第三話 医者探し
昔々のそのまた昔、鬼ヶ島からの襲撃を受けた宝島でのお話です。
宝島は三日月のような形をしており、周囲は断崖絶壁です。
内側の輪っか部分が湾になっていて、上陸はそこからしかできません。
五つの村がありましたが、突然毎晩のように鬼ヶ島からの襲撃を受けました。
まずは海辺に面した村を三つ、その後、島の奥にある村を二つ…
波佐見村が襲われてから二日後、宝島にある全ての村がほぼ壊滅状態となりました。
襲撃を受けてから三日後の波佐見村でのお話です。
「まずは怪我人の手当てと食糧の確保だな」
海辺の村である、波佐見村の人たちが話し合いをしています。
「雉屋に薬はたくさんあるが、俺たちには診断ができん。薬をどう使えば良いのやら…」
波佐見村の生き残った人たちのほとんどは、わずかに残った食糧をそれぞれ持ち寄り、村で一番大きな家である薬屋の雉林家に集まっていました。
「村が襲われてから、もう三日か…食糧もそのうち底を尽きてしまう…」
「いやいや、昨日も海辺に船がたくさんついてたよ。うちの村は素通りして、奥の方に行ったから多分、砥部村を襲ったんだと思うよ」
一人の若者が、場の雰囲気には似つかわしくない高い声で話し出しました。
「お前は確か、羽柴さんとこのぉ…ぉー」
「いやいや、せんべいだよ」
「そうそうせんべい、せんべいだったな。せんべいお前海辺に行ったのか?危ないだろ」
「いやいや、俺は逃げ足だけは速いからね。だから、こないだも逃げられたんだよ」
「そうかもしれないが、鬼に捕まったら殺されるぞ」
「いやいや、夜中にあの唄が聞こえてきたからね、遠くからそっと様子を見に行っただけだよ。それに鬼って言っても見た目は俺たちと同じ人間だよ。あの金棒さえ無ければね…………そう言えば、あんこちゃんは?」
周囲をキョロキョロと見渡しながらせんべいが聞いた「あんこ」とは雉屋で生き残った娘の名前です。
「奥の部屋で寝てるよ。あの日から一度は目を覚ましたが、またすぐに気を失って、それっきり目を覚まさなくなっちまった」
「いやいや、診断してもらわなきゃ。薬だけたくさんあってもだめでしょ」
「その話しをずっとしてんだろ!と言うか、いくら雉林家の者とはいえ、まだ八つの娘だ。無理矢理起こすのは可哀想だろ…目の前で両親を殺されたんだ。そもそも、また目を覚ますかどうかもわからん…」
浅井は痛めた足を前に伸ばし、両手を後ろにつき、のけ反り、少し怒った口調で静かに言いました。
雉林家は代々天才の医者家系で、薬屋だけでなく、診断・診療しており、生き残ったあんこもまた病人や怪我人の手当てをしていました。
「いやいや、じゃあ俺が他の村まで医者探しに行ってくるよ。どこかの村には生き残った医者がいるかもしれない」
村人たちは顔を見合わせ、このいかにも軽率な若者に頼むべきかどうかと考えましたが、村には動ける者も少なく、村一番身軽な羽柴せんべいに医者探しを頼むことにしました。
「せんべい、そこにある芋を持って行け。少ないが、腹の足しにはなるだろ」
斎藤が土間の方にある芋を指差し言いました。
「いやいや、その辺の山菜やらきのこやらを食べるからいいよ。いつ戻ってこれるかも分からないしね。それに九谷山の近くまで行けば、美味しい山菜がたくさんあるんだよ」
九谷山とは宝島の真ん中にある大きな山のことで、十の山が連なり九つの谷があります。宝島の象徴のような山で、皆から愛着を持って、「くたにさん」と呼ばれていました。
「九谷山?あの辺りは野犬が多くて危ないと聞くが、あんな所まで度々行っていたのか?」
「いやいや、俺は野犬からも逃げられるからね。人があまり入らないから山菜取り放題だよ」
せんべいはそう言うと、すぐに出かけていきました。
「せんべいのやつ、一人で大丈夫か。俺が着いて行った方が良かったんじゃないか」
浅井が少し不安そうに、そして少し馬鹿にしたように言いました。
すると、斎藤がすぐさま言い返します。
「いやいや、お前、足を怪我してるんだから、邪魔にしかならねぇよ」
「そりゃ、そうだ」
「いやいや、ついでに顔も悪いからな」
「それは関係ねぇだろっ!悪くねぇしっ!って言うか、何でせんべいの喋り方だよっ」
二人の軽快なやりとりに、張り詰めていた雰囲気がほんの少しですが緩みました。
しかし、この時はまだ誰も知りませんでした。せんべいの喉元に三日月の紋章が浮かび上がっていることに……




