十二話 それでも私は本当は・・・?
二回目の晩餐をした後、リーヴルが談話室で話す事があると言ってきた。
多分、“契約”やこの世界の事、以前言っていた悪魔の事を話すのだろう。
私自身が今も信じていないから、“契約”とかするつもりもないし現実であってもしたくない。以前聞いたメリットについて私は聞いていないからデメリットだらけにしか思えないのだ。
損があって得はないような得体の知れない“契約”なんてする訳がない。
言われた時間よりも少し早めに談話室へ向かう。
談話室自体は少し覗いた事があるから大して戸惑うことなく向かうことが出来た。
開いた扉の先には既に他の悪魔?達が揃っていて寛いでいる。
「すみません、お待たせ致しました。」
「いえいえ。大丈夫ですよ、澪璃さん。」
そうして丁度空いていた席に腰をかける。
・・・ちなみにリーヴルの隣という。
談話室の隅っこで丸くなっていたエラッタが腰をかけて全員が準備万端、となってからリーヴルが口を開いた。
「・・・ではまず、私達悪魔の事についてお話をしましょうか。」
そうして話された内容とは。
其の一︙悪魔は基本的に知的生命体の魂を喰らう
其のニ︙此処には死んだ人間の魂だけではなく此処で生まれ育っている人間もいて、それらも契約の対象に入る
(その場合は魂とは呼ばず一つの生き物として認識されている)
其の三︙喰らう際は“契約”をし合って喰らうのが基本(眷属にする事も可能)
其の四︙契約でのメリットは悪魔それぞれの能力に付随されるものである
其の五︙リーヴルの能力は“時懸” 時を司る悪魔の一人だそうだ
ガブリエルの言っていた夢についても能力の一つで“淫夢”に該当する
其の六︙眷属の場合は主に付き従う存在になるが悪魔に下に見られている人間や獣人にとっては社会的地位を上げられる唯一の行為
その為、此処で生まれていたモノ達にとってはとても魅力的な契約らしい
・・・メリットについては、言わずもがな悪魔それぞれの能力を利用出来ることだろう。
けれどそれもリーヴルの能力の内容によっては私にとって魅力的な物ではない可能性もある。
ちなみに眷属についても。
以前もエラッタが私に眷属にならないかと聞いてきたことがある。
多分この世界にいる様な人間や獣人に対してと同じ感覚で提案してきたのだろうと思う。
私にとっては別に欠片もメリットが無いので却下であるが。
それと、悪魔は正真正銘の生き物として存在しているらしい。正確な寿命や種類分けは難しいところだから曖昧だという。
私としては幻想としてしか認識をしていないからやっぱり受け入れ難い。
まあそもそもが私達人間が言い出した悪魔の定義と自分達の生き方や習性、特徴がソックリだったから自身で悪魔だと自称するようになったとか。
・・・という事はイメージ通り悪魔の囁きをしたり契約してぼったくりしたりするのか。そのクセ妙に人間らしい所があったりなんていう所もあるんだろうなぁ、と思う。
そして、この世界についても話してくれた。
此処は地球とは別次元の世界・・・という訳ではなく同じ世界線で繋がっているそうだ。宇宙の何処かに存在している星なのだろうか?
でも私にとっては来れる筈のなかった世界な為、まるで異世界にしか見れない。
それに悪魔という存在を以てしても私たちの世界を認識できていない程だから別世界と言っても過言ではないと思う。
悪魔の世界の天体は“魂”をエネルギー源として吸収させられているからか別世界の魂も呼び寄せられやすいらしい。私の場合は“契約”をしていたから此処へ来たのだろうけれど。
「・・・つまり全く関係のない人も此処へ呼び寄せられることだってあるんですかね。」
「ええ、そうですよ。そういう場合は問答無用で悪魔の餌食となる場合が多いですねぇ。・・・余所者ですから。」
・・・余所者には容赦が無いようだ。
クツクツ笑っていたのに最後には無表情になって面倒臭そうに呟いた。
リーヴルの伏せられた目の中の瞳が澄んでいるようで澱んでいる様に背筋を凍えさせる。
彼にとっては人間なんて容易く一捻りで殺す事ができる・・・虫ケラのような存在なのだろう。
多分私も。(寧ろ美味しいご飯としてしか見られてないかもしれないけども)
そしてリーヴルは、“契約”についての細かい内容へと移った。私はする気ないけれども・・・流し聞きしておけば良いよね・・?
