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ノームという種族は、見た目は二足歩行する巨大なモグラだ。実際のモグラと違い、ややモフモフの長い体毛に覆わとれ、サングラスを掛けている。これは雄の場合であり、ゲームの時には女性キャラとしてこの種族を取ると、ロリっ子になる。パッチリとした瞳が特徴の童顔。大事な部分のみ水着よりも広い面積が体毛に覆われ、体形がずんぐりむっくりとした雄のノームと比べ、ほっそりとした人の体形になる。
そんなロリっ子がキーキーと甲高い声でもって喋り、手を振りながら敵意が無い事を告げていた。
「って、あっそっか。普通の共通言語使っている人には、僕たちの使う共通言語は音としか認識出来ないんだったっ!」
「いや、普通に聞こえてっけど?」
「へっ!?そうなの、なら大丈夫だねっ!…って、わー、僕人畜無害だよ!!食べてもおいしくないよ!?」
魔族が主に使う言語である共通言語。ノームもまたこの言語を使うのだが、ノームの場合話す速度が異常に早く、他の魔族からすればキーキーという金属を引っ掻いたかのような不快な音にしか聞こえない。
その事を思い出し、頭を抱え大慌てする目の前のノームに、俺は甲高い声だが普通に聞こえている事を伝える。何で普通に聞き取れるのかは謎だが、この世界に来てからと言うもの、ゲームの時の設定が多々生きている事から、俺の最初の転生先であったノームの設定が聞き取る事を可能にしているのではないかと推測。
伝えた結果、伝わってよかったとホッと溜息を吐き出し、直後に何も解決していない事に思い至ったのか再び慌て始める。
「食べない食べない。」
「ほ、本当?」
「本当本当。……食ってもまずそうだし。」
「ギャーーっ!?やっぱり食べるんじゃないかっ!!」
上目遣いでこちらの様子を伺ってくるノーム。俺の身長も小さい方だが、ノームの方が更に小さい為自然とそうなってしまう。だが涙目でこちらを伺ってくるその様子に、ふと魔が差した。揶揄ったら面白いんじゃないかと。だからついつい余計な言葉を付けたしてしまい、少しの間大騒ぎするノームを宥める破目になった。
「冗談だって、冗談。」
「……心臓に悪いよ。一瞬止まったかと思ったぁ。」
あの後謝りに謝って、宥めて、頭を撫でて、モフモフして。やっと落ち着いてきて話が出来るようになるまでになった。
「でもどうして君はノームの言葉が判るの?」
「俺もばあちゃんがノームだったからさ。普通にノームの言葉を聞き取れるんだ。」
「そうなんだ。」
ノームの疑問にゲームの話等出来ない。しても信じられないだろうからと、身内にノームが居るからと誤魔化す。
「そういや、ちゃんと自己紹介してなかったな。俺はオーガのハーフのキッシュ。あそこの上のちょっと離れた所に住んでんだ。」
「僕はノームのパッセ。地中に埋まったこの都市で、九尾様のお世話をしているんだ。」
なぬ?埋まった?元から地中に都市を作ったんじゃなくて?それに九尾だって?
自己紹介したときにパッセの言葉にいくつか疑問を覚えた俺は、とりあえず一つずつ訊ねる事とする。
「えっとな、まずここって埋まったのか?最初から地中を掘り進めたわけじゃなく?」
「うん。ここは3000年ぐらい前に起きた火山噴火で埋まったんだよ。」
3000年!?それに火山噴火って。3000年の方は、1000年を普通に生きている種族も居る魔族なのだからまぁいい。上が森になっていた事も、富士山が噴火してから300年で樹海を形成する事を知っているからそこまで驚きじゃない。だが俺がこの辺り見回した時には火山なんかなかったみたいだったけどな。
それにパッセの言葉を信じるのならば、この都市は3000年の間ほとんど形を変えなかったことになる。いくら風が入り込まなかったとしても、それにしては形が整い過ぎていた。
「パッセ以外のノームってどこに暮らしてんだ?やっぱ町の中?」
「ううん、もうここに居るノームは僕だけだよ?」
「すまん……」
これだけ騒いだにかかわらず、いまだ他のノームが見えない事に疑問に思いつつ、パッセに問いかければもう他のノームはパッセを除き、全滅しているのだそうだ。ある時から子供が生まれる事がなくなり、徐々にその数を減らしていったのだと。
たぶん閉鎖空間によって外から他者の血が入り込まず、血が濃くなってしまった事による弊害だと思われる。元々サキュバスの村も似た様な状態だったが為に、まるで自分達の村の行く末を見ているかのようで、俺は街並みから目を逸らした。
ガタゴトと舗装されていない道を馬車は進む。馬車の中にはユウキとリリィ。それにリリィの世話をする侍女が二人。馬車の御者台には御者に大柄な大男。戦士のヘイサンとその隣に座って前方を警戒しているハンターのパロット。ちなみにパロットは女性だ。だが弓の腕は確か。数百メートル離れた獲物に正確に射貫くその腕は、人族領一といっていいほど。
ヘイサンにしても剣を振るっての勝負であれば、勇者として高い才能を持つユウキを除けば人族領内であれば負け無しであった。
戦闘時等であればトラップの発見解除を行えるパロットと、大抵の不意打ちであれば力尽くで打ち破れるヘイサンが前衛。万能であるユウキが中衛。攻撃魔法が使え、回復もこなせるリリィが後衛という編成である。
今は魔物に襲われ続けている辺境の村々を助ける為に、勇者としての名上げの意味もあってユウキは馬車に揺られていた。
「なぁリリィ。」
「はい、何でしょう。勇者様。」
「本当にあの二人は無理やりじゃないんだよな。」
「ええ、あの二人も勇者様のお力になりたいと、そう言っておられましたから。」
だからこそその高い実力の事も見込んで、高い金を払いあの二人を雇う事にしたのだ。そういうリリィに頷きながらユウキは本当かどうか怪しく思う。
少なくともこの二人の前に来た連中は、この国で名が売れているというだけで、虚偽の罪を着せられユウキの魔王退治につき合わされそうになったのだ。パーティーとしての親睦会で、酒の力もありポロッと漏れ出た愚痴からそれを知ったユウキが王家を、王家と言うよりもりりィを問い詰めたのだ。
すぐさま真相を調べられ、それが一部の暴走であるとは判ったのだが。だがユウキは目の前のリリィを疑っていた。疑っていなければまたも犠牲者が出る。
敵は魔王ではなく、この目の前の姫君だと。
そうユウキは思う。だがユウキがどれだけ考え、警戒しようとも馬車は着実に目的地へと進んでいった。




