↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

第6章 大河と空河①

月曜日は、あいにくと小雨が降っていた。


天気予報ではプールの始まる3時間前には止む予報だったが、気温が低く、通常の授業となった。


ほっとしたような、ほんの少しだけ残念だったような……勇気を出したのになぁ。門亜は心の中でつぶやいた。


昼休み、すべっタローが門亜たちのところにやってきた。2人は小声で口々に、金曜の夜はありがとう、と言った。


すべっタローは、また、やろうな、と返した。そして、


「今日、一緒に自習しようと思ったら、雨なんだもん。残念」


と言い出した。


えっ……。すべっタロー一人になるところだった。雨でよかった。門亜と音環は顔を見合わせた。


「すべっタロー……実は、僕たち、今日はラッシュガード着てプールの授業受けるつもりだったんだ」


ラッシュガード……なにそれ?と言うような顔をすべっタローはした。門亜は机のわきにぶら下げたスイムバッグから、ラッシュガードを取り出して見せた。


「へえ……オレも欲しいな。なあ、どこで売ってるの?」


と、すべっタローが言うと、音環は耳もとでこっそり言った。


「密林なら、早ければ明日届くよ」


すべっタローの目が輝いた。


「一緒に着て入りたいな!明日も雨だといいのに」


すべっタローは大真面目な顔をして言った。いや……明日は晴れでしょう。天気予報もそう言っていたし。


門亜はそう思ったが、翌日、すべっタローの願ったとおりに朝から土砂降りの雨だった。


「今日来るといいなー」


カズヤの家に向かう途中、すべっタローはスキップするように歩いた。


「危ないよ。すべっタロー」


門亜は咎めるように言った。濡れた靴下で人の家には上がれないんだよ。


「門亜、もうちょっと、こっちに寄りなよ。嫌な予感がする」


音環が言った時だった。反対車線を走る車が、車道にできた水たまりの水を跳ね上げた。そして、背の高さまで巻き上げると


ざぶん


すべっタローの傘の内側に水が飛び込んできた。


幸い、すべっタローのスキップで汚れるのを嫌った門亜と音環は、少し後を歩いていたので水がかかることはなかった。


車は、すべっタローに水をかけたことに気付かなかったのか、走り去っていってしまった。


なんて運の悪い……。門亜は唖然とした。そして、ずぶぬれになったすべっタローが恨めしそうに振り向いたとき、こらえきれず笑い出した。


「ごめ!我慢できない!すべっタロー……」


隣の音環も笑い出した。


「せめて、水をひっかけた車が停まってくれたらタクシーで帰れたのにね」


「……水も滴るいい男なんだ。オレは」


くしゃん。すべっタローはくしゃみを1つすると、


「ごめん。今日は家に帰るわ。カズヤの家にこれじゃ上がれないし。……ラッシュガード届いているといいな」


そう言って、来た道を戻っていった。




「見たかったな……すべっタローの恨めしそうな顔」


カズヤは部屋を訪れた中にすべっタローがいないことに気が付いた。そして、音環から説明を聞くと、笑い出した。


門亜が、こんな感じで水が入ってきたんだ、と身振り手振りで説明すると、カズヤは座っていた椅子から転げ落ちた。


「で、ラッシュガード届いてるかな、って言って帰っていったよ」


カズヤの笑いが収まりかけたころ、門亜は言った。


「ラッシュガード……?」


「うん。音環が教えてくれたんだ。半袖の上着を着てプールに入るんだ。僕たち」


門亜の説明に、カズヤはパソコンを立ち上げると検索を始めた。


「あっ!これ、これ」


モニタにラッシュガードが映し出された。


「へえ……。いいね。これ。僕もスイミングでこれ着ようかな……」


「スイミング、行っているの?」


門亜は聞いた。


「うん……学校に行かなくなってからはやめちゃったけどね。でも、もう一度通うかな」


学校じゃないからカッコイイの!


門亜はカズヤの後ろでささやきながら、いけ!いけ!とこぶしを上げた。カズヤは、ははは……と笑うと


「後で母さんに話してみる。凄いな……ラッシュガード仲間」


仲間!なんていい言葉なんだ!門亜の頬がポッと赤くなった。


――翌日、門亜と音環は2時間目の後、男子トイレに駆け込んだ。そしてトイレで水着に着替えた。


クラスに戻ると、男子の目線が一斉に門亜と音環に向いた。「決まった格好しないなんて、ずるいぞ」そう言っているようだった。


音環はそっと、門亜の前に立って教室に入って行った。


門亜の机の近くまで来たとき、黒のラッシュガードに着替えたすべっタローが入ってきた。


「門亜――。音環――。オレのも届いていた」


いつもより間延びした言い方で、門亜と音環に近づいた。ラッシュガードを着ているのが3人に増えたことで、クラスの男子の責めるような目線が和らいだようだった。


と、同時に、音環の表情も少し柔らかくなったようだった。


「あっ!すべっタローのラッシュガード、黒!」


門亜がびっくりしたように言った。すると、すべっタローは


「いいだろ、黒ってかっこよくってさ。好きなんだ」


にっと笑いながら、Vサインをした。門亜よりほんの少し背の高いすべっタローが門亜の目にはちょっとだけ大人に見えた。


そして、ふうん、と門亜は感心するようにうなずいた。


好きなものを通せるんだ。凄いな。と、心の中でつぶやいた。


「さ、いこうぜ」


音環はそう言うと、タオルとスイムキャップを持った。すると


「あっ、タオル忘れた!門亜、音環、後でオレにも拭かせて」


しまった!と言うような顔ですべっタローは言った。その、懇願するようなすべっタローの顔に、門亜は『やっぱりいつものすべっタローだ』と思った。


――プールサイドに行くと、ラッシュガードを着たすべっタローを見た先生はふぅ、と軽く息を吐くと言った。


「頼むから……もめることだけはするな。プールサイドでもめると、ケガをすることになるからな」


先生に言っていなかったんだ……。


仕方ないなぁ、と門亜は思ったが、同時に、すべっタローを心強く感じた。そして、そっと握りこぶしを作ると、すべっタローの右手にちょん、と当てた。


第6章 大河と空河 投稿しました。

この章は4つに分かれます。

すべっタロー、一心に不運を背負いますが、6作目(投稿準備中)に最大に回収します。

いつもお付き合いをくださりありがとうございます。

※SAKIOTTE、ランクインすることが出来ました。

応援してくださった皆さま、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。