第七話
月曜日の朝、局長の机の引き出しは閉まっていた。
鍵は、局長の胸ポケットにあった。
三番窓口の量りには、何も載っていない。
私は皿を拭いた。
丸い縁。
針。
二十五グラムの線。
午前十時、坂井さんから電話があった。
「写真を追加でお持ちしてもいいですか」
局長は受話器を片手に、予定表を見た。
「本日ですか」
私は記録簿を開いていた。
白い封筒。
別紙あり。
その下に、まだ何も足していない。
「三時前なら」
局長が言った。
三時前。
私はペンの先を紙から離した。
二時四十分、坂井さんが来た。
今日は傘を持っていなかった。
黒い鞄。
透明なファイル。
灰色の紙箱。
前と同じ箱だった。
「部屋の机の上だけ、確認しました」
坂井さんはファイルから写真を出した。
机。
白い封筒。
五通。
同じ向きに重ねられている。
どれも宛名は見えない。
「触らずに数えました」
坂井さんはそう言った。
局長は写真を見た。
「開けていませんね」
「はい」
「鞄は」
「まだです」
坂井さんは灰色の箱を机に置いた。
「切手だけ、数えました」
箱の中には、透明袋が増えていた。
八十四円切手。
十円切手。
一円切手。
二円切手。
使用済みの切手。
使用済みの袋には、消印のついた切手が入っていた。
局長がその袋を見た。
「これは」
「机の引き出しにありました」
坂井さんは別の写真を出した。
浅い引き出し。
はさみ。
古い通帳ケース。
爪切り。
切手を入れた袋。
白い封筒の束。
「使用済みの切手は、何の封筒から」
局長が聞いた。
坂井さんは首を横に振った。
「切り取られていました」
私は使用済みの袋を見た。
小さな四角。
紙ごと切られた切手。
消印は薄い。
駅前。
年の数字は、途中で切れていた。
「預かれませんよね」
坂井さんが言った。
「はい」
局長は答えた。
「ただ、写真は控えとして残します」
私はコピー機を開いた。
写真を置く。
ふたを閉める。
光が一度走る。
白い封筒の束が、コピー用紙に薄く写った。
机の木目。
折れた角。
五通のうち、一通だけ角が逆に折れていた。
私はコピーを局長に渡した。
局長は鍵を取り出した。
机の引き出しを開ける。
透明な袋の封筒を出す。
赤いテープ。
白い紙。
折れた角。
局長はコピーの上に、封筒を袋ごと並べた。
同じ白さではなかった。
窓口の封筒のほうが、少し黄色い。
でも紙の厚さは似ていた。
角の折れ目も似ていた。
「量っても」
局長が私を見た。
私は封筒を持った。
袋からは出さない。
量りの皿に載せる。
二十五グラム。
坂井さんはファイルから紙を一枚出した。
「部屋の封筒は、管理会社の秤で量りました」
紙には、数字が並んでいた。
二十五。
二十五。
二十四。
二十五。
二十六。
単位はグラム。
日付は昨日。
測定者、坂井。
「勝手に量ってしまって」
坂井さんの声は小さかった。
局長は紙を見た。
「開けていないなら」
坂井さんは頷いた。
私は過去履歴を開いた。
火曜。
金曜。
午後三時。
二十五。
二十五。
二十六。
二十五。
二十四。
二十五。
画面の数字と、坂井さんの紙の数字が重なった。
順番は違う。
でも、数字は同じだった。
局長はコピーの端を押さえた。
「一通だけじゃないな」
誰も返事をしなかった。
午後三時になった。
自動ドアは開いた。
入ってきたのは、速達を出す学生だった。
私は封筒を預かった。
宛名。
差出人。
郵便番号。
切手。
全部そろっていた。
量りに載せる。
二十三グラム。
料金を伝える。
学生はスマートフォンの画面を見ながら財布を出した。
私は日付印を押した。
受け取り箱へ入れる。
音がした。
そのあと、局長の机の上には、二つの紙が残った。
駅前局の遺失物控え。
坂井さんの測定メモ。
どちらにも、中身は書かれていない。
夕方、坂井さんが帰る前に言った。
「部屋の封筒も、宛名はありませんでした」
私はコピーを見た。
写真では、表が見えない。
「見たんですか」
「はい」
坂井さんはファイルの角をそろえた。
「全部、裏返しました」
「開けずに」
「開けずに」
局長が記録簿に、追加資料あり、と書いた。
私は別紙を一枚足した。
同形封筒、複数あり。
二十五グラム前後。
開封なし。
そこまで書いて、手を止めた。
過去にも出されなかった手紙がある。
そうは書かなかった。
代わりに、五通、とだけ書いた。
坂井さんが帰ったあと、局長は封筒を引き出しに戻した。
鍵をかける。
透明な袋の赤いテープは、また少し浮いていた。
私はそれを押さえなかった。
引き出しの中に、一通。
部屋の机の上に、五通。




