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第十一話

 金曜日の朝、青い処理票の日付欄に、今日の日付があった。


 提出期限。


 金曜日。


 赤い丸。


 局長は鍵付き引き出しを開けた。


 白い封筒。


 青い処理票。


 別紙。


 三時のコピー。


 ただ、の一行。


 それぞれを机に並べた。


 封筒だけ、透明な袋の中にある。


 赤いテープの端は、まだ浮いていた。


 局長は指で押さえなかった。


「提出するなら、午前中だ」


 私は頷いた。


 三番窓口の札を出す。


 量りを拭く。


 ボールペンを三本そろえる。


 朝の客が来た。


 切手を買う人。


 転居届を出す人。


 ゆうパックの箱を持つ人。


 封筒は奥の机にあった。


 九時半、坂井さんが来た。


 今日は何も持っていなかった。


「部屋の整理は、今日で終わります」


 局長は椅子をすすめた。


 坂井さんは座らなかった。


「机の上の封筒は」


「管理会社で保管します」


「開けずに」


「開けずに」


 坂井さんはファイルを出した。


 保管一覧。


 白い封筒、五通。


 未開封。


 宛名なし。


 重量二十四から二十六グラム。


 保管場所。


 管理会社倉庫。


 私はその紙を見た。


 倉庫。


 棚番号。


 箱番号。


 深沢清一。


 封筒五通。


 そこには、残る場所があった。


 窓口の一通には、まだ場所がなかった。


 局長は青い処理票を見た。


 警察移管。


 拾得物。


 白い封筒。


 中身不明。


 開封なし。


「うちに残す理由はない」


 局長は言った。


 坂井さんは答えなかった。


 私は別紙をめくった。


 深沢綾子。


 平成二十四年十一月八日。


 時計店。


 死亡。


 三時。


 ただ、


 空欄が一つあった。


 備考。


 私はその空欄を見た。


 午前十時、警察提出用の箱が出された。


 昨日と同じ箱。


 中には三つ。


 傘。


 手袋。


 エコバッグ。


 局長は封筒を持った。


 透明な袋が、机の上で音を立てた。


 青い処理票を箱の上に置く。


 別紙をその上に置く。


 三時のコピー。


 ただ、の一行。


 順番に重ねる。


 箱の中に入れるには、紙が多すぎた。


 局長は手を止めた。


「別添にするか」


 私はクリップを出した。


 銀色の小さなクリップ。


 別紙の左上を留める。


 青い処理票。


 資料一式。


 封筒。


 三つに分かれた。


 その時、佐野さんが貯金窓口から来た。


 手には、古いファイルを持っていた。


「これ、使えませんか」


 窓口対応記録。


 苦情。


 相談。


 特殊事案。


 厚いファイルだった。


 背表紙に、年度が書かれている。


 佐野さんは最後のページを開いた。


 余白。


 何も書かれていないページ。


「郵便物じゃなくても、窓口で起きたことなら残せますよね」


 局長はファイルを見た。


 特殊事案。


 余白。


 三番窓口。


 私は封筒を見た。


 透明な袋。


 白い紙。


 赤いテープ。


「残せるのは、記録だけだ」


 局長は言った。


 佐野さんは頷いた。


「はい」


 局長は青い処理票を箱から外した。


 白い封筒の提出欄。


 二重線を引く。


 横に、保留、と書いた。


 日付。


 局長印。


 朱肉の赤。


 警察提出用の箱には、三つだけ残った。


 もう一度。


 傘。


 手袋。


 エコバッグ。


 封筒は箱の外にあった。


 午後、特殊事案ファイルに一枚足された。


 件名。


 宛名差出人不明封筒の保留記録。


 発生日。


 拾得場所。


 三番窓口内側。


 関連資料。


 別紙。


 保管場所。


 鍵付き引き出し。


 備考。


 私はペンを持った。


 深沢清一。


 深沢綾子。


 三時。


 ただ、


 どれも書かなかった。


 備考欄には、こう書いた。


 未開封のまま保管。


 局長はそれを読んだ。


「期限は」


 私は保管規定の表を見た。


 三か月。


 延長可。


 局長は頷いた。


「三か月」


 佐野さんがファイルの穴を開けた。


 紙に丸い穴が二つ空いた。


 ファイルに綴じる。


 金具を閉じる。


 音がした。


 夕方、封筒は鍵付き引き出しに戻された。


 青い処理票は入れなかった。


 別紙も入れなかった。


 三時のコピーも入れなかった。


 それらは特殊事案ファイルの中に綴じられた。


 封筒だけが、透明な袋のまま引き出しに入った。


 明日の欄には、何も書かれていなかった。

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