第十一話 あんこのきび団子
昔々のそのまた昔、鬼ヶ島からの襲撃を受けた宝島でのお話です。
沖田と近藤が永倉を呼びに行ったあと、波佐見村の人たちは、雉林家の居間にあるケヤキで作られた大きな一枚板の座卓を囲み、まつ子が作ってくれた料理を食べながら話をしています。
「まつ子さんはやっぱり料理上手いなっ。ぼた助は毎日こんなに美味い飯たべてたのかぁ」
「おいっ、馬鹿っ」
斎藤がすぐに割って入ります。
浅井は軽率なことを言ってしまったと、にやけていた顔が一変し、申し訳なさそうな顔をしています。
「す、すまん、まつ子さん。悪気はないんだ」
「いいのよ、美味しそうに食べてくれた方が嬉しいから。あの人もいつも美味しい美味しいって言ってくれてたわ」
「お前、本当にそう言うとこあるよな。悪気がなけりゃ良いってもんでもねぇだろ」
「いや〜すまんすまん、うちの嫁さんは料理はあんまりだったからよ」
「こらっ、亡くなった嫁のことを悪く言うもんじゃないよっ」
浅井は明智のばあさんにも怒られました。
「だから、そう言うとこだよ。馬鹿」
「斎藤、俺のこと馬鹿馬鹿言うのやめろよ〜」
「馬鹿につける薬は無いもんかのぉ、あんこちゃん」
明智のばあさんがあんこに聞きました。
あんこはお粥を食べていた手を止め、目だけを右上に向けて少し考えています。
「ありません」
クスっと笑いながら、あんこが答えました。
今まで大人びて見えていたあんこの表情がようやく八歳の子供に見え、村人たちは一安心しました。
「でも、まつ子さんの料理は本当に美味しいです。お粥の中に溶き卵と梅干しが入ってて、昆布でとった出汁も入ってる?」
「あんこちゃん、よく分かったわね。あと、少しだけお塩を入れて、味の調整をしてるのよ」
何も考えずただ食べていた男たちは、まつ子にもあんこにも感心しています。
「そう言えば、あんこちゃんも料理得意だったのぉ。ほれ、いつだったか、きび団子を持って来てくれてのぉ。あれ以上のきび団子は食べたことないわぃ」
「ありがとう。また作りますね。今まで任せっきりだったから、今晩からは私も料理手伝います」
これまで料理を作ってきた女たちはあんこの優しく健気な言葉に涙を浮かべています。
「そう言えば、ちゃんとお礼を言えてなかったなぁ。瀬戸村に雉林の娘さん…おもちさんだったか…怪我人の手当てに来てくれとったんじゃなぁ。瀬戸村を代表して礼を言よわぃ。ありがとうなぁ」
伊東は茶碗と箸を置き、座卓に両手をついて深々と頭をさげました。
「いいえ、礼には及びません。医者として当然の事をしたまでです。姉は今も頑張っていると思います」
「ほうじゃな、村に帰ったら責任を持って探すきぃ」
「伊東、俺からも頼んだぞ。それにしても、あんこはしっかりしてるな。浅井も見習えよ」
「うるせぇよっ、こんな大人もいるんだよっ、あぁ〜俺もあんこが作ったきび団子食べてみてぇなぁ」
「今度ちゃんと作りますって」
あんこは右手を口元に当て、笑いながら言いました。
「よしっ、腹ごしらえもできたし、俺らは薪割りでもするか」
斎藤が立ち上がると、浅井と伊東もお粥をかきこみ立ち上がります。
居間から直接庭に出て三人が薪割りの準備をしています。
村人たちは居間でご飯をたべながら、何気なく三人の様子を見ていました。
「俺がやろかぁ、薪割り得意なきぃ」
伊東が得意げに斧を持ちながら言いました。
「お〜、じゃあどんなもんか見せてもらおうか」
伊東は斎藤と浅井だけでなく、村人たちの視線を感じ少し緊張しましたが、良いところを見せてやろうと斧を思いっ切り振り上げた、その時でした。
「きゃぁーっっっ」
全員の視線が悲鳴の方へ向くと、あんこが頭を押さえ下を向いていました。
「大丈夫っ?」
まつ子があんこの肩に手を添えた後、すぐに庭の方に目をやりました。
そこには、斧を大きく振り上げた伊東が驚きのあまりそのまま固まっていました。
「斧を早く下げてっ!」
まつ子は咄嗟に大声をあげました。
伊東は斧を振り上げたまま、首を左右に振り斎藤と浅井の顔を見た後、斧をスッと下ろしました。
伊東たちは何が何だか分からず、お互いの顔を見ています。
まつ子はあんこの肩に手を添えたまま奥の部屋へ連れて行きました。
まつ子が戻って来ると、村人たちに話し出しました。
「多分…両親を殺されたあの晩のことを思い出すんだと思う。確か…金棒で頭を…」
「そう言えば、さっきも沖田が斧を振り上げた時だったな」
「知らんかったとは言え、申し訳ないことしてしもたのぉ」
伊東が肩を落とし申し訳なさそうに言いました。
「これからはあんこちゃんの前では、何かを振り上げたりする動作はやめんといかんのぉ」
明智のばあさんがそう言うと、村人全員が静かに頷きました。
結局この日、永倉を呼びに行った沖田と近藤、そして医者を探しに行ったせんべいも帰ってきませんでした。




