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イクスに追い出されたと言うより、正確にはお昼寝中の子供達を起こさないようにするために自分から外に出てきたとは言え、それでも少しばかり暇が出来た。最初のうちはハーゲテーナイに現状説明のようなものをしてもらっていたのだが、それも十分ぐらいで終わってしまう。ここに来るまでに、それなりには説明して貰っていたのだから、それの補足程度だから仕方ないのだが。
「とりあえず、仮の住処でも作るか?」
独り言を呟きつつ、自分に出来ることを確認していくことにした。あのイクスの住んでいる、言っちゃ悪いがボロ屋敷では倒壊の不安があるし、見た感じ部屋数も多くはない。家具だって満足になさそうだったし。
「材料は問題ないな。」
ビックフットトレントから取れた木材系アイテムに、ゲーム時代にそれなりにためていた建築アイテムを使えばウッドハウス型の一軒家ぐらいは作れる。こういった時を想定等していないのだが、それでも職業大工を取った自分に花丸満点という一昔のような採点をつけて、取り出した材料に手を翳した。
「ラーメン構造にして、そんでもってプレハブのように解体、組み立てを楽に行えるようにして……」
ラーメン構造というのは柱と壁で組まれた長方形の箱をイメージして貰えば判りやすいと思う。正確には鉄やコンクリートでそれを作り、接続部を剛接合したものだが、俺のはあくまでイメージしやすいからというもので正確には違う。
ここは直ぐにでも引っ越す予定であることから、イベントリにしまえるように簡単にパーツ毎に分けられるようにした。こういった融通はゲームでも以外にも幅広く取られていたことを思い出したから、出来るかなと思いつつ行えば出来てしまった。
とりあえずはこれでいい。後は魔獣対策が必要だったけ?と出来上がった外観に納得しつつ、ハーゲテーナイに教えられた事を思い出す。
ハーゲテーナイに説明して貰ったが、ゲームの時にモンスター扱いだったそれは魔獣と呼ばれ、異形種は魔族、または魔人族と呼ばれているとのこと。扱いはゲームそのままで。魔獣は魔人族と比べて知能が低く本能で行動する。
だからこそ魔獣除け対策は必要で、あのボロ小屋の周りにも魔獣が嫌う臭いを発する植物が植えられていたりするそうだ。
その植物を育ててもよかったのだが、それよりも良い物がある。ゲームの農耕の時にも活躍した魔物除けのロープだ。しかも使ってもなくならない永遠シリーズのそれ。それをぐるりと組み立てた小屋の周りに張り巡らせる。
「……何か、トンテンカンテン音がすると思ったら。」
「流石に、あの小屋だったら俺の寝る場所がなさそうだったんでな。」
「それはそうだけど、もうすぐ此処引き払うのよ?」
「大丈夫だって、この小屋解体出来て持ち運び出来るからさ。」
「あら、そうなの?」
中身、簡単な家具の類を作っているとハーゲテーナイが手にお盆をもってやってきた。そのお盆を俺が作ったテーブルの上に置き、呆れたように話しかけてくる。音か。それほど煩くしたつもりはなかったのだが。
「もしかして、起こしちまったか?」
「ぐっすり寝てたわよ。と言ってもそろそろお昼寝も終わりだから、騒がしくなるわよぉ。」
ハーゲテーナイの言葉が終わるかどうかといったタイミングで、ボロ小屋の方向からガヤガヤと騒がしくなってくる。
「誰ぇ!!」「誰だろ。」「あれ誰か知ってるやつ居る?」「誰でもいいよ、ねぇあそぼ?」
「うわっ、ちょ、今は危ないって!?」
「あーあ、しょうがないわねぇ。」
下の、まだヨチヨチ歩きしかできない子等はイクスに手を引かれ、それ以下の赤ん坊達は乳母車や抱っこにおんぶされていたが、幼稚園児ぐらいの子等についてはそのまま。だから興味そのままに俺に纏わりついてきた。
幼稚園児ぐらいの年齢だからと侮るなかれ。見た目はボーイッシュだったり、お人形のようにかわいらしいと表現できる子も居るには居るのだが、流石はサキュバスだと言わざるを得ない。須らく女の、それも淫乱というのか、蠱惑的というのか、そんな雰囲気を纏い惑わしてくるのだ。
