第5章 木星と土星と①
「明るい星の周りに、ちょん、ちょん、ちょん、としたものが見えるでしょ。ホントは4つあるはずなんだけど」
カズヤは声をひそめるように小さな声で言った。
「うん。見える!4つ見えるよ!」
門亜も小声で返した。小さな声でも興奮している様子に、音環もすべっタローも、うずうずした。
「これ、木星の衛星。木星の周りをぐるぐる回ってるんだ」
「えっ!太陽の周りじゃないの?」
カズヤの説明に、門亜は驚いた声を出した。
「うん。だって、月は地球の周りをぐるぐる回るでしょ。木星だって、ぐるぐる回る星を従えているんだ」
確かに!カズヤの説明、分かりやすい!門亜はぼんやりと目に映った木星よりはるかに小さい星を眺めながら思った。
「ボク、見るだけで覚えましょう、って苦手だから……カズヤが先生だったらいいのに」
ぼそっと門亜は言った。それを聞いたカズヤは少しくすぐったくなった。
「門亜は、コツをつかむとどんどん覚えていくじゃん。九九を覚えるのも、時間かかったけど理解したらあっという間に覚えたし」
へへ……。門亜は恥ずかしそうに笑った。そして、音環に望遠鏡を譲るとカズヤに言った。
「だって、ただ覚えなさいって言うんだもん。何でそうなるか教えてくれないのにさ」
そうだね……。カズヤはつぶやくように言うと
「よかったらまた、宿題しにうちに来て。教えるから。その代わり僕の分からないところ、教えて」
と門亜に言った。音環とすべっタローも……。その言葉は音環の歓声にかき消されたが、カズヤは軽く微笑んだ。
「ばあちゃんが寝るころだから静かにって!」
すべっタローが音環に小さな声で強く言った。
「ごめんって。だって、ほら、すべっタロー、見てごらんよ。木星ってそれだけって思ったのに周りに小さい星が4つある」
どれどれ……すべっタローが望遠鏡をのぞいた。
「あれぇ?3つしかないぞ」
いち、に、さん……とすべっタロー繰り返し数えた。カズヤはすべっタローの近くに行くと
「多分、隠れたんだと思う。イオだと2日しないで木星の周りを一周しちゃうから、たまに見えなくなるんだ」
と言って望遠鏡をのぞいた。そして、あ、隠れたんだ……とカズヤはつぶやいた。
「イオ?衛星に名前があるの?」
「うん。あるよ。内側からイオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト」
「へー。よく覚えてんな」
すべっタローは素直に感心した。イオ、エウロパ、ガニ…覚えられないや……というすべっタローの声がした。再びすべっタローは望遠鏡をのぞいた。
「あれ?2つに減ってる」
なんでぇ?すべっタローは首をかしげた。
「オレが見るときだけ減るんだけど」
すべっタローはぷっと膨れた。なんでオレの時だけ……。
門亜と音環のくすくす笑う声が虫の音と一緒になって聞こえてきた。
「もう少しすると、土星も高くなるから、輪っかが見えるかもしれない」
カズヤが慰めるように言った。すると、すべっタローは恐る恐る
「オレが見たら、土星の輪っか、消えちゃわない?」
と心配した。えっ……と門亜と音環はすべっタローの方を向いたが、すべっタローは本気のようだった。
「大丈夫だよ。あれは氷の粒で、たくさんの氷の粒が土星の周りをまわっているだけだから消えないよ」
カズヤは言った。その時、
「ねえ……」
と、音環はカズヤとすべっタローに言った。
「お腹すかない?もし、土星の輪っかが見えるまで時間があるなら、ホットケーキ食べちゃわない?」
門亜も音環の後ろでうなずいた。
「そうだな……納屋の所に行こう」
すべっタローを先頭に4人は歩き出した。
――ぽん、とジャムのふたが開くとほんの少し酸味のある、甘い香りが門亜の鼻をくすぐった。
「ばあちゃんお手製のジャム。今の時期のは買ってきたリンゴな。もう少しすると、うちの畑で取れたリンゴでジャムを作ってくれるんだ」
えへん。と言うようにすべっタローは少し胸をそらして言った。
「その時またおいでよ……って、そう言えば収穫手伝ってくれるって言ってたよな」
すべっタローの言葉に、音環も門亜もうなずいた。
――その時は新鮮なリンゴで作ったジャムが食べられるんだ!門亜の心は弾んだ。
「すべっタロー、ジャムはこれくらいでいい?」
音環はスプーンでジャムをすくいながらすべっタローに聞いた。
「もっと……あともう1回!」
好きだなぁ……音環は笑いながらすべっタローのホットケーキにジャムを乗せた。
そして、1さじずつほかの3人のホットケーキに追加して乗せるとちょうどジャムの瓶の中身が空になった。
「「「「いただきまーす」」」」
声を潜めて、気持ちだけ大きな声で言うと、早速ジャムの山を崩しにかかった。ホットケーキに移った魚のニオイはリンゴジャムで完全に消されていた。
甘酸っぱい香りが甘さと一緒に口の中に広がる。門亜も音環も、ジャムをすくってはホットケーキに乗せ、一口食べてはまたジャムをすくうのに没頭した。ああ……幸せ!
門亜が頬に手を当てながらニコニコと食べていると、突然
「うぐっ!」
と言う声が聞こえた。
門亜が声のする方向を見ると、すべっタローがしかめっ面をしていた。すべっタローのお皿の上には門亜の倍乗っていたジャムが半分近く消えていた。
「すべっタロー……?」
「これ……漬物の汁がかかってる!なんでオレだけ……しょっぺ!」
慌ててリンゴジャムを口に運ぶすべっタローにカズヤは笑い出した。
「なんて運の悪い……すべっタロー……」
門亜も音環も笑いを抑えるのに必死になった。音環はむせそうになり、持ってきた麦茶を飲んだ。
そして、すべっタローはホットケーキを大きな口を開けて黙々と食べると
「お残し禁止だからきちんと食べたぞ!」
とドヤ顔で言った。
お付き合いくださりありがとうございます。
第5章 木星と土星と 投稿しました。
この章も3つに分かれます。
そして①はすべっタロー受難の章です。
でも、実はこの運の悪さ、この後のシリーズ全体に漂いながら影響を与え続けます。
ふんわりとした言い方でで申し訳ありませんが、すべっタローの優しさで出来ています。




