第7章 闇と光③
――その時だった。
赤い回転灯が、2人を一瞬照らした。そして、キュッとブレーキを踏む音がした。続いて車のドアが開く音がした。
「門亜、オレがパトカーを引き付ける。パトカーが行ったら、お前は家に帰れ。いいか、絶対だぞ」
門亜はうなずけなかった。
怒られるなら一緒だ。そう言うかのように門亜はカイの服の裾をぎゅっと握りしめた。……カイはその手を振りほどいた。
そして、パトカーからの光をぎりぎりかわすように、カイは走り出した。
先に降りたらしい、警察官のカイを追いかける足音が聞こえた。
門亜は木の陰に隠れると、ひざを抱えた。カイを追いかけることも、そこから動くこともできなかった。
心臓の音だけがバクバクと聞こえていた。
呼吸を静かに整えたが……少しだけ苦しかった。危うく叫び出しそうになるころ……ゆっくりとパトカーはその場を離れて行った。
カイ兄ちゃんは捕まったのか。それとも……。
門亜はのろのろと、家へ向かった。
――朝まで待っても、カイが帰ってくる様子はなかった。
キッチンでいつのまにか寝てしまったらしい。門亜は帰ってきた母親に起こされると、ベッドで寝るよう促された。
夕方、カイの家から父親の怒鳴り声が聞こえたが、それ以来、カイの姿は見ることができなかった。
翌日。
門亜は玄関のチャイムが鳴る音で目が覚めた。……夜更かししすぎた。
ベッドの上で大きく伸びをすると、水を飲もうと部屋を出た。すると、母親が誰かと玄関で話をする声が聞こえた。
……何だか不機嫌だ。
「門亜と……約束をしているの?」
自分の名前が呼ばれて、ギクッとした。玄関を見ると、音環が立っていた。
「いえ……電話番号を知らなかったから直接来ました」
「じゃ、約束はしていないのね」
……何!その言い方!門亜はその瞬間、階段の上から大きな声で言った。
「音環!今着替えて来るからちょっと待ってて!」
そう言うと、部屋に戻って大急ぎで着替えた。
寝ぐせが手で押しても直らなかったが……もたもたしていると音環がいなくなりそうで、慌ててリュックを持つと階段を駆け下りた。そして、
「行ってきます!」
と大声を出しながら母親の前を通り抜けると、カギもかけずに家を出た。
「音環、いこ!いこ!」
そう言いながら、門亜は音環を押して家から離れようとした。
普段は見ない、門亜の動きに音環はあっけにとられた。そして、ふと我に返ると、
「ごめん。気を遣わしちゃったよね」
と、音環は目を伏せ、感情のない声で言った。
「僕、大丈夫だよ。ごめんね。だから……」
音環がそう続けた瞬間だった。
「だから……?だから?そう言ってどこか行くの?」
じろっ。門亜は音環を見た。
「ボクを置いていくの?ボクのためと言ってどこか行くの?みんなボクのためと言って、勝手じゃん!」
門亜は足をがん、がんと地面に打ち付けた。
あまりの剣幕に音環はびっくりして言葉が続かなかった。
「ボクが一緒にいたい人はボクが選ぶの!嫌われたなら仕方ないけど、勝手なこと言わないでよ!」
門亜にじっと見られた音環は、目線をそらした。そして、肩を震わせると絞り出すように言った。
「いつも、そうなんだ。いつも、仲良くなったころ相手の親が『あの子と遊ぶのはやめなさい』と言ってさ……みんな離れていくんだ。
だったら、これ以上仲良くなる前に、離れたほうがいいと思ってさ……」
しょんぼりとして言う姿に、門亜は音環がまるでおぼれかけた子犬のように見えた。
仕方ないなぁ。
「ボクは離れないよ。音環が嫌になって離れるまで……それは嫌だけど」
そう、門亜が言った瞬間。お腹がぐぅ、となった。
そうだ、ボク、起きてすぐに外に出たんだ……恥ずかしい。
門亜は両頬を手で押さえた。顔が……熱い。
くすっ。音環がふいに笑った。そして、仕方ないなぁ、と言うように
「うちにおいでよ。何か残ってるから。好き嫌いとか……大丈夫だよね?」
そう言うと、音環は門亜の手を引っ張った。その時、門亜の袖から蚊にたくさん刺されてぼこぼこになった腕が出てきた。
「わっ!虫さされ大丈夫?薬は塗ったの?」
門亜は横に首を振った。
「仕方ないなぁ。じいちゃんに、薬ないか聞いてみる。うわぁ、痒そう!」
そう言うと、音環は門亜の手を引っ張って駆けだした。
門亜は音環の手をぎゅっと握ると、もう離さないぞ!と心の中でつぶやいた。
第7章 闇と光 このエピソードで終わりです。
光と闇、カイ兄ちゃんは強い光だったのかなと思いながら書きました。
光が強すぎると、周りはその光を避けるために屋根を作り、丈夫な壁を作り……。
いつの間にかその光は孤独になってしまうのだと、しみじみ感じます。
第7章、お付き合いをくださりありがとうございました。




