよ。 これでもドラゴンと遭遇した事があるんだぜ。 逃げるのが精一杯だったけどな。
旦那の生命と魔力のオーラはドラゴンより桁違いに上な事くらい見れば分かる。 そんな旦那が力を見せつけちゃマズい!」
「どう不味い、と!?」
「バンデシネの幹部は地下に潜ってゲリラ戦に入る。
犠牲になるのは町と住人だ。 毎日家が燃やされ街頭に生首が並ぶ戦いになる。 それだけは勘弁してくれ!」
「くっ、あんたの言う通りだ……分かった、冷静になる」
A級冒険者、ヴォーパルウエポンのパーティは露骨に安堵のため息を大きくついた。
ギルドのカウンターからおろおろしながら見守っていた受付嬢のシエルさんに駆け寄る。
「緊急の救出ミッションを発注したい! 人数不問で何人でも! 謝礼も当然最高額だ!」
「はっ、はいいいぃぃっ!」
シエルさんが涙目でバタバタ走り回り職員をかき集め周知、職員が威勢良く返事して散る。
シエルさん自身は書類と司令塔でカウンターに陣取る。でも涙目。
ほどなく大きな鐘が鳴らされる。
ヴォーパルウエポンのリーダーが教えてくれるには準戦時召集だそうだ。
モンスターの大挙や戦争本番が戦時召集だから、それに次ぐ緊急事態という訳だ。
まぁ一歩間違えば町がマフィアとの抗争の舞台になるわけだから大げさという事も無い。
死ぬほど深呼吸を繰り返して落ち着けと念じまくって、ついでに【平穏の指輪(リング オブ カーム)】から【静謐】の僧侶魔法を使用する。
気休めになる。
当分この指輪は付けておこう……暴走しないように。
職員は飛び回り、冒険者達がそれぞれ70人くらい集まる。
救出対象やルート、条件を諸々出して説明する。
事態は一刻を争う。
俺からは昨日ヴォーパルウエポンの皆に貸し出した装備と同じものを任務中に貸与する事を約束した。
後はエリクサーを1本渡し、いの一番にトレック少年に飲ませるように、と。
あと俺にできる事は何だ……?
「やり過ぎだ、旦那。 国崩しの兵団みたいになってるぜ。」
「ただの抑止力だ。 本番は救出が完了してから、今晩の決行になる。 こっちで俺も暴れるとしよう」
「頼むから勘弁してくれ……旦那が凄むだけで煮詰まったオーラが視界を歪めてくる。 今の旦那がどんな顔をしてるのかすら分からん」
装備を配布し、チーム配置を行う。
スラムに向かうのはB級パーティ3組、C級1組。
隠れ家に1組入ってもらい、2組が建物と周囲を警戒、残り1組が中距離からカバー。
スラム入り口あたりからCDEF級のパーティをギルドまでの要所に配置。
総参加人数は87名になった。
頼む。 異世界で最初の友人なんだ。
とても優しい子なんだ。 できれば嫌われたくない。
恐れられるのは仕方ないが……
「そんな顔しないでください、旦那様。 これだけの支援があれば成功は間違いありません。 後はどれだけ事を荒立てずに終えられるか、だけです」
今回の任務の総指揮を執るB級パーティ「バトルアクス」のリーダーが太鼓判を押してくれた。
信じる。 固い握手を交わし出立する彼等を見送った。
「旦那、一旦中に入ってくれ。 さすがに3時間はかかる。 入り口に俺達のうち2人が立っているから帰ってきたらすぐ知らせる。 その怒気混じりのオーラを往来で振り撒かれたらたまらん。 体の弱い者は当てられたら倒れるぞ」
ぐぬぬ。 無駄に高い生命力と魔法力が裏目に出る事もある。
受付ロビーの脇にある待ち合わせや打ち合わせ用のテーブルで待つとしよう。
ギルドは閑散としている。
動けて戦闘ができるパーティはほとんど動員してしまったから。
採取特化や調査、雑用系などに向いたパーティしか残っていない。
ソワソワしながら待ってると茶髪美人受付嬢のシエルさんが涙目でVIPルームへ案内するからそこに居てください、と頼まれた。
相当威圧感があるらしい。
何か高級な調度品の部屋で逆に落ち着かないが、ただの隔離なので我慢。
高級なお酒も出されて、お願いだから飲んでくださいと請われる始末。
だいぶ落ち着いてきた気がするのだが……
仕方なく慣れないワインに唇を湿らせてみる。
美味しいワインな事は分かる。
だが状況が状況だから味わう舌が無い。
「そうだ、ステータスを偽装しよう」
【変身魔法棒(ワンド オブ ポリモーフ)】、これだ。
A級冒険者に偽装。
鑑定メガネでセルフ鑑定。
よしよし一般人の範囲。
スキルもステータスも伸びないのがクラフターなのに生命力と魔法力でそんなに周囲に影響するもんかね。
まぁ今の俺はHP4000、MP8000くらいのA級冒険者。
ダメージ食らうまでは並みの鑑定とか誤魔化せる。
【隠密の指輪(リング オブ ハイディング)】
ダメだな。 指輪ばかりじゃらじゃらさせたら目立つ。
サンドクラフトオンラインのゲーム内ではむしろ全装備を指輪にしたりするネタプレイもあったが。
腕輪にしておこう。
レベルは2でいいか。
これで目立たない魔法使いになれたに違い無い。
部屋の外に声をかけて今の俺の印象を見てもらう。
「驚いた。 あの魔王じみた化け物オーラがすっかり成りを潜めている」
「よしよし、隠蔽スキルは上手くいったな」
これなら周囲を怖がらせる事もあるまい。
ぼんやり待っているのは苦痛なので、今夜の決戦襲撃について軽い打ち合わせをしながら時間を潰す。
「旦那様! 任務が完了したようです! 子供達は全員無事、戦闘も発生しませんでした!」
「そうか! よし!」
部屋を飛び出し、階段を飛び降りギルドの外へ。
重たかった心が少しずつ軽くなる。
トレック少年が駆け寄ってくるのを見て涙がにじんだ。
俺のせいで死にかけるまでいたぶられたと言うのに。
笑顔で旦那様、と言ってくれる。
メグルと呼んで欲しいとか、守ってくれてありがとうとか、巻き込んでごめんとか、色々言うべき言葉はあるのだが。
今しゃべったら涙が止まらなくなる。
仕方なく思いの丈を込めてトレック少年を抱き締めた。
この親愛の情が少しでも伝わるようにと。
感情の波が少し収まり、トレック少年が痛がり始めたので渋々離す。
「知らなかった。 いや、気付いてあげられなかった。 トレック少年と皆の生き様に。 しばらくでいいから、一緒に暮らそう。 いや、俺が君たちと一緒に暮らしたいんだ」
「僕達孤児集団なんかと一緒でいいの……?」
「一緒がいい。 俺は君たちの家族になりたい。 ご飯いっぱい食べさるし、暖かい寝床と住みかを約束しよう。 頼むよ。 こっちで一人は寂しいんだ」
「そういう事なら、僕達で良ければ喜んで!」
子供達がキャッキャとはしゃぎ始めた。
ひとまずはギルドの宿にすし詰めで泊まってもらうとして、バンデシネの奴等を根絶やしにするまでに住居を探そう。
それとすぐにでも食事を取らせなければ。
さぁ、やりたい事がいっぱい出てきたぞ!




