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第6章 大河と空河③

翌日。


門亜たちはそれぞれ学校から持って帰ってきた荷物を自宅に置くと、財布と飲み物を持って駅に集合した。そして、電車に乗って目的の駅まで向かった。


――駅を出た門亜たちを待っていたのは、まるで地面から空気が上がってくるかのようなうだるような熱気だった。


アスファルトからの照り返しが、門亜の目に変な影を作っていた。


そのたびに、門亜は音環の背中を見ていたが、やがて足が重くなると再び下を向いた。――門亜の水筒の中は、もう空っぽだった。


「だから2Lペットボトルの方がいいって言ったじゃん」


すべっタローはそう言うと、門亜の水筒に自分のペットボトルのお茶を注いだ。


「ありがとう」


助かった。門亜は縁石に腰を掛け、水筒に口をつけた。


門亜は、しょんぼりする余裕もなかった。


流れ落ちた汗は、足元にぼつぼつと雨のようなシミを作った。そして、立ち上がって後ろを振り返ると、座り込んだお尻の跡がくっきりと縁石に残っていた。


すべっタローは、ペットボトルに口をつけると直接お茶を流し込んでいた。その姿は、クラスのどの男子からも見ることがなかった。


……工事のおじさんで見た気がする。門亜はすべっタローに、なんとも例えようのない力強さを感じた。


立ち上がって横を見ると、音環は地図を片手に、街並みと交互に見ていた。


さっきまで着ていたTシャツは袖を肩までまくっていて、袖からのぞいた腕はきれいにこんがり焼けていた。


……かっこいいなぁ。真似しようかな。


そう思って門亜は袖をまくろうとしたが、はたと気が付いた。ボク、長袖だ。


うーん。どうしようかなぁ。肌が白い、と言われるのは嫌だし。でも、音環の真似をしてみたい!


門亜の目線の先の音環は、写真を見ては近くの屋根の色、アスパムの形、目立つ屋根の色までの屋根の数を数えたりしていた。そして、地図を見ると、


「もうちょっと右の通りだね」


とさらりと言った。


「よくわかるな。音環。見てもわからないよ」


すべっタローの言葉に音環は照れながら言った。


「間違い探しは好きなんだ。当てたときはとても嬉しいからね」


風が吹いて乾いた土が舞い上がり、門亜の頬を汚した。汗をぬぐうと何となく頬がじゃりじゃりいった。


「もう少しだ。門亜。行こう」


音環の声に、門亜は顔を上げた。そして、3人は坂道を登りだした。


ふと、門亜は後ろを振り向いた。ふいに、モニタに映った窓の景色に似た風景が目に入ってきた。


えっ!本当にわかっちゃうんだ!


――門亜は、駅を言い当てたすべっタローと、地図を見て細かく当てていく音環に驚いた。そして、知らない世界にそっと連れていかれていることに……ワクワクを感じていた。


2人がいるなら、ボクも何でも出来るかもしれない。


ふいに、カズヤの「諦めなくていい」と言う言葉が門亜の耳に甦ってきた。


その時だった。


「このあたりだと思うんだけど……」


音環がふいに立ち止まった。その時、門亜の心臓はドキン!と大きく鼓動した。……始まる!……どうしよう。


チャイムを押すのかな……。門亜は数件並んだ家の門を見た。どの家か分かるのかな……それとも一軒一軒確認するのかな……怒られないかな……。


門亜は音環の横顔を見た。音環はまだ、考えている様子だった。


「あれ……」


すべっタローが、少し離れたところから歩いてくる2人の小学生を指さした。着ているTシャツがYouTubeで演奏していた時に着ていたTシャツと一緒だった。


背丈も、何となくギターを弾いている子と一緒ですらっとして高かった。


「すみません……」


音環は迷うことなく、2人の小学生に近づいた。すべっタローと門亜は音環の後を追った。……間違いではありませんように!でも……怖いよ!


音環の持っていた写真を見た、背の高いほうの小学生が言った。


「オレたちの写真?なんか用?」


ぶっきらぼうな言い方だった。そして、隣にいた弟らしい小学生はじっと門亜をにらんだ。門亜は目が合うと、慌てて下を向いた。


「カズヤ……僕の友だちにカズヤ、って言うのがいるんだけど、窓を開けて演奏するのは危ないって、伝えてほしいって言われて来たんだ」


音環は用意された言葉を言うようにすらすらと言った。それがかえって、長身の子の気に障ったようだった。


「それ、余計なお世話じゃね?」


あああ……やっぱり怒ってる。門亜は泣きそうになった。危ないよ、と言いに行っただけなのに、何で怒られるのだろう。喉が渇くくらいたくさん歩いたのに。


 胸の奥がギュッとなった。


「でも、こうやってオレたちも来ているし」


とすべっタローが音環の横から言うと


「ストーカーかよ」


と長身の子がかぶせ気味に言い返した。


門亜の鼓動が早くなった。このままじゃケンカになる。ケンカになったらどうなっちゃうんだろう。音環がケガしたら嫌だ。


門亜の目から涙があふれてきた。


「あっ!門亜」


音環は慌てて門亜の名前を呼んだ。門亜はこぶしを握り締めて言った。


「危ないからカーテン閉めて、って言っただけじゃん。なのに、なんで怒られなくちゃいけないの?


ぼくたちこうやって来てるじゃん。悪い人だったらどうするの?」


怒られたことも悔しかったが……何より、すぐ涙が出てしまう自分に腹が立った。


門亜がこぶしで涙をぬぐっていると、音環とすべっタローはおろおろしながら


「泣くなよ……泣くなよ……」


となだめていた。


その様子を眺めていた長身の子は驚いたように言った。


「女子じゃないの?!」


そして、はぁ、と大きく息を吐くと


「悪かったよ……とりあえずうち来いよ」


と言った。


第6章 大河と空河③ エピソードを投稿しました。

泣いてしまった門亜は自分に腹を立てていますが、怪我の功名のようです。

次で第6章は終わりです。

いつもお付き合いくださりありがとうございます。

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