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3-7

 傭兵ギルドの立地条件的に、もし誰かに逃げらえた時は、すぐさま外に出て周りを確認する。もし周りに誰も居ないのであれば、まだギルドの建物内に居るという事。この時に慌てて中に戻るのではなく、ギルドの建物を囲み逃がさないようにする。それと同時に傭兵団長である自分に連絡を入れろと指示してあったのだと。


「まぁ、こいつらの話を聞く限り悪いのはこっちだ。」


 俺の前を歩く鬼の傭兵団の団長だと言った鬼は、俺の方を向いて事情は知っていると言った。


「だがそれで見逃しちゃ、俺達はおまんま食い上げなんだよ。だから、きっちり決着付けとこうや。」


 ニヤリと笑う傭兵団長。俺としては面倒くさい。確かに傭兵を雇いに来たのだが、それとしてもギルドを通して、目の前の鬼の連中を雇う必要も無く、逃げ出して悪く言われようとも、別に傭兵になりたい訳でも無く問題はない。


「あら、あんた良い体してんじゃない。どう私と遊ばない?」

「うお、何だこの化け物。」

「失礼ね。サキュバス捕まえといて言っていいセリフじゃないわよ?」

「どこにサキュバスの要素があんだよっ!!どう見ても達磨仙人って感じじゃねえかっ!!」


 後ろで捕まっているハーゲテーナイや四夜さんを守る為には大人しく付いていくしかない。俺だけなら何の問題も無いだろうが、流石に二人だけでは格上に囲まれた状態で逃げ出せるとは思えない。


「おい、いいのかよ。お前さんの仲間だろうに。」

「……見えてない、聞こえてない。捕まっている筈のハーゲテーナイが逆に襲い掛かっているように見えるなんて、見えてない、聞こえてない…………」

「いや、止めてくれよ。」


 ハーゲテーナイを捕まえていた鬼にロックオンしたハーゲテーナイがグイグイアピールしているが、筋肉達磨と表現できる容姿のハーゲテーナイに団長も含めてドン引きしている。


「まぁいい。でだ、決着の付け方だが、お前さんも鬼の様だし、鬼の伝統的な決着方法でいいよな?」

「伝統的?」

「はっ、もちろん力比べだよっ!!」


 目の前の鬼は力瘤を見せながら言う。


「んで、俺が勝ったらどうするんだ?」

「あん?……そうだな、そう言えばお前ら傭兵を探してたろ。だったらお前が勝てば、俺達が雇われてやるぜ。」

「判った。それでいい。」

「んじゃ、準備すっから、ちょっとだけ待ってろ。」


 そう言いつつ、ハーゲテーナイを捕らえていた鬼を中心に何か作業していく。よっぽどハーゲテーナイの傍に居たくなかったのだろうか、喜々として作業していた。


 で目の前に土俵が現れたと言う訳なんだが。


「いぎぎぎっ!!」

「ぐぐっ………」


 その土俵際で俺達は力を振り絞っていた。


 団長は俺に力で負けている事を悟り、俺が力を籠められないように浮かそうとする。俺は浮かされないように下へと引っ張りながら相手を押し出そうとするも、体勢的に前へと進めない。


「頑張りなさいキッシュっ!!勝ったら、もろもろ解決するのよっ!!」


 わかってる!!心の中でハーゲテーナイの声援に答える。声に出す余裕は無かった。


 最初にこの勝負を受ける時に決めた、もし俺が勝ったら、俺達に雇われるという。鬼にとって力は信奉の対象であり、文字通り力比べで負けたのだから、負けた側は勝った側に従うという掟の様なものもあり、だからこそこの言葉は信じられる。


「ついでにこの子を貰うわっ!!」

「んな約束してねえだろっ!!」


 よっぽど気に入ったのか、ハーゲテーナイが例の鬼を指さしながら声援を送ってくる。ハーゲテーナイの言葉に襲われてたまるかとその鬼が言い返す。


「アニーキ団長っ、頑張ってくださいっ!!」

「ぐぅ、てめえ!!本名を呼ぶなっ!!」


 興奮しているその鬼は、団長に声援を送るも、俺からすれば変な所は無かったのだが、周りはあっ!?馬鹿ッ!?と何やら慌てている。


 アニーキと呼ばれた団長が怒った様子で、その鬼に意識を向けた。


「おらぁ!!」

「うぉおおお!?」


 瞬間、そういった隙を待っていた俺は、下へと掛けていた体重を前へと押し出す。振り向いていた為に体勢が崩れており、さらに元々自力では俺が勝っていた為、あっさりと土俵を割ったのだった。






