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ギョエーと木々の奥からなんだか判らない鳴き声が聞こえた。朝日に照らされながら俺は、まぁここは異世界なんだしと思い直す。普通ならスズメがチュンチュンと鳴いているような印象を受ける気持ちのいい朝なのだが、普通に大空をドラゴンが飛んでいるような世界なのだ。鳴き声がギョエーでも気にしない。いや気にしなくなってきたなと思う。
「……やっぱ普通に鍬じゃ無理だったか。」
振り下ろした鍬がガキンと硬質な音をたてて切り株に弾き返された。周りを見渡せば似た様な切り株が乱雑にある。村を囲む魔獣対策の防壁も作り終え、改めて農耕を始める為、何時までもイベントリ内のアイテムで賄うのも限界があると思い直し、ならば畑を耕し作物を収穫できるようにしようと思い立ったからだ。
村のすぐ傍にもう一つ小さな防壁を組み、その防壁を組むために伐採した木々の根っこを掘り起こす。その手間を何とかしようと、ゲームでは地面を耕す事の出来た農耕アイテムの鍬を振り下ろしたのだが、ゲームの時は農耕可能な場所に切り株が無く、地面にしてもあくまでグラフィックだった事もあり手応えが全然違った。
「仕方ないか。」
イベントリから取り出したのは、ここの所何だかんだと役に立っているビックフットトレントの丸太。ビックフットトレントという、俺にとっては中頃の魔獣だとしても、この辺りでは他の木々も含めて最高峰に君臨していた魔獣のそれを、切り株の根元の辺りに深々と差し込み、てこの原理を用いて切り株を掘り起こす。
「おお、感触がおもしれ!!」
ぐっと体重をかけ、丸太を下へと押し込めば、グモッとなんとも言えない感触と共に切り株が持ち上がる。その感触にテンションが上がり、楽しくなってしまった俺は、見える範囲にある切り株をどんどんと掘り起こしていった。
「よし、こんなもんか。」
キッシュの身体能力と、掘り起こす時の感触に夢中になってしまい、あっという間に大量にあった切り株は掘り起こされ、一か所に纏められ積み上げられている。ボコボコになった地面を鍬で掘り起こしたり均し、土に空気を含ませていく。
ある程度済んだ所で近くを流れる川から持ってきた小粒の砂利を混ぜてゆく。この辺りは肥沃な森だった場所であり、主に腐葉土だ。普通ならば砂利はむしろ取り除く方が良いのだが、俺が今植えようとしているのは、元はゲームのアイテムとはいえ異世界産の植物であり、適度にストレスとなるものがあった方がよく育つ。
何でこんなことを知っているのかといえば、ゲーム内に書かれた設定を思い出したからだ。だからこそゲームの時はモンスターが襲ってくるフィールドの方がよく育った。
「あとは肥料っと……、試しにだし『タベカス』でいいか。」
砂利と土を混ぜ合わせた後、イベントリに手を突っ込み、大きな袋を取り出す。袋には『栄養満点、植物がよく育つ。これが一番最初!!』と縦に小さく書かれ、中央部に横文字で『肥料タベカス』と書かれたもの。一番ランクの低い肥料アイテムの中身をばら撒き、均一になるように混ぜ合わせていく。
次に畝を作り、ある程度間隔をあけながら植物の種を数個ずつ蒔いて軽く上から土を被せた。川から汲んできた水を掛ける。
「そういえば、あれが居なかったな。モワームが居れば、そっちの方がいいんだけどな……」
切り株を掘り起こしている時から、いまだ一匹も見ていないミミズ。ミミズが居るかどうかは、いい畑の一種のステータスでもある。ミミズの糞が野菜には良い肥料となるからだ。ダンジョンで見かけたゴールドモワームとは言わないが、普通のモワームでも居れば、それが一番いいのだが。
ティム出来ていない以上無い物ねだりをしても仕方がない。かつてコラボアイテムでもある生餌を取り出した。これは釣りイベントの期間限定アイテムの一種でもあり、池に放ってあるロカフグ等の魚型アイテムを手に入れるのに必要なものだった。
見た目はまんまミミズ。名前はウォウォーター。いや運営よ、遊びすぎだろと言いたくなったのはこの際置いておく。農耕用のアイテムではないのだが、良い畑にはミミズが居ると知っていた俺は、最低限のロカフグを含む農耕用アイテムを釣り上げた後、少しばかりだが確保してあったのだ。
「にしても、なんでミミズが居なかったんだろうな。こんだけの森を形成出来る良い腐葉土なのに。」
いくら天敵がいるかもしれない。それが魔獣だとしてもだ。としてもいくら何でも少なすぎる。イベントリから取り出したミミズを畑に逃がしながら、不思議に思う。
積み上げた切り株を収穫物収集のスキルを使用して、丸太としてイベントリに片付けつつ、畑を広げていく。やはりミミズの姿は無い。
「おっ、石だ。ふんっ、ぐっ!?……結構、でかいな。」
切り株を片付けたその下を掘り耕し畝を作っていると、鍬が石にぶつかった。浅い場所にあったが土に紛れて判らなかったようだ。片手を添えて持ち上げようとするも、キッシュの身体能力をもってしても持ち上がらず、両手で力を込めて軽く動く程度。そうとう大きい事が覗える。
切り株を掘り起こす時にも役に立ったビックフットトレントの丸太をここでも使い、石を掘り起こそうとするも、土を耕してしまった為に上手くいかない。小さめの石をかましぐっと力を込めた。グググと徐々に徐々に石が持ち上がるも、予想をはるかに超える大きさだったのか、広範囲に周りの土が盛り上がっていく。
「おお、おおりゃっっ!?」
掛け声一発。更に体重を掛けて、丸太を地面に押し付ける。反動で石が宙を舞った。
「うおぉぉぉぉぉ…………!?」
石が宙を舞ったと同時に、俺も宙を舞った。地面に丸太を押し付けたと同時に、下へと落ちたのだ。
「く、空洞!?……っておわっ!?」
そこは空洞になっており、光は石の大きさ分の穴から降り注いでいるだけだ。上を見上げ、宙を舞っていた石が落ちてくるのが見えた。慌ててその場を飛び退く。
「あ……、とりあえず松明でも設置してくか。」
こういった天然系洞穴ダンジョン攻略には必須アイテムである松明を取り出す。基本的にダンジョンの明かりは確保されていたが、ときたまに明かりが無いと攻略出来ないダンジョンもあった。農耕用アイテムを求めダンジョンに潜っていた為に、もしもという時ようにいくつかの明かりアイテムがイベントリには入っている。
松明を設置し、一応これも低ランクとはいえ明かりアイテムであったため、本来の松明とは違い広範囲に暗闇を晴らした。
「おお、町じゃん。」
俺は思わず声を上げていた。空洞に声がこだまする。見える範囲には円形に壇上に並ぶ家々だったであろう、結構な年月が経っているのか見える範囲でもボロボロだが、それでも地下にあったお陰か風化せず形を残していた。
「そうか、俺が畑を作った場所が、この町の防壁の上に当たるのか。」
見える範囲の町を囲むように作られた高い壁。一目で防壁であると見て取れるそれは、埋まった場所もあるとはいえ、視線をやるとちょうど俺が作った畑の部分に突き当たる。石があった場所はぎりぎりその防壁の内側にあたり、崩れ落ちたのだ。
突如、カランと音が鳴る。
「だれだっ!?」
「わっ、わっ、待って、待って!?」
傍で鳴った為に振り返りつつ問うと、キーキーと甲高い声が返ってきた。




