4.美味しい菓子パンの地、ザナドゥ
よしよし、あったぞこれこれ。
ザキヤマ製パンのジャムパン。
20個セット2780円、これがいいかな。
念じてカートに入れて決済!
『ジャムパン20個を獲得。アイテムボックスに収納されます』
おお、注文から到着までノータイム!
何て素晴らしい。
これは紛れもなくチートだ。
しかし……円の獲得手段は無いものだろうか。
ステファニーに尋ねてみる。
『金貨を円に両替できます。 ただし、初期アイテムで保有していた金貨は1日1枚までとなります。 変換レートは金貨1枚10万円になります。 他にこちらで獲得したアイテムを地球に売却する事が可能です。 クラフターの能力で直接生産したアイテム以外に限ります』
ありがとう。
なるほど、基本的に日の予算は10万円までで、後は稼いだ分でという感じが良いか。
「よし、じゃあ甘くて美味しいパンを腹ペコトレック少年にあげよう。 滅茶苦茶甘いぞー」
「わーい! なにこのパン!? ふわふわしてる!
固まってない!」
なるほど、こっちのパンはハードタイプが主流か。
バゲットとかああいうのにジャムを添えた方が良かったかな?
「甘っ! 柔らかっ! 何これ!? 美味し過ぎます、旦那様!」
「ははは、喜んでもらえて何より。 ゆっくり食べなさい。 あ、皆さんもいかがですか?」
商会員達が寄ってきたので全員に配る。
ザキヤマ製パンの伝統とも言える味、堪能してくれ。
「うまい!」
「旨すぎる!」
「こんな甘味初めてだ!」
「こんな柔らかいパンが実在するのか!」
うむ、大好評。
ザキヤマ製パン大勝利だな。
プリシラさんも目を白黒させながら食べている。
美少女は菓子パンを食べる姿すら絵になるな。
「これは……王都でも食べられるかどうかという程の味ですね。 柔らかさに特化した生地の高品質さ、白さと美しさに優れた切り口。 ジャムのこなれて完全にペースト化した強烈な甘さ。 金貨1枚で手に入るかどうか……」
さすが商会の会頭の娘。
味わいながらも商品としての分析に余念が無い。
まぁ20個2780円ですが。
どうやら地球とこの世界でかなり物価が違って、相当優遇されている様子。
これはどんどん地球産商品を異世界に売れ、という神様のお導きに違いない。
よーし、待ってろ日本の民よ。
異世界から経済回すからなー
宇宙質量とか貨幣とか色々問題がある気がするが、通販機能がこれだけ大盤振る舞いならどこかで調整されているに違いない。
困ってきたら、警告やメッセージくらいあるだろうし、何より価格に反映してくるだろうから。
あれ、トレック少年が最後の一口を眺めて泣きそうな顔をしている。
「どうした? 足りないかい?」
「う、うん……夢中で食べちゃって。 妹達弟達に残すの忘れちゃった……」
「はっはっはっ、そんな事か。 大丈夫、まだまだたくさんあるぞー ほら、持ってけ持ってけ」
アイテムボックスから残りのジャムパンを全部出してトレック少年の両手に乗せる。
トレック少年が目をキラッキラに輝かせながら声を裏返してまで歓声をあげた。
アイテムボックスから袋を出して飴ちゃんをジャラジャラ大量に詰めてトレック少年にプレゼント。
「これで妹達と弟達を喜ばせてやりな。 帰ったら今日のヒーローだな」
トレック少年は喜びが限界突破したのか、声を失って俺に抱きついて泣き出した。
俺は大きな勘違いをしていた。
彼らが限界ギリギリの生活をしているサインを見抜いてあげられなかった。
このツケを翌日払う事になる。
「穴は賊ごと埋めていいかな? 生かしておいても良い事無いだろうし」
「それが良いと思います。 しかし魔法使い様の事は生き残りから情報が漏れているでしょうから、町に着いたらすぐにでも護衛を雇うのをオススメします」
「そうだなぁ。 正直寝込みを襲われた程度でダメージすら追わない気がするが、やはり安眠妨害されるのは普通に苛立つからな」
削除で開いた穴を埋め戻す。
踏み固まっていた道を消してしまったからなぁ。
単純に土を盛っただけでは戻したとは言えない。
本格的なのは後日に土木屋を雇って直せば良いとして、とりあえず表面1メートル分の土ブロックをロック状態で設置。
うん、カチカチ。
「ちょっと固すぎるが応急処置としては十分だろう」
「……」
プリシラさんが黙りこくってしまった。
さすがに色々見せ過ぎて引かれたかな。
はっ、と気付いて堰を切ったようにしゃべり出した。
「いえ、むしろこっちの方がありがたいですね。 道と言っても大して整備されていませんので轍や凹凸だらけで安定した場所が無いですから。 このくらいの固さはむしろ蹄鉄をしっかりつけた馬にも優しいでしょう。 足を挫く心配がありません」
さすが商会。 道には一家言ある様子。
太鼓判をもらえたようなのでこれを本舗装にしてしまおう。
馬車に乗り込み、町に向かう。
プリシラさん達にとっては出戻りだが。
馬車はもう一台あったのだが逃走のため破棄せざるを得なかったそうだ。
案の定、賊か第三者が盗んだようで馬車は無かった。
「旦那様! 着いたよ! ここが僕たちの町、約束の地ザナドゥさ!」
「おお、案外しっかり壁で囲われているなぁ」
あちこち崩れてはいるが。
入り口の門で門番達にチェックを受ける。
トレック少年はしれっと門番に挨拶して顔パス。
「初めてザナドゥに入る方は市民カードの作製が必要です。 犯罪歴や凶悪行為が無いか調べたり納税チェックなどに使われます。 値段が銀貨5枚で有効期間が一年」
要は町の年間パスか。
金貨一枚を出す。
「確かに受け取りました。 あちらでカード登録しますので、その間にお釣りをお持ちします」
そっと彼に近寄りお釣りは皆で、と耳打ちする。
通じるかな? お、通じた。
よしよし、チップありの社会性だ。
せっかく金貨もアイテムも大量に持っているんだ、こういう所は振る舞っていかないとな。
快適な町暮らしの一歩目よ。
ははは、何かと便宜とか図ってもらっちゃおう。
プリシラさんはバンデシネ一味の報告と商会の事が立て込んでいて、当分ここを離れられないそうだ。
しきりに謝りながら護衛を雇うための冒険者ギルドまでの道案内にと商会員を一人つけてくれた。
「僕がガイドするのにー!」
トレック少年が主張してくるがもう日も傾いて暮れなずんできた。
季節は春のようで日の陰りと共にヒュッと寒さが染み込んでくる。
「今日はもう遅いからまた明日からな。 ギルドのロビーみたいのはあるかい……? ある、よし、ならばそこで落ち合おうか。 早くパンと飴を持ち帰ってやりなー」
「はーい! 残念だけど旦那様の命なら仕方ないや。
分かった! 明日ギルドロビーにいきます!」
トレック少年と別れた。
元気に手を振って、何度も振り返りながら去っていく。
年は離れていても、彼とは良い友人になれる。
そんな確信に満ちている。
しかし旦那様と呼ぶのをやめてもらわないと友人感は出ないな。
ガイドとして雇っている間は仕方ないか。
商会員の人に案内してもらい、冒険者ギルドへ到着した。
町は結構広くスペースに余裕のある町並みをしていた。
というかあまり区画整理されてない。
ギルドの敷地と施設はその中でも特に巨大で目立っていた。
おお、これが噂の……定番の!
ワクワクしてきた。
さっそく中に入ってみよう!




