第九話 傷の意味
「お前ら何笑いよんぞっ、早よ行くぞ」
芹沢は男たちの方へ振り向くと、一番手前にいた男を小突きながら言いました。
「伊藤、雉林の娘さんにはもう一回しっかりお礼言うといてくれや。ほしたら、俺らは行くきぃ」
「はいよ、分かりました。ほしたら、俺はあの二人が帰ってくるまでに娘さんの様子でも見に行っときましょうわい」
瀬戸村の男たちはゾロゾロと出て行き砥部村へ向かい、伊藤は斎藤に連れられ、あんこの様子を見に家の方へ歩き出しました。
家の中を見ると、左腕に包帯を巻いたあんこが早速、怪我人の手当てしていました。
「あんこ、さっき様子が変だったが大丈夫そうだな」
浅井がまつ子に近寄り小声で聞くと、
「うん、包帯も自分で巻いてたし、血が出てる様子もないから…大丈夫だと思うけど…」
まつ子は少し浮かない表情です。
「あんこちゃん、今お粥作るから、少し休んで」
まつ子はそう言うと台所の方へ向かいました。
「あんこ、俺らにも手伝えることあるか?」
斎藤がそう聞くと、あんこは手当ての手を止めることなく振り返り、
「水をたくさん汲んで来てくれるとありがたいです。この子すごい熱が出てる、私は薬を準備したいので」
そう言われた斎藤と浅井は井戸に水を汲みに行きました。
伊藤は忙しそうにしているあんこに礼を言う間がないので、仕方なく水汲みを手伝いに、二人に着いて行きました。
「沖田と近藤だったっけ?あの二人どれぐらいで帰って来るんだろか」
「う〜ん、気難しい奴ではないんだが、何せ気の優しい奴だからなぁ。説得には時間がかかるかもしれん」
「そんなに強いんか?どんな奴なん?」
「強いかどうかは分からん。かなりの力は持ってると思うんだがな…体も大きいし。両親を早くに亡くしてな…明智のじいさんとばあさんには世話になってたから…じいさんが死んでしまってかなりまいってるんじゃないかな」
「ほうかぁ…皆いろいろあるわなぁ…来てくれたらえんじゃけど」
大きな桶に水を汲み終わった三人は家の方へ向かいます。
「あんこ、水汲んで来たぞぉ」
「ありがとうございます」
あんこはすぐに準備していた薬を熱が出ている子に飲ませ、水で冷やした手拭いをその子のおでこに乗せました。
「しっかり、寝てね」
その子の肩をトントントンと優しく寝かしつけるように手を添えています。
その姿を見た斎藤たちには、あんこがその子の母親のように見え、とても八歳とは思えません。
微笑ましくも悲しい表情であんこを見つめていました。
あんこは誰にも気付かれないように振る舞っていましたが、左腕にあるアザが三日月の紋章であることを理解していました。
そしてその紋章の意味を知っていたのです。




