十三話 冷静に
沈黙が続く部屋にノックの音が響いた。
誰だろうと思いつつものそのそ起き上がって返事をする。
「はい、何方ですか?」
「・・・ボクデスよ。ミオちゃん今良いデス?」
「はい、大丈夫です。すみません、ちょっと待ってて下さいね。」
訪ねてきた相手は意外にもエラッタだった。
先程までベッドに寝転んでいたからワンピースに皺がある。そこをササッと伸ばして軽く髪の毛も直してから扉を開く。
「すみません、お待たせ致しました。」
「イヤイヤ、急に来たのはボクデスから大丈夫デスよォ★」
ふんふんと機嫌良さげに鼻を鳴らしているエラッタだったが少しだけその様子に違和感を覚える。
「・・・エラッタさん。少し何時もと様子が違いますがどうしたんですか?何か用事でもあったんでしょうか。」
「アチャ!バレマシタかァ♪︎いえいえちょっとネ。さっきのリーヴルサンがお話してタ事についてナンデスケドぉ」
「ミオちゃんは本当にソレで良いんデスか?」
唐突に発せられたエラッタの言葉に一瞬固まる。
その様子を見てか、エラッタは一言断ってから部屋に入り扉を閉めた。
「いえね。リーヴルサンのお話聞いてて思っタんデスケド・・ミオちゃん契約受けちゃう気デスヨネ?」
「・・・いえ、少しだけ・・・迷ってて。」
「ホゥラ!嘘デスよ嘘!目が泳いでいマスもん。
ぶっちゃけリーヴルサンのお話聞いてた時も契約スル気になって来てたデショ?」
「・・・・・・」
「図星デスヨネェ。」
エラッタは少しだけ眉を八の字に下げ、溜息を吐いた。
「ボク思うんデスヨネ。ミオちゃんはそんな契約本当は望んでいナイって。タダの推測デスケド。」
「・・だったら・・・」
「ほっとけまセンよォ~♪︎だってボクミオちゃん大好きデスし?遊んでても凄い楽しかったンですもん★」
「ミオちゃんは、今自分にとって楽な方へと行こうとしてるだけデスよね?
リーヴルサンがそれっぽいコトを言って再契約しようとしているだけなのはミオちゃんだって分かっているハズデス。本当の所は。」
そして俯いている私を促してソファに座らせた。
エラッタも話しながら静かに座る。
「リーヴルサンと契約をしたニンゲンは基本的に全員不幸になってマス。まぁ、悪魔と契約した時点で不幸なんデショうケドネ・・・。
結局ミンナ後悔してしまってるんデスヨ。
ミオちゃんだって逃げても後悔するってコトを一番知ってるデショ?」
「・・・そう、ですが。」
「そもそもミオちゃんとリーヴルサンでは相性が悪すぎマス!同じ様な世界にミオちゃん放り込んだってタダの自己満に気が付いて苦しむだけデスもん。素敵な世界にいればいる程今まで苦しい思いをした分のソレは帰ってきマス。
此処は違う世界なんだって。こんな無駄な事をしても“カレラ”は別人なんだって。」
そうして私の目を見て言った。
「最終的には契約したコトを悔やみマスよ。」
「・・・・・・・・・そう、なんですよ。・・リーヴルさんが言っていたのは“似たような世界”。私が生まれて死んでいった世界ではないって。
・・・今の現状を後悔して、苦しくて、逃げたくなったんです。
・・・だから、契約しようと考えていましたよ。」
馬鹿みたいだよね。そう、乾いた笑みを浮かべて自嘲をしてしまう。
私はまた逃げようと目を背けていた。
一体何度間違えれば成長をするのだろうか。
そんな私の思いが伝わってきたのだろう。
エラッタは、ニッコリ笑って私の肩をポンポンした。
「だーいじょうぶデスヨオ。今気が付けたのなら問題ありまセンし?もう一度よく考えて、ミオちゃんに必要な事であれば契約して貰えば良いデスよ。
ソレにリーヴルサンの能力はそれだけじゃありませんカラ♪︎もしかしたら今のミオちゃんに必要不可欠な条件があるカモしれませんヨ!」
わはは♪︎と笑って空気を軽くしようとしているエラッタ。真面目な話は明るい彼としては苦手なものなのだろう。
それでも私の事を考えて冷静にさせてくれたことに感謝を覚える。
「・・・有難うございます。お陰で冷静に判断をする事ができそうです。」
「イヤイヤ、別にボクのお陰ではありまセンヨオ♪︎気が付いたのはミオちゃん自身デス。」
「一つ、聞いてもいいでしょうか?」
「?良いデスヨォ~♪︎」
「エラッタさんはどんな能力を持っているんですか?リーヴルさんとガブリエルさんのは聞きましたが・・・やっぱり他の人達のは想像できなくて。」
「ああ!そりゃソウデスよネ★ミオちゃんはニンゲンデスもん。悪魔はどんな能力をそれぞれ持っているかなんて分かりませんよネェ~。
ココだけの話、ボクの能力って凄い希少なモノナンデスヨォ♪︎
ボクの能力はデスネ・・・・・・・・・」
そうして話を終えた。
エラッタはそのまま私の部屋を後にした。・・・冷静にさせてくれた彼には本当に感謝してもしきれない。
私はソファに身を預け、目を閉じた。
そうして今日のリーヴルの話とエラッタの話を思い出す。
私にとってリーヴルの能力は“現実逃避”になるだけで何も解決しない。故にメリット等は無いのだろう。ただ一つだけメリットとして残るのは、“外部の悪魔からの保護”だ。
何方にしても喰らわれるのであれば何となくだが“私”という証を残したいと思った。
“私”という証を残してくれるのはリーヴルだけであって外部の悪魔が残してくれるわけないだろう。
つまり、私の一部をリーヴルは残すクセがある。
蓄積していった魂はとても美味だからリーヴルがそれを今更中断する事は無いに等しいのだ。
来世の私にも私の一部を残すことが出来る。
きっと私という存在がこの世から跡形もなく消えてしまうのがどうしようもなく恐ろしいのだろう。その後の私がどうなるのか、意識もなくなるのか、それが分からないから。
自殺をしたというのに私という存在が跡形もなく消えるのが恐ろしいなんておかしな話だと笑ってしまう。
「・・・まあ、もう決めた事だし。明日にでも話そうかな。」
そう、私は決めた。
魂が跡形もなく消えるのが恐ろしくても後悔をしない為に契約を実行しないのか、私という存在を残したいから保護してもらう為に契約を実行するのか。




