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第九話

 水曜日の朝、局長の机に青い処理票が置かれていた。


 拾得物移管予定。


 提出期限。


 金曜日。


 日付の欄に、赤い丸がついている。


 財布。


 傘。


 手袋。


 白い封筒。


 四つの品名が並んでいた。


 白い封筒だけ、備考欄が長かった。


 宛名・差出人なし。


 別紙あり。


 同形封筒複数あり。


 開封なし。


 局長は判子を出した。


 朱肉のふたを開ける。


「金曜で三日目だ」


 私は三番窓口の札を出した。


「はい」


「警察に出せる」


「はい」


 局長は処理票の端をそろえた。


 判子はまだ押さなかった。


 午前中、佐野さんが遺失物棚を整理した。


 折り畳み傘。


 子ども用の手袋。


 紺色のエコバッグ。


 それぞれの袋に番号札が貼られていく。


 封筒は棚になかった。


 鍵付き引き出しの中。


 青い処理票の上では、他の拾得物と同じ行にある。


 引き出しの中では、別紙と少し離れている。


 十一時、坂井さんからメールが届いた。


 件名は、部屋整理の進捗。


 添付ファイルが三つ。


 部屋の机。


 本棚。


 革鞄。


 私は局長の許可を得て、印刷した。


 一枚目。


 机の上。


 白い封筒、五通。


 灰色の紙箱。


 住所録。


 二枚目。


 本棚。


 病院の封筒。


 町内会の封筒。


 古い写真立て。


 三枚目。


 革鞄の中身。


 診察券。


 通帳ケース。


 小銭入れ。


 切り取られた切手。


 折られたメモ。


 メモには、字があった。


 写真の解像度が低く、読めなかった。


 局長は三枚目を見て、目を細めた。


「拡大できるか」


 私は画面で開いた。


 拡大する。


 文字は崩れた。


 青い線。


 ひらがなの一部。


 紙の折り目。


「読めないな」


 局長は画面から離れた。


 私は印刷した写真を別紙の後ろに挟んだ。


 封筒の処理票とは別のクリップ。


 午後一時、警察へ出す物をまとめた。


 傘。


 手袋。


 エコバッグ。


 封筒。


 封筒は最後に残った。


 局長が引き出しの鍵を開けた。


 透明な袋。


 赤いテープ。


 白い封筒。


 私は受け取り用の封筒ケースを出した。


 警察提出用。


 茶色い紙。


 品名欄。


 白い封筒。


 中身不明。


 開封なし。


 局長は記入した。


 私はその横で、別紙を順番にそろえた。


 深沢清一。


 深沢綾子。


 平成二十四年十一月八日。


 同形封筒、五通。


 二十五グラム前後。


 時計店。


 写真。


 死亡。


 単語だけが重なった。


 二時五十分。


 処理票に局長印が押された。


 朱肉の赤が、紙に丸く残った。


 三時。


 自動ドアが開いた。


 坂井さんだった。


 今日は黒い傘ではなかった。


 手には、透明な袋。


「すみません。これだけ、追加で」


 袋の中に、メモが一枚入っていた。


 写真に写っていたものだった。


 折り目が深い。


 端が丸い。


「鞄の内ポケットに挟まっていました」


 局長は処理票を裏返した。


 私は袋を受け取らなかった。


「原本ですか」


「はい」


 坂井さんは袋を机に置いた。


「見つけたままです。開いていません」


 メモは二つ折りだった。


 外側に、青いインクで字がある。


 三時。


 それだけ読めた。


 局長は腕時計を見た。


 三時二分。


 窓口には、簡易書留を出す客が一人待っていた。


 番号札の機械が鳴った。


 私は三番窓口に戻った。


 客の封筒には、宛名があった。


 差出人もあった。


 重さを量る。


 料金を伝える。


 日付印を押す。


 控えを渡す。


 その間、机の上の青い処理票が見えていた。


 白い封筒。


 提出期限。


 金曜日。


 坂井さんは座らずに立っていた。


 局長はメモを見ないまま、封筒の別紙に追加資料ありと書いた。


「これは部屋の資料として預かれません」


「はい」


 坂井さんは袋を持ち直した。


「でも、同じ箱に入れておいた方がいいと思って」


 局長は答えなかった。


 処理票の判子は、もう乾いていた。


 夕方、警察提出用の箱が閉じられた。


 傘。


 手袋。


 エコバッグ。


 白い封筒。


 封筒だけは、箱に入らなかった。


 局長が止めたわけではない。


 佐野さんが置き忘れたわけでもない。


 私が、警察提出用の封筒ケースを閉じなかった。


 透明な袋は、机の上に残っていた。


 青い処理票。


 別紙。


 三時、と書かれたメモの写真。


 局長はシャッターを下ろす前に、机を見た。


「金曜までだ」


 私は頷いた。


 局長は鍵付き引き出しを開けた。


 白い封筒を入れる。


 青い処理票を入れる。


 別紙を入れる。


 三時のメモの写真を、最後に入れる。


 引き出しが閉まった。


 鍵が回った。


 警察提出用の箱には、三つだけ残った。

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