「では契約についての話に移りましょうか?ちゃんとお聞きして下さいねぇ?」
「・・・勿論ですよ。ちゃんと聞いときますので御心配なく。」
リーヴルの言っていることが的を射ていたため少しだけギクリと身を強ばらせる。
それさえも気が付いているのだろうと分かるから頭にくる。
「契約は基本的に双方の同意が無ければ成立がしません。お互いが同意したら契約執行をする事になりますねぇ。」
「・・・基本的に、ですか?」
まるで例外があるかの様な物言いに疑問を持ち問い掛けてみる。するとその質問を予想していたのであろうリーヴルが頷いた。
「ええ、基本的にですねぇ。一応は悪魔にも法律のようなものや規則、モラルなどがありますから。
それに契約をする際に相手が同意をしていなければ成立をしないような仕組みになっていますので。」
「・・・そんな仕組みになっているのにどうして例外があるんですか?」
「ええ・・・まあ所謂違法とされている道具を用いて無作為に魂を狩る連中が居るんです。それが例外に入りますねぇ。
それと、契約をせずとも魂を喰らう事は可能なのですが悪魔にとっては腹を満たす行為でしかなくなります。
悪魔が契約をする理由は、自らの立場を上げるためですからねぇ。契約をしなければ位もそのまま、ただ生きる糧として魂を喰らっている悪魔が多いのも事実です。だからこの屋敷から出ないように、と私は言ったんですよ。契約をしていない今では無抵抗のまま悪魔に喰らわれる事も有り得るので。」
不思議だ。悪魔の世界ではヒキニートであっても魂を喰らっておけば生きれるので働かなくても良いという事ではないか・・・。
そう思っていたらリーヴルが苦笑混じりに否定をする。
「いえいえ、流石に悪魔だって無職でいれば不便な事だらけですよ。先ず国の恩恵も受けれませんし貢献する気もないから住居を持つ権利もありません。そして何より、重要な食糧を自分よりも立場の上の悪魔に盗られても文句が言えませんからねぇ。」
「・・・結構、悪魔の割には身分に重きを置いているんですね。」
貧民が貴族に逆らえず、貴族の悪意によって何かを奪われる感じか。
貧民=ヒキニート悪魔
貴族=上位悪魔 だ。
「まあですから。私は無職ではありませんし、私との契約をしていれば外へ出ても喰らわれる心配はありません。職務妨害になりますからねぇ。例え私より上の立場の悪魔が貴方を望んでもモラルがなっていないと周りから叩かれますよ。」
御安心を、とニッコリ笑顔(したり顔)のリーヴル。
いえ、安心できると思っているのですか?そう私は叫びたい。
我慢我慢。
身分が違えど他所の契約者にちょっかいを掛けることは物凄く嫌われている事らしくそんな事をしたが最後どんな立場のものでも失脚して(させられて)しまうらしい。
それ程に契約とは大切なのか・・・。そんな存在になりうるのが私だから複雑になる。
「ああ、私にとっての契約についてのメリットはそれくらいですねぇ。あとは貴方にとってのメリットですね。」
「ええ、契約をしないと今の状態の私ではデメリットだらけですから一つのメリットは分かりました。外の害意がある悪魔からの一時的な保護ですね。
・・・あとは何でしょうか?以前聞いた悪魔の能力の事ですかね。」
「クク、そんな焦らずとも良いんですよ。契約のメリットは逃げることなどありません。ゆっくり冷静な状態で判断していただければ宜しいでは無いですか。」
「・・・」
「まあ、私の能力について話を致しましょうか。
私の能力は“時懸”。
時空を司っている悪魔ですよ。・・・といってもあと数人は私と同じ様な能力を司っていますが。」
流石に私一人では管理しきれないので、とカラカラ笑う。けれど聞いているとリーヴルがその中でも上位の悪魔である事は察することが可能だった。
案外メリットはありそうでは無いか。そう思える。
「幾つか時関係であれば願いを叶えて差し上げれますよ?貴方が死んだ次元の世界ではない同じ様な世界に放り込んでやり直させることもできます。
私達にとっては数時間で済ませれるので楽ですし。」
ピクリと反応をしてしまう。
・・・やり直せる?今までの人生を?死んで無駄にしてしまった一生分を・・・?
正直、別次元であって同じ様な世界、というリーヴルの言葉を頭には入れていなかった。
いや、受け付けなかったのだろうと思う。
後悔ばかりで最終的には逃げに走った私に嫌気が差していたから、またやり直したいと・・・また逃げに走ろうとしているのだ。
その弱さの隙間に漬け込んでリーヴルは契約をさせようとしているのだと気がつけていなかった。
その時にはレルツィやベルデン、レンヅィーが顔を顰めてリーヴルを見つめていたというのに。
・・・悪魔らしいと言えば悪魔らしい方法だったが流石に残虐だと思ったのだろう。
過去は戻って来ない別物であるからこその皆の思いだった。
「・・・少し、考えさせて下さい。」
「ええ勿論・・・貴方の生前を考えても仕方の無いことでしょう・・・やり直しがきくのですから、後悔のないように選択をして頂きたいものです。」
考えさせて欲しいと言った割にはその時のリーヴルの台詞で考えが固まってしまった気がする。
生前の私。逃げてばかりだった私。
仕事をクビにさせられ、変なプライドで紹介先の仕事を貰わなかった私。
それを酷く後悔した私も。
死ぬ直前に両親を思い出し後悔した私も。
「・・・全部、やり直せるの?」
気がついた時には貸して貰っていた屋敷の自室に居た。力無くベッドに体を預け、シミ一つ無い綺麗な天井をぼんやり見つめながら。
「・・・・・・全部、全部、やり直せるのならば・・・」
「それなら私は・・・本当は」
もう一度、生きたい。
虚構であっても構わないから。




