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第6章 大河と空河④

――長身の子は、直前まで音環が立っていた場所にほど近い家の、風よけ室を開け、続いて玄関を開けた。そして、


「ばあちゃん、友だち来たから上げるよ!」


と言い、階段を上がって行った。


どうする?と音環たちは顔を見合わせたが、後ろから


「入っちゃって」


と弟らしい子に言われたので、慌てて「おじゃまします」と言って靴を脱ぐと、階段を上がって行った。


2階に上がると、奥の部屋の扉が開いていた。こっち、と言うように長身の子が顔を出したので奥の部屋へと入って行った。


――部屋に入ると、窓からはYouTubeでみたアスパムの三角の屋根がちょこん、と見えた。


「同じだ……」


門亜の口からついて出た。すると、長身の子はバツが悪そうに言った。


「悪い。女子を連れて来たんだと思って、イラっとしちゃったんだよね」


女子、の言葉に門亜はむっと来た。じっと長身の男の子をにらむように見つめると


「怒るなって。せめて前髪切れよ」


と言われてしまった。


部屋の中は、エアコンの音がしていたが、まだ日中の熱気が勝っていた。門亜の額から汗が流れた。


「それ、フェンダーだよね!」


突然、部屋の片隅に飾られているギターを見て音環は言った。


「カズヤのパソコンでちらっと見ただけだったからよくわからなかったけど、僕も持ってるんだ!高音域が特に澄んでいて好きなんだ!」


音環はじっと長身の子の目を見た。さっきの険悪な雰囲気はどこへ行ったのだろう。トゲトゲした空気が音環の言葉に和らいだ。


「何?お前もギター弾くの?」


その言葉に音環はうん、うん、と嬉しそうにうなずいた。


「ごめん。僕、音環。小学校6年だよ」


「ああ、オレは大河(たいが)。同じく6年生。こいつは弟の空河(くうが)こう見えてもドラムは大人顔負けなんだぜ」


別の部屋で着替えて来たらしい、空河、と呼ばれた子は部屋に入るなり兄に褒められ目を丸くすると、へへへ、と鼻をこすりながら恥ずかしそうに笑った。


「音環……ギターを弾くの?」


大河は嬉しそうに聞いた。


「うん。両親が音楽をやっていてね。おさがりだけど僕もフェンダー持っているんだ」


音環の言葉に、大河はへえー、と言う顔をした。


「フェンダー仲間か。なら、今度合わせるか?」


音環は嬉しそうにうなずいた。


2人の会話を聞いていた門亜は、今度は完全に置いて行かれたような気がした。


ギターを弾くなんて……知らない。隣のすべっタローはぽかんとした顔をして会話を聞いていた。音環がいなかったら……すべっタローだって、離れて行っちゃうのに。


門亜の気持ちに気づかないまま、音環は続けた。


「そう。それでね。YouTubeのことなんだけど……」


そう言いながら、写真と色々書き込みをした地図を見せた。それらを見た大河は驚きを隠さないで言った。


「この写真だけでここまでわかっちゃうのか……。DMが来ていたのは知っていた。でも、カーテンを閉めると……ほら」


大河はそう言うと、カーテンを閉めた。蛍光灯がついていたとはいえ、一瞬、薄暗くなった。


「これで撮影をすると、あちこち暗くなるんだ。空河なんてドラムの後ろにいるから、顔だけが浮かんでしまって……ホラーになっちまう」


どうしたらいいのか分からない、と言う顔を大河はした。その時、今まで黙っていた門亜が口を開いた。


「背景をぼやかしたり、宇宙映像を入れる方法があるって言ってた」


やっとの思いで門亜は言った。すると大河は


「うーん。オレたち、そこまでは出来ないんだよね」


困った、と言う顔で言った。


本当に困った……。5人は腕を組むと、考え込んでしまった。


「カズヤならできるんじゃね?」


ふいにすべっタローが言った。


「ここに来れるかどうか、分からないけど……じゃなきゃ、映像ファイルを一旦カズヤに送って背景を作ってから送り返してもらうとかさ」


皆の目がすべっタローに向いた。お前……頭良くないか?目線に気が付いたすべっタローは頭をかきながら言った。


「うち、リンゴ農園やっていて、ホームページも持っているんだ。


最初だけプロに作ってもらったことがあってね。データを送ったりしていたんだ。カズヤがそう言うなら、大河のパソコンでも出来るんじゃないか?」


カズヤに聞いてみないといけないから、聞いたらまた来るよ、とすべっタローが言うと、大河は「お願いするよ。頼む」と言った。




大河の家からの帰り道、門亜は音環に思い切って聞いてみた。


「音環、ギター弾くの?」


門亜はじっと音環を見た。すると、音環は恥ずかしそうに言った。


「うん。ちょっとだけね。じいちゃんに教えてもらってるんだ。大河みたいに上手くは弾けないよ」


そうなんだ!音環のおじいさんも音楽をやっているのかな……ううん。それより!


「難しい?」


門亜は聞いた。音環は、うーん、と言うと


「一人で弾いているとつまらない時があるんだよ。別に誰かに聞いてもらう訳じゃないしね。でも、毎日練習しないと途端に下手になるから……門亜、興味あるの?」


門亜はうん、うんとうなずいた。本当は……ギターを弾く音環に興味がある。一緒に弾けたら、どんな世界が見えるのだろう。


「今度、教えてあげるよ。僕のギターを貸してあげる」


音環の言葉を聞いた門亜の顔が、ぱあぁと明るくなった。いつ、いつならいい?と言おうとすると、音環はあっ!と言う顔をした。


「あ、先にカズヤに大河の家に来てもらえるか聞かなくちゃ。早くやらないとね」


音環に言われ、気持ちがしぼんでいくのがわかった。


大河のバカ。すべっタローのほかにぐいぐい入ってこないで。


ちぇっ、と門亜はマンホールに大河の顔を思い浮かべると両足で乗っかった。


いつもお付き合いくださりありがとうございます。

第6章 大河と空河④ 投稿しました。

これで、第6章は完了です。

次章からは、夜に1章ずつ投稿になる予定です。

ゆっくりとお付き合いいただければ幸甚です。

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