第4章 カズヤそして地球照①
「この質問でいう所の『これ』は大抵前の文章にあるよ」
カズヤはドリルの読み物の部分を指さしながら言った。
「全部読んでからすぐ解くと、うっかり後ろまで見ちゃうんだけど、問題読んだときはもう一度前の部分を読んだ方がいい」
カズヤの言葉に音環と門亜の目がぱっと開いた。確かに!頭の中に入った状態で解こうとしていたから、読み物の中で迷子になっていた。
「凄いなぁ。僕、この読んでから問題を解きましょう、の部分が一番嫌いなんだ。いつもこの枠の中でぐるぐる迷子になっちゃって……」
音環が言うと、カズヤの頬に少し赤みがさした。
「いや……僕は逆に社会がだめだよ。数字を見ても何が言いたいのか分からないんだ。
国語のように『青森県はリンゴの生産が日本一ですが、台風で被害を受けた年は長野県にその座を渡しました』の方が分かりやすい」
とカズヤが返すと
「で、その、とは何ですか?と聞かれるんだよな……」
すべっタローが恨めしそうに言った。その言葉を聞いた3人は噴き出した。
「うわ!確かに国語の教科書にありそう!」
……何だか、楽しい!一緒に宿題をやるってこんなに楽しいんだ。それに……国語が今までにないくらい早く解ける!門亜は頬を緩めながら鉛筆を走らせた。
「できた!」
門亜は満面の笑みで言った。
「早!」
音環の声が聞こえた。そしてすべっタローの
「オレ……分からない。ね、見せて」
とやはり恨みがましく言う声が聞こえてきた。ホントに国語、苦手なんだ……。
「ダメ。もう少し自分で考えて」
と、門亜は先生のようなことを言った。……たまにはいいよね?
「社会はいいの?」
と、カズヤは聞いてきたので門亜は言った。
「うん。グラフを書き写すだけだから。授業中にやっちゃったよ」
と、当たり前のように言う門亜に、
「よく説明を聞きながらできるな」
カズヤは感心した。門亜はさらに
「だって、社会って『この・その・あの』とは何でしょう、って聞かないもん。言っていることを丸覚えすればいいから」
答えは決まっているし。質問ははっきりしているし。と続けた。
「確かにそうかも。僕も『その、とは何でしょう』と聞くやつは苦手だな。逆に音楽みたいに『情景を思い浮かべてみましょう』みたいな答えが自由なヤツは好きだな」
と、音環は門亜に続くように言った。すべっタローも乗り遅れまいと慌てて言った。
「オレも家庭科大好き!この前のカレー、おいしかったぞ!」
……門亜と音環の顔が凍り付いた。それ、食べるほうが、じゃない?
得意顔のすべっタローと、凍り付いた門亜と音環の顔を見比べていたカズヤは笑い出した。あーあ。この3人が一緒のクラスだったら、僕も学校に行けたかもしれないな。
「そう言えば……あの天体望遠鏡、結構小さな星まで見れるよね?なんの星を見てるの?」
宿題を終わらせた音環がカズヤに聞いた。カズヤはうーん、と思い出すように天井を見た。
「僕の部屋から見えるときは……土星や木星を見たりもしてるよ。でも、大体は月かな。三日月でも、光の当たらない部分が、地球の光でかすかに見えるんだ」
えっ!見えないって聞いていたけど見えるの!見てみたい!
門亜の食い入るように見る目線に気が付いたカズヤは続けた。
「かなり遅い時間と言うより明け方に近いから、無理かもしれない」
その言葉を聞いた門亜はがっくりした。見たかったなぁ。残念、と門亜の目から少しだけ陰りが出た時、社会の宿題をやっていたすべっタローが言った。
「だったら、オレんちのりんご畑ではどうだ?テントも張れるし、泊まってさ。オレも見てみたい」
お泊り会みたいだ!門亜の目は再び輝いた。
「じゃあ、決まり!みんなそれぞれ親にOK貰って来ような。あと、その間はお小言をもらうようなことはなしだぞ」
すべっタローの言葉に門亜はくすっとなった。
お小言……古臭い。でも本当だ。機嫌悪くさせたら、ダメと言われてしまう。
門亜は昨晩の夕食の会話を思い出した。ズキリ。忘れていた痛みが門亜の背中を突き刺した。……国語の宿題より難しい。
少し曇った顔をした門亜に、すべっタローは背中をポンと叩きながら言った。
「大丈夫だって。もし、ダメと言われたらオレも一緒に言ってやるから。うちの親、PTAの副会長と子供会の副会長をやっているから、何なら父ちゃんと一緒に言ってやるから」
すべっタローの言葉に、門亜は少しだけ力が湧いてきたような気がした。とりあえず、自分で言ってみる、と門亜はすべっタローに返した。
その夜。門亜は夕食の後、母親に尋ねた。
「4年生の時に一緒だったカズヤが月の影の部分を天体望遠鏡ならうっすら見えるから、見せてくれるって言うんだけど、泊りに行ってもいい?」
門亜の言葉に母親はふぅ、と小さくため息をついた。こうも毎日、いろいろ持ち込んでくる。と言うような顔をした。
「相手の家に迷惑なんじゃないの?」
と母親が返すと、門亜は用意しておいた言葉を言った。
「親が子ども会の副会長をやっているすべっタローの家のりんご畑で見るんだって。すべっタローと音環も一緒」
音環、と入れるとダメと言われそうで迷ったが、入れた。音環は悪い奴じゃない。大切なボクの友だちだ。
ぎゅっと握った門亜の手を見ながら母親は返した。
「それで、いつなの?」
ん?少し空気が変わったぞ。いつとはまだ決まってなかったな。
「三日月の日。カズヤが調べてくれてる」
そう門亜が言うと、
「それじゃ、決まったら言ってちょうだい。相手の家に泊まるのに、挨拶をしないわけにいかないし、手ぶらじゃ行けないから用意しないといけないわ」
と母親は返した。
意外にすんなりいったな。部屋に戻った門亜はベッドに倒れこみながらふぅ、と息を吐いた。
翌日。門亜は音環と一緒に隣のクラスに行ってすべっタローを呼んだ。
「OK貰ったよ。すべっタローのうちのOK貰わないで進めちゃったけど、大丈夫?」
音環は聞いた。すると、すべっタローはにっと笑って言った。
「大丈夫。もう少し後で始まる袋掛け、土日やることでOK貰ったから」
えっ!そうなの!何だか悪いな……。門亜はすべっタローの笑顔を申し訳なさそうに見た。
「それ、僕でもできる?」
音環は聞いた。僕も手伝うよ。と、続けた。
「うーん。ハシゴも登って危ないからなぁ。……収穫の時、手伝ってよ。選別、結構根気いるからさ」
すべっタローの言葉に門亜は慌てて言った。
「ボクもやる!ボクもやる!」
「じゃあ、その時はよろしくな」
すべっタローはにっと笑った。
いつもお付き合いくださりありがとうございます。
第4章 カズヤそして地球照①投稿しました。
作品紹介の目次の名前から変更しましたので、あれ、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
早々に修正をしますのでよろしくお願いします。
この章は3つに分かれます。




