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6-7

「完璧に折れているわね。」

「……かぁーっ、マジか。」


 アニーキの怪我を診断したハーゲテーナイの言葉に、しくったぁと嘆くアニーキの声が外まで響いてきた。


 野生のトロールによって木に叩き付けられたアニーキの足が腫れ上がり、動かすとズキンとした痛みがはしるとアニーキが言う事から、曲がりなりにもサキュバスであるハーゲテーナイに診せたのだ。サキュバスである以上肉体には詳しく、家庭医学以上、本職未満程度の診察治療は出来る。


「鬼の一族は自然治癒能力も高いから、一週間もあれば治るとは思うけど……」

「……でもその間は動かすなってんだろ?」

「ええ、その通りよ。はいこれ噛んで。じゃぁ、やるわよ?」


 ゴキッという何とも言えない音が響き、アニーキの呻く声が聞こえた。


 後で聞いたところ、タオルを丸めた物を噛まされ、麻酔など一切無しの状態で、折れた骨を神経を挟まないように気をつけながら、無理やり折れた部分に力を込めて治したのだそうだ。


「だ、大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。ちょっと痛みが強すぎてぐったりしているだけだから、寝て起きたら折れた部分以外いつも通りよ。」

「よ、よかったっす。ありがとうございました、先生。」


 ぐったりとしながら運ばれてきたアニーキの事を心配していると、ハーゲテーナイが、もう治したから心配いらないと声を掛けて来た。アニーキが率いる鬼の傭兵団の団員も数人おり、アニーキの治療が終わったからと、ハーゲテーナイに感謝していた。


「それよりも、なんの騒ぎなの、これ。」


 先生と言われて少し照れていたハーゲテーナイがやけに村の外周部が騒がしい事に気付き、何があったのか尋ねてくる。


「ああ、シヤさんを送って行ったコッケイオウと団員が帰ってきたんだけど……」

「どうかしたの?」

「……村が滅ぼされたらしい。」

「っ!?」


 そう、こそっと伝えるとハーゲテーナイは息をのんで黙ってしまった。


「ごめんごめん、言葉が足りなかった。シヤさん達は無事だよ。流石に情報戦のプロだよな。事前に察知してあちこちに逃げたってんだから。」

「そう、無事なのね。」


 付け加えた俺の言葉にホッと息を吐いたハーゲテーナイ。


「ただシヤさんを含む一部がこの村へと移住希望しててさ、一応ハーゲテーナイにも聞きたかったんだけど、アニーキの事もあって、確認をイクスに頼んだんだ。」

「そう。私は別にいいわよ。村は焼かれて何もない状態なんでしょ?」

「ああ、だから夜だけど緊急で傭兵団の一部に木々を伐採して来て貰ってる。」


 その木々を俺が加工して、急ピッチでラーメン構造のプレハブ型の家を作っている。


「今は材料待ち。この音は伐採する時の音やら、流石に人数が多いから記帳して貰っている音やらが混じってんだよ。」

「なるほど。」


 カーンカーンと音が響き、少し離れた場所では篝火が焚かれ、その周辺でワーワー声がしている。


 俺も材料がなくなった為にアニーキの様子を見に来ただけなのだが、材料が届けば家を建てたり、家具を作らなければならない。公衆トイレの増設と、それにロカフグももう何匹か増やさなければ濾過が追いつかないだろうし。


「あとは田畑も増やさなければな。」

「そうね。何時もでもキッシュに頼りきりじゃいけないわよね。不謹慎だけど昔のように華やかになりそうね。」


 今までならば十分賄えていた食料事情、今回の件で大幅に人口が増えたために、増産目的で田畑を増やさなければならないなぁと言葉を溢せば、少し考えてハーゲテーナイが、俺だけが農耕している現状について反省し、そして過去を思い出して嬉しそうにクスッと笑った。


 俺が来た時は魔王軍に襲われ、真面に建っていると言える家屋は一つも無かった。


 住人すらハーゲテーナイとイクス、それに子供達の数人だけというありさまで、ハーゲテーナイ達の会話を聞けば、全盛期はもっと村人が居たのだろう。態度に出ていなかったが、ハーゲテーナイも寂しかったのかもしれない。


「ほれ、お主等もお疲れさんじゃ。どうじゃ一つ。」

「おっ、おにぎり。貰うよ。」


 俺がハーゲテーナイと話していると、セキノモリノヒメがお盆を持ってきた。その上には皿に載った大量のおにぎり。形が不格好だが、多分セキノモリノヒメが握ったからだろうとあたりをつける。


 おにぎりの原材料である米は、なんと忍鬼の里から持ってきた物資の中にあった。水米をダメにされ、すぐには米を食えないと諦めていた俺には降って湧いた幸運であった。


「ええっ!?キッシュさんおにぎりを食べるんですか!?」

「えっ!?ダメだった?」


 いい塩梅の、具材は梅だったおにぎりをパクつけば、パッセが何やら驚いた声を上げる。


「おにぎりって『鬼切り』って聞こえるから鬼の一族には縁起が悪い食べ物とされていた筈ですよ!?」

「えっ!?そうなの!?」

「構わん構わん、所詮語呂合わせでしかないわい。実際傭兵団の連中も、忍鬼の連中も食って居ったわ。」


 パッセがその理由を上げれば、見た目以上どころか遥かに年を取っているセキノモリノヒメが諫めた。語呂合わせ、要は何かあったからではなくダジャレ以上の理由が無いという事である。


「キッシュ、伐採に行った連中の第一陣が到着したわよ。」

「判った、今行く。うぐ、ぷはぁ。ごちそうさん!!」


 イクスが材料が届いた事を告げに来た。手に持っていたおにぎりを口に放り込み、お茶で流し込む。


 忍鬼の人数上、最低限でもあと数棟は建てなければならず、月は真上で輝くも、今日はまだまだ休めそうになかった。

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