第十三話 猿川の元へ
「そうと決まれば、早く朝ごはん食べて」
あんこが二人分の朝食を準備し、台所へ戻って行きました。
「じゃあ、早速頂くか」
うずらは頷き松平の横に座ると、二人は他の村人たちよりも早く朝食を食べ始めました。
「道中、何があるか分からん。斧でも持って行くか?」
村には武器になるような物はありません。そのため、斎藤が二人を気遣い提案しました。
「いや、ここで薪割りできなくなるだろ。またここに鬼が来るかもしれないしな。斧がなくても、うずらは俺が守るよ」
「父ちゃんは俺が守るから」
うずらは米でいっぱいになった口にみそ汁をすすりながらそう言い返しました。
斎藤たちはさっきまで鼻水を垂らしながら泣いていたうずらに成長が見え、微笑ましく思いました。
「おはよう、もう朝めし食べてるのか、早いな」
目をこすりながら、足を引きずった浅井が起きてきました。
「おはようっ、俺と父ちゃんで船大工を探しに有田村まで行くんだ」
うずらはたくあんをボリボリ食べながら浅井に言いました。
「有田村まで!?かなり遠いが大丈夫か?」
「うん、二日ぐらい歩きっぱなしでも全然平気だからっ」
うずらは得意気に、そして楽しそうに答えます。
「ハハハそうか、そうか。じゃあ腕の良い船大工連れて来てくれよ」
浅井は笑いながらうずらの背中をバンバンと叩きました。
「うんっ、任しとけ」
背中を叩かれたうずらは米を口いっぱいに頬張りながら嬉しそうに言います。
「よしっ、じゃあ行くか」
腹いっぱい朝食を食べた松平とうずらの二人は、瀬戸村を出発し、有田村を目指します。
波佐見村から湾の反対側にある有田村へ行くには、本来なら海沿いの街道をまっすぐ歩くのが一番の近道です。
しかし、二人が選んだのはその近道ではありませんでした。
出発前、明智のばあさんが固い表情で松平に言いました。
「海沿いは見晴らしが良すぎるからのぉ。いつまた鬼どもが海から襲ってくるか分からん。遠回りにはなるが、九谷山の裾野をぐるりと迂回して有田村へ向かった方が安全じゃ」
二人は、その教え通りに内陸の山道を選び、歩いています。
しかし、武器になるようなものは一切持っていません。持っているのは、あんこが作ってくれたきび団子だけです。
松平は我が身一つで六歳のうずらを守る覚悟で歩いていました。
「父ちゃん、まだ着かないの?」
うずらは必死に松平の後を追います。小さな歩幅では、大人の歩みになかなかついていけません。
「ハハハあぁ、まだまだだ。うずら、無理するな。少し休むか?」
「ううん、大丈夫! 俺は平気。早く有田村に行って、船大工に来てもらわなきゃいけないんだろ?」
強がるうずらの額にはびっしょりと汗が滲んでいます。亡くなった母ふみ子の顔が頭をよぎるたび、うずらは小さな拳をギュッと握りしめ、自分を奮い立たせていたのです。
その時でした。
ガサガサッ……!
街道沿いの鬱蒼とした草むらから、低い威嚇の唸り声が響きました。
「……っ! うずら、俺の後ろに下がれ!」
松平は瞬時にうずらを背中に庇い、足元に落ちていた木の棒を拾い上げると身構えました。




