8-外伝 ユウキsaid
ガラガラと蹴り飛ばしてしまった石が崖を転がり落ちる。数秒後、ヒューという落下音に変わり、更に後ポチャンという音が小さく聞こえた。グビリと喉が鳴るのを聞いた。
確かに自分はゲームのキャラクターの姿でこの世界へとやってきた。しかも旧型のとはいえ、レベルは100を表示していた。ただでさえゲームという仮想の存在である。
現実ではどれだけ鍛えたとしても到底到達できない、とんでもない身体能力や奇跡と言っていい魔法やスキルを身に着けた状態でである。所謂強くてニューゲームであろう。
ただし、それを扱うのはあくまで現代の中年のサラリーマンでしかない。日々の残業を含む生活の乱れや、食生活の乱れ、老いによる体力の低下。少なくとも学生時代の様な体力も身体能力もない。
だからこそ力押しでどうにかなる相手ならばどうとでも出来たが、逆に言えばこの世界の住人で自身のキャラクターに迫るステータスの持ち主には勝つことが出来ないという事だ。
彼等は産まれた時から自身の体と付き合い、鍛え、動かし方を学んで来たのだから。ことさらその部分においては赤子同然のユウキでは勝てない。
だがだからと言って、リリィを見捨てていい訳でも無いとユウキは勇気を振り絞り、幅は爪先がやっと乗るぐらいの崖道を行く。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。でもまだ続くのか?」
「ええ、まだ半分くらいですね。」
先頭を行くパロットがユウキの様子を見て声を掛けた。そもそも道なき道を行く事に長けていたハンター、その上位職業である忍者であるパロットはスイスイ進んでいく。ユウキよりも体の大きいヘイサンにしても、こういった足場のないと表記しても問題ない場所を行くのは初めてではなく、ユウキが足を引っ張っている。
だからこそユウキも強がって大丈夫と返すも、流石に長時間緊張のしっぱなしで心が折れかける。山一つ分の距離を進まなければならないのだ。この世界の強靭な身体能力をもってしてもそれ相応の時間は掛かってしまう。
「そうですね。そろそろ、お昼にしましょうか。」
ユウキの様子を見て取ったパロットが太陽の位置を確かめる。太陽は真上にあり、お昼時である事を知らせた。ちゃちゃとロープと苦無で三人の体を固定。背負っていた袋から固形食を取り出す。
「はい、どうぞ。吸収率重視で味は保証できませんが…」
「いや、一時休憩できるし、それに腹が減っていたら動けなくなるからな。」
渡された棒状のクッキーの様な物をヘイサンにも渡し、口に入れる。味は塩っけが少々。だがユウキに不満はない。不安定だったのががっちりと固定され、久々に安心できる環境へとなったからだ。
渡された木をくり抜いて作られた水筒から水を飲む。ふぅと息を吐いた。
「にしても、この辺りって魔獣が居ないんだな。」
「そりゃ、そうでしょう。なんたって餌となる獲物が居ないんですから。」
ヘイサンの言葉にそれもそうかと納得する。こんな場所を行く魔獣や動物は、それこそ空を飛ぶ鳥や小さな虫ぐらいで、ましてや自由に空を行けるなら少し山向こうの戦場にでも行けば確実に餌にありつけるのだ。
虫たちにしても、この向こう側は緑豊かな森が広がっている。わざわざ崖に住む必要もない。
「取りあえず、今は進みましょう。」
「そうだな。」
食事と言ってもそれほど量がある訳でも無く、雑談しつつもすぐさま食べ終わる。ユウキは今はリリィを助ける為に急がないとと気合を入れなおし、再び崖を進み始めた。




