第二話 桃から生まれた桃太郎
昔々ある所に、それはそれは仲の良いお爺さんとお婆さんが住んでいました。お婆さんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてくるではありませんか。
お婆さんは慌てて桃を拾い上げ、家まで担いで帰りました。
「お爺さん!お爺さん!大きな桃を拾いましたよ!早速食べましょう」
お爺さんが桃を切ると、中から男の赤ちゃんが出てきました。
二人はたいそう驚きましたが、子供がいなかった二人はその子に桃太郎と名付け、大事に大事に育てました。
…………
…………
ある日のこと、
「おーい、皆んな集まるんじゃ」
お爺さんは村の子供たちを集め話し始めます。
「夜、海には決して近づいてはならんぞ、海の向こうに住んでいる野蛮人どもに連れて行かれてしまうからじゃ。」
「村長さんまたその話し〜、もう何回も聞いたよ」
村の子供たちはつまらなさそうに言います。
「何回でも聞くんじゃ!野蛮人どもは村を襲い、人をさらい、食べるんじゃ。こないだも隣の村が襲われたんじゃ」
桃太郎のお爺さんは、この村の村長です。子供たちが蛮人たちにさらわれないよう、何度もこの話しを聞かせています。
「蛮人ってどんなの?大きいの?」
一人の子供が小さな体を更に小さく丸め、恐る恐るつぶやくように聞きました。
「見た目は人間と一緒だけど、体のどこかに蛮人の紋章が入ってるんだっ!だよね?お爺さん」
桃太郎が得意げに立ち上がりながら言うと、お爺さんは桃太郎の目をギロッと睨み、さっきまでとは違う低い声で、
「誰から聞いたんじゃ?」
桃太郎はいつも優しいお爺さんに睨まれたので、言ってはいけないことを言ってしまったと思い、下を向き無言でしゃがみ込んでしまいました。
少し間を置き、お爺さんが話し始めました。
「昔から何度かこの村も襲われたことがある。わしは逃げるのに必死であまりはっきりとは見とらんのじゃ。ただ、大きかったと言う話しも聞けば小さかったとも聞く。ツノやキバがはえとったというやつもおる。紋章の話しもそうじゃ…定かな物はない。人を襲い食糧や金品を奪っていく、ただそれだけじゃ」
始めはつまらなさそうに聞いていた子供たちは全員、村長の話しを黙って聞いていました。
「さあ!今日はここまでじゃ」
手をパンパンと二回叩きながら、話し始めた時と同じ高さに声を戻し、子供たちが家路に着くのを見守りました。
その隣には桃太郎がまだ下を向いたまま座り込んでいます。
「さあ、わしらも帰るぞ!お婆さんがお風呂を沸かして待ってるぞ!まずはお風呂に入ってから、美味しい夕飯じゃ」
もう怒ってないよ、と桃太郎を元気づけるように、背中をポンポンと優しく叩き二人は家へと歩き出しました。
「おかえりなさい」
いつもの優しい声でお婆さんが迎えてくれます。
家の中から団子汁と焼き魚のいい匂いがしています。さっきまでの落ち込んでいた気持ちがどこかへ飛んでいき、桃太郎は一気にお腹が空いてきました。
「ただいまっ、お腹空いたぁ〜」
「まずお風呂じゃ」
お爺さんもいつもの優しい顔で言いました。
毎日二人でお風呂に入ります。桃太郎がお爺さんの背中を流した後、お爺さんが桃太郎の背中を流します。
お爺さんは毎日桃太郎の背中を流しながら、涙ぐんでしまいます。
その小さな背中には団子ほどの大きさの蛮人の紋章があるからです。




