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「だぁ、やっぱ数多いっ!!」
後ろから襲い掛かってき王様飛蝗を前へと転がるようにして避ける。受け身を取り、両足の裏で地面を叩くようにして立ち上がり、速度を落とさずに再び前へと走り出した。
「うおっ!?」
だが前へと視線をやれば、鈍く銀色に光る巨大な蟻がその巨大な顎をギチギチ鳴らしながら待ち構えていた。驚き、咄嗟に横へと飛び退き、巨大な蟻の魔獣であるメタルアントの横を駆け抜ける。
本来ならば俺を襲う為に横を向く筈だが、今は餌が向こうから跳び込んで来てくれたとばかりに、俺を背後から襲おうとした王様飛蝗に食らいついて、食事中のタイミングで真っ青な明るい青色のゴキブリに群がられていた。
「もうすぐ終わりですね……」
「……今日の分はな!!」
少なくとも目に見える範囲では王様飛蝗の数は減ってきている。ばら撒いた王様団子の効力で激減し、王様団子の臭いにつられて現れた鋼鉄蟻の一種であるメタルアントやブルーハワイローチに捕食されていたりする。
背中合わせになったシヤさんの言葉に答えながら前から襲い掛かってきたブルーハワイローチを蹴り飛ばした。
俺には、普通の鬼に比べればハーフな分威力は劣るも、村人Lv65という高レベル職業のステータス上昇補正で全ステータス項目に2145%という補正が掛かっている。ただでさえ人と比べてステータスが高いそれが約21倍されているのだ。
真っ向からの殴り合いとなれば、それこそボスモンスターと呼ばれる桁違いの実力を持つ魔獣ぐらいしか負ける事はない。
王様飛蝗の厄介な所は、何よりもその数の多さであり食欲の旺盛さであろう。だからこそ苦労していたのだが、王様団子をばら撒いた事で王様飛蝗を捕食する虫の魔獣達も参戦したのは良い事なのか悪い事なのか。
蛍光ピンクの体液をまき散らして跳んで行ったブルーハワイローチに群がる王様飛蝗。他の魔獣ならば即死であろうが、ゴキブリ故の生命力により、ウゾウゾと蠢き生きたまま捕食されていった。
「フレイムアローっ!!」
そんな様子を眺めている俺とシヤさんの横を炎で出来た矢が飛んでいき、ブルーハワイローチに群がっていた王様飛蝗の群れへと着弾。巨大な炎を生み出した。
「無茶だけはすんなよ?」
「はいっ!!」
振り向きつつ、炎の矢を放った術士を見る。そこに居たのは一人の人。この魔人族領では珍しい純血の人である少女。俺の心配する声に嬉しそうに頷く。
もう数十分前ならば暢気に会話する余裕もなかっただろうが、今日の戦いはそろそろ終わりが近いのだろう。周りを見渡しても疎らにしか王様飛蝗はいない。メタルアントは十分な餌を確保すれば見向きもしなくなり巣へと大人しく帰っていくし、ブルーハワイローチも無駄に捕食されるつもりも無いのだろう森の中へと姿を消していった。
「うし、王様飛蝗も殲滅完了と。」
残っていた数匹の王様飛蝗もコッケイオウが啄み丸呑みにしてしまう。コッケイオウには王様団子を食べて餓死している王様飛蝗を食べないように注意をしてあり、それでもこれだけの数が居たのだからお腹いっぱいになったであろう。
「あっ……、ここ怪我してますよ?」
「うん?あっ、本当だ。いつの間に……」
少女が俺の頬に手を当てる。そこにはいつの間に怪我をしたのか判らない程の軽傷。手足を失う程の大けがをしている騎士が居る中で、小さな擦り傷を作った俺が居た。
赤く線が走り、赤い水滴が首筋に沿って流れ落ちる。
「今治しますね。『リ・カバリー』」
彼女の掌が薄っすらと魔力の光を放ち、その光に包まれた場所がほんのりと暖かくなる。回復魔法で俺の傷とは言えないような小さな傷は癒された。
「ほんと、無理すんなよ?」
「大丈夫ですよ。ただ、私が何者なのか、どうしてここに居るのか判りませんが……」
俺だけではなく、目についた傷ついた者達の中で、自身の手に負えると判断した傷口にドンドン回復魔法をかけていく彼女に向かって心配そうに声を掛ける。
魔法である以上、どれだけ節約したとしても魔力は使われるからだ。魔力自体、他人よりも多いだろうが、それでも王様飛蝗戦からそれなりに使ってはいるし、何より彼女も言っている。
目を覚ました彼女、助け出した勇者一行の少女は記憶を失っていた。




