5.冒険者の地、ザナドゥ
中は喧騒に満ちていた。
正面に受付や手続きカウンターがあり、左手側にはクエストや何やらの掲示板だろう、羊皮紙がところ狭しと貼り付けてある。
右手はテーブルと椅子がいくつも置いてあり、その奥は酒場に繋がっているようだ。
「へぇ、これが冒険者ギルドかぁ。 賑やかだけど、思ったより治安が良さそう」
「そうですね。 まぁザナドゥが辺境の田舎町、というのが理由だと思いますが」
なるほど、冒険者にとっては目立った旨味は少ないのだな。
でも大丈夫さ。 これから俺が素材をばんばん買い取るから。
ダンジョンも町からは離れているがひとつあるそうで、そこで稼ぐパーティが大半だそうだ。
よしよし。 願ったり叶ったり。
受付カウンターのひとつに立ってハンドベルをちりんちりりん。 いいね、このレトロ感。
茶色い髪を後ろで束ねてひとふさだけ前に垂らした制服美人が来た。
何がとは言わないが一部の圧が凄い。
ボタン弾け飛びそう。
「いらっしゃいませ。 担当させて頂きますシエルと申します」
「よろしく。 流れの魔法使いメグルです」
「冒険者登録ですか?」
「ああ、いや。 そっちはいずれ。 本職は魔法道具作りなものですから。 今日は護衛の依頼をね」
「かしこまりました。 まずは市民カードを提示願います。 護衛というと隣町まででしょうか?」
「はい、カード。 いや、ちょっと賊を倒して目をつけられてしまった可能性があるのでね。 町の中でひとまず数日ほど」
「こ、この町の賊と言うとバンデシネか21家族ですが……」
「あー、そっち。 バンデシネとか言うの」
美人受付嬢は口元を抑え、顔面蒼白になってしまった。
「し、失礼しました。 それは緊急事態ですね。 しかしメグル様は幸運です。 バンデシネに対抗できる唯一の戦力が依頼を受けてくれると思います」
ほう? 町で一番のパーティって事か。
楽しみだなぁ。 これは枕を高くして眠れそう。
ギルド2階の個室に案内され、そこで話の続きをする事になった。
鎧を着たおっさん2人、イケメンな弓持ち、とんがり帽子とローブの絵に描いたような4人が入ってきて挨拶と握手を交わした。
頼りになりそうな面構え。
「町で一番のAランクパーティ、ヴォーパルウェポンの皆さんです。 後お二人いるのですが今日は休養だそうで」
「よろしく。 数日間、護衛を頼みたいんだ。 厄介な奴等に目をつけられたらしくてね」
「とんでもない事になってるな、旦那。 しかし絶対守ってみせる。 万が一、幹部が出てきたら死人が出るかも知れないが……」
あれ、ちょっと頼りない。
なんだ、案外強い賊なんか。
仕方ない、いや、こんな時こそクラフターの出番。
魔法装備で強化してあげよう。
「そういう事なら装備を支援しよう。 俺は魔法道具作りが本職だから色々持ってるよ」
「ありがたい! これはむしろバンデシネ一味にダメージを与えられるかも知れないな」
「うむ、俺はこの町に住むつもりだから、なるべく近い内にヤツは潰そうと思ってる」
「気軽に言ってくれるな……バンデシネの幹部は6人全員がS級冒険者クラスだ。 護衛任務で何度か戦った事があるが一対一では絶対勝てなかった。 しかも明らかに向こうは本気じゃない。 加えて向こうの本懐は騙し討ちだからな。 恥ずかしい限りだが」
いやいや、世の中上には上がいるもの。
そういう所を身に染みている方が無茶をしなくて助かるよ。
たかだか俺の安眠のために人死にや大怪我する人が出るのも後味悪いし。
では基本装備はこの辺で。
【英雄願望の腕輪Ⅱ(ブレスレット オブ ヒロイズムⅡ)】
全ステータスを100上げてくれる、クラフターの初級装備。クラフター以外が装備すると効果は半分の50
【加速の指輪20(リング オブ スピード20)】
行動を全て20%加速してくれる中級装備。
ただし、当然装備中は20%早く加齢していくので常時装備はあまりオススメしない。
まぁ若返りポーションを飲めばいいだけだが、タイミングずれるの面倒なんだよな。