「鬼の里に食料を運びたいだぁ!?」

「あ、ああ。」

「お前なぁ、今の傭兵ギルドの事情を知ってんのか?」


 俺の言葉に驚きを露わにし、次いで呆れたかのように溜息を吐くアニーキ団長。


「何よ、男らしくないわね。あなたうちのキッシュに負けたんでしょ。竜種の貸し出しが多すぎて借りられないからって、だったら馬車でもなんでも借りて行けばいいじゃない。」

「ぐっ……、そりゃ俺達だって行けるもんなら行くけどな。その馬車を引く馬も借りられちまってんだよ。」


 そんなアニーキ団長の様子に、棒濁と涙を流している鬼を抱きかかえているハーゲテーナイが噛みついた。だが現状を理解していなかったのは俺達だったようで、ハーゲテーナイすら驚いた様子を見せている。


「馬車もって、いくらここが田舎だからって、そんな訳ないでしょ!!」

「あるんだよ。……人族領で勇者が召喚されたって話は聞いたか?」

「え、ええ。さっきミシュリーから聞いてきたわ。」

「なら話は早ぇ。今台の魔王様はな、勇者に攻め込まれるのを指を銜えて待つ心算は無いらしい。先にこっちから攻め込むんだとよ。んで、その準備に大忙しで、すべての馬車は出払っていると言う訳だ。」


 そ、そんなとショックを受けているハーゲテーナイ。なぜとも思ったが、そういえば俺達も引っ越しの為に、荷物こそ俺のイベントリに入れればいいのだが、子供達の安全の為にも馬車は借りたいところだった。


「せめてテイマーが居れば、新しく捕まえてくればいいだけなんだがなぁ。」

「……人手が足りないという事は、そのテイマーも出払っているという事よね。」

「ああ。……さっき俺が別行動してたのは、この辺りに住む知り合いのテイマーを尋ねていたからなんだが……」


 アニーキ団長は溜息を一つ、首を左右に振る。駄目だったらしい。だがそこで俺は思い出した。


「あ、俺一応テイマー持ってる……」

「なっ!?まじかっ!?」

「あ、ああ。俺、農民でもあるから……」


 俺の言葉に目を見開き食いついてくるも、俺が職業農民を取っている事を告げると、俺、農民に負けたのかと落ち込みだしたアニーキ団長。


 職業農民は専門職である調教師と比べれば、ティム出来るモンスターの数も種類もぐんと減るが、それでも農耕モンスターと呼ばれる、一部カテゴリーのモンスターはティム出来る。


 そしてその一部のカテゴリーモンスターの中に竜種が居た。


「でも、それなら、おい坊主。さっさと傭兵登録しに行くぞ。」

「ダメに決まってんでしょっ!!」

「おいおい、それじゃどうやって魔獣をティムしに行くんだよ。」


 俺が魔獣をティム出来ると聞いたアニーキ団長が俺に傭兵になることを進めてくるも、ハーゲテーナイが見たことも無いような、鬼に向かって鬼の形相でというのも変だが、そんな顔で反対意見を出した。


 確かに魔王軍が負けてしまえば、どうなるか判らないとはいえ、俺の様な子供を前線に送ってしまえば未来は無いと言い放つハーゲテーナイ。


 それに対し、この辺りの魔獣のレベルはそこそこあるとはいえ、それでも空を飛べたり、力の強い魔獣をティムする為には、やはりギルドが管理する転移陣でダンジョンに潜るのが早いと説得するアニーキ団長。


「だったら、忍び込んじゃったら?」

「はい?」


 険悪になってきた空気の中で、突如間に入ったミシュリーさんの言葉に全員が唖然として空気が固まった。

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