↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

第5章 木星と土星と③

そうそう、とカズヤは続けた。


「星が昇る時間が、1日に4分ずつ早いんだって。だから、ひと月経つと……30日として、120分早く昇ることになるんだって」


「120分……2時間?」


そんなに!1日に4分なんて、大したことないって思ったけど……。門亜は驚いた。


「そう。だから、ひと月前に見た星座は同じ時間に見ると、とっくに、2時間前に昇っているんだ」


えっ……。


一度に説明を受けた門亜は、言っていることをかみ砕くのに必死だった。その一方でカズヤが大人に見えた。


なんでも知ってる……そう、4年生の月の観察の時も、ちょうど月食があって、いろいろ教えてくれたっけ。


カズヤの横顔を見ながらそう、思っているとカズヤは門亜に声を潜めて言った。


「あ、おうし座が昇ってきた。あそこに細かい星が固まっているのが見える?あれはすばる。オリオン座はもうすぐだよ」


カズヤが指をさす方向を門亜は見た。確かに、光っているものが固まっているように見えた。


「あー。すばる、望遠鏡で見たいなー」と言うカズヤの声が聞こえた。


門亜は目がちかちかしてきた。星なのか、目の中ではじける火花なのかわからなかった。


門亜が目をぎゅっと閉じたり開いたりしていると


「少し下向いて目を休ませるといいよ。上がってきたら僕が教えるから」


とカズヤは言った。


――門亜の耳にチキチキチキ……とヒグラシの鳴く声が聞こえてきた。


朝が……近いんだ。門亜はドキドキした。


昨日は夜遅くまで友だちと一緒に起きて星を見ていた。そして、今日はまだ暗いうちに起きて、暗い中でじっと友だちとオリオン座を待っている。


お母さんに見られたら怒られちゃうやつ。先生に見られたら怒られちゃうやつ。


大好きな友だちと一緒に、夜の時間過ごせるなんて……ドキドキだ。


ねえ、お願いだからオリオン座、夜が明ける前に昇ってきて。


「明るい星があるの、見える?あれ、ペテルギウス。3つ星ももう少しだね。……明るくなる前に昇ってきてほしいな」


カズヤは言った。


空と地面の境にほんの少し、薄く白い筋が入った。右肩の星……ペテルギウスが空へ進むと同時に、白い筋は帯になって広がっていった。


……朝が来ちゃう!


門亜は指を組んで、太陽に、月に、オリオン座に祈った。夏に、その姿見せて。太陽、もう少し上るのは後にして。


ところが。無情にもオリオン座がその姿を現す前に、太陽の光が空を照らし出した。


「「あーあ」」


門亜はがっくりとうなだれた。カズヤは恐る恐る言った。


「ごめん。門亜。8月ならもう少し見えたかもしれない」


あっ!1月後は2時間早く昇るって……。門亜は少し前にカズヤが説明してくれたことを思い出した。


「うん。8月になったら天気のいい日に見てみる。ありがとう。カズヤ」


門亜が言った瞬間。カズヤは笑顔になった。




すべっタローの母親にお礼を言って、リンゴ農園を出ると、太陽はだいぶ高く昇っていた。空は吸い込まれそうな群青色をしていた。


「朝、カズヤと何を話していたの?」


音環は言った。ん?朝?門亜は少し考えると、夜明け前に2人でした会話を思い出した。


「夏でもオリオン座が見えるってカズヤが言っていたんだ。だから2人で待っていたんだけど、ちょっと昇ったところで朝が来ちゃった」


門亜がそう答えると、音環はびっくりしたように言った。


「えっ!夏でもオリオン座見えるの?僕、オリオン座好きなんだ!」


そうなんだ!門亜は音環が好きなものを知って少し嬉しくなった。


「あのね。8月になると朝が来る前に昇るみたい。だから、大分早起きしなくちゃいけないんだよ」


ニコニコしながら門亜は言った。


「そうなんだ。ありがとう!夏休みはたくさん早起きしなくちゃだな」


音環もにっと笑った。


門亜の家の玄関が見えてきた。ほんの少し狭い階段と、風よけ室が夢の時間の終わりを告げていた。


今日のボクはシンデレラだったんだ。男だけど。


じゃあ、また、と、手を振って門亜は音環と別れた。


そして、とぼとぼと子どもには少々高い3段くらいの階段を上った後、風よけ室のカギを開けた。そして、軽く深呼吸をすると、玄関のカギを開けた。


「ただいま……」


家の中は、しん……として返事がなかった。靴がないから……仕事に行ったのだろう。


水を飲みにキッチンに行こうとしてリビングを通り抜けた。


すると、ノートくらいのサイズの袋が二つ、テーブルに置いてあった。そして、メモがあった。


『ラッシュガードが届きました。先生にはプールに入る、と言う約束で着ていいと了解を貰っています。次のプールでは入ってください』


門亜は軽くため息をつくと、袋を開けた。それぞれの中からは紺色の上着とひざ丈のスイムパンツが出てきた。


……音環と同じやつかな?


音環は……またラッシュガードを着て入ってくれるだろうか。それとも、ボクだけかな……。


門亜は、音環と2人きりの自習の時間が終わったことを悟った。なんて、タイミングの悪い……。


どうしよう、と門亜はリビングの椅子に座っておでこをテーブルにつけた。自習は出来なくても、音環とは一緒にいたいな……。


そうだ!と門亜は立ち上がると、カギを持って玄関に行った。そして、外に出ると、音環の家に走っていった。


――音環の家も子どもの足には少し高い階段だったが、でこぼこして何となく温かみを感じた。


いるといいなあ……門亜は風よけ室の入口のチャイムを押した。ぱたぱた、と軽い足音がして、玄関のドアが開いた。


「あれ?門亜?」


音環だった。


どうしたの?と言う音環に門亜はあのね……と続けた。


「母さんがラッシュガード、買ってくれたんだ。先生には許可を取ったんだって……」


半ばうつむき加減に門亜は言った。言葉にしてはっと気がついた。ずるい、って思われたらどうしよう。


その後の言葉が続かない門亜に、音環はそうなんだ……と言った。そして、ちょっと待ってて、と言うと家に入った。門亜は風よけ室にポツリ、と一人になった。


嫌われちゃったかな。ずるいやつって思われちゃったかな。


音環が戻ってくるまでの間、ぐるぐると考え続けた。そして、音環の足音が聞こえるまで、とても時間が長く感じた。


ぱたぱた、と走るような足音がした。そして、待たせてごめん、と言いながら音環が出てきた。


「じいちゃんが、月曜の朝電話してくれるって。だから僕もラッシュガード持っていくよ。2人で入ろう!」


音環はそう言うと、握りこぶしをつくって軽く門亜の手をつついた。


門亜は慌てて握りこぶしを作った。そして、2人はにっこりしながらグータッチをした。


第5章 木星と土星と の章は終わりです。

1つのイベントが終わっても、必ず何か日常は続いていく……。

それを心掛けて書きました。

1つの章に何か食い込んでいるな、と思われるかもしれません。

今門亜は毎日が少しずつ外に開いて行っています。


お付き合いくださりありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。