暇な時には外さないと時間経過が遅くて退屈。
【物理耐性の首飾りⅡ(ペンダント オブ イミューン
フィジカルⅡ)】
あらゆる物理的攻撃成分を含むダメージを20%カットしてくれる。
あくまでも物理的成分にしか作用しないので、炎の剣とかの複合攻撃には見た目ほど効果は出ない。
「ひとまずこんな所か。 指輪は2つずつね。 後は個別の武器と防具だな。 魔法装備、10はいけるでしょ?」
「だ、旦那……あんた、どこから来たんだ? 古代魔法文明人の生き残りなのか!? こんな強力な魔法装備、王都にだって無いぞ!」
あれ、やらかしたか。
大丈夫、傷は浅いはず。
まだ300レベル以下の装備だ。
「あ、ああ。 東の果ての魔法列島国の出身でな。
あそこは魔法道具の古代魔法文明解析が盛んなんだ」
「そんな国は聞いた事も無いが……この際は有り難いし依頼人に余計な詮索するのもルール違反だからな。
済まなかった」
セーフ。 助かった。
しかし魔法装備を売りさばいて大儲け、という訳にはいかなさそうだなぁ。
「何はともあれ、この装備があればバンデシネの幹部は敵じゃない。 一対一でも幹部を制圧できるだろう」
「まだ武器と防具と消耗品が」
「勘弁してくれ。 もう頭がいっぱいいっぱいだ」
「あ、はい……」
よもや泣きが入るとは。 想定外。
まぁ改めて1日護衛後に相談してみてもいいか。
「それで旦那、宿はどこに?」
「まだ決めてないんだ。 快適さは外したくないが、護りやすい立地も大事だろうから」
「それならこのギルドの宿が一番だ。 護りやすく快適。 ただし、料金がかなり割高で……」
「そこは大丈夫。 こう見えて案外お金持ちの魔法使いなんだ」
「だろうな……こんな魔法装備を初めて会った冒険者に貸すくらいだ」
何なら差し上げても良いくらいの初級装備だが。
これからは魔法道具関連は慎重にいかねば。
どうやら大して普及してないぞ。
具体的な料金の話に入る。
ギルド宿の一番良い部屋が1日金貨4枚。
金貨一枚が10万円の両替レートだった所から考えて、高級スイートルームが40万円相当ならお値打ちお値打ち。
Aランクパーティ、ヴォーパルウェポンの護衛費が日に一人当たり金貨3枚。
はて、えらく安いような……
書類を色々書いてた茶髪美人受付嬢が教えてくれる。
ここからが彼女の出番だ。
「旅の護衛の場合、日に金貨4枚になります。 それと実際の遭遇や危険に応じて追加料金が発生します」
「なるほど。 ひとまず全額先払い、3日分でお願いします。 宿もね」
細かく請求がくるのも何か嫌だし、懐は暖かいどころか煮えたぎっているのでバンバン使うのが吉。
ひとまず宿と安全を確保したらどっと疲れが出た。
異世界転生初日、何て濃い1日だったのだろう。
固いベッドに突っ伏すように飛び込むと急激に心地好い眠気が押し寄せる。
ああ、異世界ご飯もまだ味わって無いのに……
明日起きたら早急にバンデシネ一味を追い込むパーティを雇おう……
翌日、待てど暮らせどトレック少年は姿を見せなかった。
嫌な予感が急激にせり上がる。
代わりにマーロウ商会のプリシラさんが顔を出す。
プリシラさんは明らかな作り笑顔で
「昨日は命を助けて頂き改めてお礼を申し上げます。
トレック少年ですが、体調を崩したので本日のガイドはキャンセルさせて頂きたい、と言伝てを承っております」
「……へぇ。 それで、プリシラさんのスカートに血糊がべったり付いているのは何でだい? ブラウスは着替えたようだが」
危険を顧みず見ず知らずの俺を助けようとするくらい高潔な心を持つプリシラさんが泣きそうな表情になる。
トレック少年の身が大変な事になったのは間違いない。
「トレック少年に誓ったのです。 旦那様を心配させまい、と……」
「頼む。 あった事だけを、隠し事無しに話してくれ。 俺は今、冷静さを失いつつある」
のんびり休んでいる場合では無かった。
奴らの手は長く、そして素早いらしい。




