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なんだろう、このお気に入りの件数が95件の辺りをうろうろしているのは。目指せ100件。
ゲーム内で選択可能な種族に妖怪という種は居なかった。俺の鬼族と表記される種族とて、本来はオーガという種族であり、鬼という表記もオーガの日本訳でしかない。そもそもゲームの基本背景が剣と魔法の世界あり、時代背景も現代人が想像する中世ヨーロッパが基本背景にある為、日本固有の妖怪は存在しなかったのである。
しかしこのゲームの発売元は日本の会社であり、当時流行っていたアニメから、九尾の狐を含む少数の妖怪がイベントモンスターとして一時期のみ出現したのだ。
一応この妖怪達もティム出来た為に、プレイヤーの人数が激減した後期では、残っていた一部プレイヤーのティムモンスターとしてその姿を見せるだけとなっていた。
だが元ネタのアニメではラスボスとして九尾の狐が出てくるためか、妖怪の中でも九尾の狐だけは別格扱いされ、このコラボイベントの時にはまだまだレベルが低いプレイヤーの多かった早い時期だった事もあり、攻略不可能なボスモンスターとして、多数の苦情が運営に送られたというニュースがネットを騒がした。
俺もこのコラボイベントが実施された時期はまだ、一回目の転生したての頃であり、弱い妖怪を数匹狩った事こそあるが、九尾の狐等目にした事等一回も無い。
話には聞いていても、それがこうして安全に会えるという事で、俺は少し興奮していた。のだが………
「ほっほう、オヌシが上から落ちて来た鬼の子か!!」
目の前にいるのは、流れるようなストレートの金髪。耳の上あたりからピンと立った狐耳を生やしている。背後には九本の髪と同じ色のモフモフの尻尾が揺らめいた赤と白の巫女服を着たよく言って少女。そのまま見た目通りに言うのならば幼女である。
俺も背は小さい方だが、更に小さいノームのパッセよりも小さい身長。本当に九尾の狐なのだろうかと疑わしく思うも、その背中で揺れる九本の尻尾を見てしまえば、信じざるを得ず……
「本当に、九尾の狐?」
「失礼じゃなっ!?これを見よ、これを!!」
信じられないよなぁ……。信じられずに直接聞いてしまった俺を、証拠だとばかりに九本の長い毛に覆われた尻尾を見せつけてくる幼女。
「でも九尾の狐って言ったら……ねぇ。」
「あ、あはは……」
目の前の幼女を頭の天辺からつま先まで見、再び頭の天辺まで戻してから、ここまで案内してくれたパッセの方を振り向きつつ、同意を求めるように言葉を曖昧に濁した問いかけを投げかける。パッセも俺の言いたい事に気付き、なんと言ったらいいのか曖昧に笑うのみ。
九尾の狐と言えば、時の権力者に取り入り国を崩壊に導く妖怪として知られ、当然のようにゲーム内でもサキュバスに負けず劣らず、妖艶さとメリハリの付いたスタイルのいい女性型だったのだが、どう見ても目の前の存在がそうだとは言えず、もう一度視線を極々一部に向けて。
「はぁ……」
「ちょっと、待てっ!今、何処を見て溜息を吐いたのじゃ!!」
「いや、それはなぁ?」
「あ、あの、こっちにふらないでもらえます!?」
「お主はわらわの世話役じゃろ!?」
九尾の幼女の問いかけに、本当に言っていいものか迷い、後ろで関係なさそうにしていたパッセに視線で助けを求めれば、あっさりと自分は関係ないと主張。だが否定をするどころか、見たらわかるでしょと言わんばかりに視線を泳がしている事に幼女が驚きつつ憤慨する。
「ええいっ!!この見た目は陰気が足りない所為じゃっ!!陰気さえちゃんと足りていれば、わらわとてこんな幼子の様な容姿ではないわっ!!」
「ええ!?うっそだぁっ!?」
「何でお主が否定する!?」
