第五話 おもちの行方
次の日もまた喧嘩が始まりました。あの晩以降、毎日のように喧嘩が絶えません。
「魚を取りに行くしかないだろ!」
一人の村人が言います。
「海は危ない。いつまた鬼ヶ島のやつらが来るとも限らん」
「今度は返り討ちにしてやるよ!」
「逃げ出したやつがよく言うよ」
「何だとっ!」
取っ組み合いが始まってしまいました。
「やめろやめろ!内輪で揉めてる場合じゃないだろ」
「でも、食糧確保には漁に出るしかないだろ」
「大きな船は、あの晩荒らされて使い物にならん。漁に出るなら小さい船しか…」
「あんな小さい船だと乗れる人数も限られる。少人数で襲われたらと思うと…俺は乗りたくない」
皆それぞれに思い思いの事を言い合い、なかなか話しがまとまりません。
「喧嘩はやめてっ、子供たちも見てるから。それより、芋の煮っ転がしできたわよ」
喧嘩をしていた男たちは、全員声がした方向を見るとすぐに黙りました。
「まつ子さん…すまん、ありがとう」
まつ子とはあの晩に殺された今川ぼた助の奥さんであり、村でも評判の美人です。
皆、まつ子の言う通り素直に、芋の煮っ転がしに群がり食べ始めました。
「有田村に行ってみたらどうかのぉ。あそこの猿川なら、生き残っとるかものぉ」
明智のばあさんが話し出しました。
有田村とは三日月の形をした宝島の湾の端に位置した村で、波佐見村の対岸にあります。
湾の中心にある瀬戸村の次の日に襲撃にあった村です。
大きな湾では、それはそれは様々な魚がたくさん取れました。
海辺の村では漁が盛んでしたが、特に有田村では猿川漁船団を中心に宝島では有名で、造船も盛んに行われていました。
「それはそうと、羽柴のとこのせがれは何処に行ったかのぉ?見当たらんが」
明智のばあさんが、周囲を見ながら村人たちに聞きました。
「雉屋がこの状態だからな。他の村まで、医者を探しに行ってくれたよ。昨日出て行ったから、早ければそろそろ帰ってくるかもな」
「ほうかほうか、おもちちゃんも何処におるのやら……砥部村か瀬戸村かどちらかにでも医者が生きとってくれたらのぉ」
海辺に面した波佐見村の奥にある村が砥部村で、隣の村が瀬戸村です。
「生き残ってたとしても、どの村も怪我人だらけだからな。うちの村まで来てくれるかどうか……おもちが、生きていてくれれば良いんだが……」
おもちとは雉林家の長女のことで、あんこの姉です。襲撃の翌朝、斎藤たちが雉林家であんこを見つけた後、家の中や庭はもちろん、周囲の林も探しましたが見つからず、行方が分かっていませんでした。