だが手を出すわけにもいかず、また大工道具を手に持ったままなので下手に動くわけにもいかず、困惑しているとハーゲテーナイが言わんこっちゃないと息を吐きだしつつ助けてくれた。
「た、助かった。サンキュウな。」
「いえいえ、どういたしましてと言っとこうかしら?…でもある程度は覚悟はしておいてね?」
「へ?何を?」
「それは当然、これよ、これ。」
「うおぉーい!?こんな子供等に何教えようとしてんのさ!?」
ハーゲテーナイに助けてもらった礼を言うと、神妙な顔をしてとんでもない事を言われた。親指と人差し指で作った丸に反対側の親指を出し入れしながら。
「でも、そろそろ精気の味も覚えさせなけりゃいけないわ。」
「イクスまで!?」
ハーゲテーナイの言葉に思わずツッコミを入れていると、後からのんびりとやってきたイクスまでその話に乗っかってくる。
いや、この子等もまたサキュバスなんだから、そういった行為を覚えさせなけりゃいけないのは判るんだが、それでも離乳食のように言うのはどうかと思う。
「でも、今は必要な事の方を優先しましょ。」
「それもそうね。まだまだこの子等には今すぐしなければいけないってわけでもないし。」
「……そうしてくれ。」
イクスの顔は真剣で、別に冗談を言っていると言う訳ではないことは判ってしまったため、なんとなく気疲れを起こす。むしろハーゲテーナイの方が冗談を言っていたかのようだった。
「それで、これは何?」
「ああ、ガキンチョ用に作った滑り台だな。」
何とか絞り出した言葉にこの話はこれで終わりという空気が流れる。イクスもハーゲテーナイもそれに乗ってくれて、改めてイクスが周りを見渡し、俺が今作っているものを見た。
家の方も、そこで使う必要最低限の家具も作り終えていた俺は、子供等用に余った木材で遊具を作っていた。と言っても大きな物ではなく、間違って怪我をしないように俺の腰ぐらいしかないものだが。
滑り台を見た事がない以上に知らないのか、滑り台を指して何を作っているのか聞いてくる。当り前だが別に黙っておく必要もなく、使い方なんかを軽く説明し、近くにいたショートカットで見たところ一番活発的な子を呼びよせ、体験してもらった。おお!!と歓声をあげ、すぐに他の子等も寄ってきては、滑り台は人気になった。
「ほらほら、喧嘩しないの。」
「ほかにも色々作ってやるから。」
それどころか取り合いにまで発展。小さく作った事と、子供とは言え魔人族であり、それなりの力を有していた事もあり、一人が奪って逃走すると鬼ごっこが始まった。それを諫めるイクス。それを見ながら俺はやっぱり滑り台があるのなら、これもなくちゃとブランコを作り始める。
今度のは数人が一度に乗り込む事が出来る物で、だからか滑り台を取り戻そうとしていた他の子等も戻ってきてはブランコに乗り込み、ハーゲテーナイに押してもらってキャッキャッ燥ぐ。滑り台を持って逃げた子も戻ってきては、仲間外れにされた事に半べそを掻きながら謝り混じっていった。
「あの子達のあんなに燥ぐ様子は久しぶりに見るわ。」
「うん?そうなのか?」
「ええ。子供だからなのか、それともあの子達だからなのかは判らないけど、あの子達結構聡いのよ。」
さっきまでの無表情に近い表情か、それとも獲物を狙う蠱惑的な笑みを浮かべたそれかではなく、母性的な笑みを浮かべながらポツリと呟くように言ったイクス。あの元気一杯と体全体で表現している連中が、実はここ数日沈んでいたと聞かされても信じられなかった。
だからこそ聞き返したのだが、例えサキュバスだと言っても、村人が自分たち以外に居なくなった事には気落ちしていたのだそうだ。
「だから、キッシュが来てくれて本当に嬉しいわ。」
「うえっ、いや、それほどでも!!」
母性的な笑みを浮かべたまま、こっちを向いて恥ずかしい事を言われた。それはただの歓迎の言葉だったのかもしれないが、それでも俺はイクスに見惚れてうまく言葉が紡ぎだせなかった。