憤慨しつつエネルギー不足からくる幼女化だと言い訳する九尾の幼女の言葉に、思わず心の声が漏れ出たパッセ。そんなパッセにツッコミを入れつつ、俺を見てニヤリと笑った。
「どれ、そんなに疑うのなら実際に見せてやろうとしよう。」
「いやいや、幼女のままでもいいと思うけど?」
「幼女言うなっ!!だいたい疑ったのはお主じゃろっ!!漏れ出す陰気も結構質の良い物じゃし、ほれお主も男なら覚悟を決めい!!」
「なっ!?ちょ、放せ、こら幼女、今ならいたずらって事で済ましてやるからっ!!」
「ふははは、放す訳ないじゃろ。九尾の狐と目を合わせてしまったのがお主の運の尽きじゃて。」
その笑いに嫌な物を感じ、じりじりと後ろに下がっていた俺を、包囲するかのように九本の尾が俺を囲い込んでいた。目の前からは妖艶な、雌の臭いを発しながら迫ってくる尾の持ち主。俺の言葉に憤慨しツッコミを入れつつも視線を合わせ、その瞬間俺は口を除いて体の自由がきかなくなった。
九本の尾に捕まった事もあるが、それ以上に今更ながらに九尾の狐の特殊スキルの存在を思い出す。
『魅了』それはサキュバスを含む他者を惑わす種族のほとんどが持つスキルであり、ゲームではこのスキルのレベルが高ければ高い程、対象の行動を阻害する時間が伸びると言うもの。阻害というが、ゲームの時にはフリーズしたかのように全ての行動が封じられたのだ。
九尾の狐はボスモンスターだけあって、この魅了のレベルが高く、速度も攻撃の範囲、威力も高く設定されていた為に、運営が用意した鬼畜モンスターナンバーワンと呼ばれるほどのボスモンスターにまでなった。
それが今目の前で俺にその脅威を十全に振りまいている。
「ほれほれ、先っちょだけじゃ、先っちょだけ。」
「やめぇ……っ!?俺に幼女趣味は無い!!無いからっ!!」
「そんな事言ってわらわの動揺を誘おうとしても無駄じゃて。がっしり尻尾で掴んでいるからの。」
俺の足元までやってきた九尾の幼女はついにはズボンにまで手を掛けた。魅了のスキル効果時間が過ぎ、自由が戻った体を揺すり拒否しようとも、尻尾の力が思った以上に強く引き剥がすことが出来ない。
「た、助けてくれ!!イクスっ!!」
「……あら、呼んだ?」
「な、なんじゃとっ!?」
艶めかしく蠢く唾液に濡れた舌が、露出した俺のそれを咥えようとした瞬間、俺は何故かイクスの名前を呼んでいた。
俺が落ちた穴の付近よりも奥ばった場所にあるここは、当然設置した松明の明かりなど届かない。俺はオーガであり夜目は当然利く。松明を設置したのも、夜目が利いても明かりのある方が遠くまで見通せるからだ。案内したパッセも、今俺を襲っている幼女も、この暗闇が当たり前の世界の住人だからこそ当然明かり等要らない。
そして暗闇から出て来たかのように錯覚させるような登場をしたイクスもまた、夜目の利く種族であり、俺の後を付いてきたのだとしたら、ここにいるのも不思議ではないが。
幼女は驚きを露わにしている。俺を掴んでいた尻尾が突如緩み、俺が地面に落ちたからだ。
「お主は何者じゃ。わらわがチャームに掛かるなど、そうそう無いんじゃぞ!!」
「あら、私はキッシュの女よ。キッシュが助けを求めれば、助けるのが当たり前でしょ?」
どうやら俺を解放するのは九尾の幼女の本位ではなく、クスクス笑うイクスが何かをしたようだ。
「お主もお主じゃ。女子に助けてもろうて恥ずかしくはないのか!?」
「あら?キッシュは男よ?女の情念に恐怖しても仕方ないでしょう?」
九尾の幼女は俺の方をキッと見、イクスに助けを求めた事を責めるも、すぐさまイクスに言いくるめられグッと呻く。暗闇に閉じこもっていた九尾の幼女よりも、その容姿で今まで苦労してきたイクスの方が一枚上手だったようで、やりくるめられた九尾の幼女の視線はやがて、俺の後ろであわあわ言っているパッセを捕らえた。




