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青の徒桜  作者: 絹毛鼠
3/4

恋を告げる風


  逢ふ人の誰に心を 寄すらむと

       知りつつ燃ゆるわが思ひかな

「これ、手紙だ。」

美桜の鞄を掴む手に少し力が入る。

瑠璃はゆっくりと封を開け、中の手紙を取り出す。真っ白な紙にに線が引かれているだけの、シンプルな便箋だった。

その真ん中あたりに男子とものと思しき字で丁寧にこう書かれていた。



『 校舎裏に来てください。

  伝えたいことがあります。  

              菊地 』


「すごい、本当にこんなのあるんだぁ」

玄関口から校舎内に風が吹き込む。

瑠璃の髪が、スカートが風に揺られる。

本当にこのまま菊地にとられてしまいそうだ、目の前からいなくなってしまいそうだと美桜は思い、瑠璃の細い腕を掴む。

「行かない…よね?」

瑠璃が少し困った顔をした。

美桜は掴んでいた手を離し、下を向く。

「美桜、大袈裟だなぁ。大丈夫!死んだりしないから。生きて帰って来るよぉ。」

瑠璃は冗談めかして笑う。

そして手紙を片手に校舎裏へと向かった。






「…行っちゃった。」

美桜はかかとを靴に収め、玄関口の階段に座った。

校庭の桜が風に吹かれて舞う。美桜はそれをただぼーっと見ていた。

「あの、瑠璃の友達ですか?」

美桜の前髪が風で乱れたとき、一人の女子生徒が美桜の前に現れた。

「え、はい。そうですけど、あなたも?」

「私、瑠璃と中学同じで。」

女子生徒はリュックを背負い、頭の高い位置で髪を結わえている。

「私、芹那っていいます。」

「美桜です。」

芹那は深く息を吸った。

「瑠璃、元気ですか?」

「はい、いっつも笑顔で可愛いですよ」

芹那は安心したような後ろめたいような顔をした。

「中学のこと、何か話してました?」

「あんまり話してないです。瑠璃、話したがらなくて。」

「因みに、瑠璃は私が同じ高校だって知ってますか?」

美桜は少し眉をひそめた。

「芹那ちゃんのことは何も話してなかったんで、知らないと思います。」

「…そうですか」

「…あの、何なんですか?瑠璃のこと詮索して。」

美桜は少し声を大きくして言った。

芹那は一歩後ろに下がり、踵を返した。

「…私、もう帰ります!」






美桜は芹那との会話を思い出しながら石を蹴る。

「本当ごめんね、待たせちゃって。」

瑠璃の言葉に美桜は大きく首を振る。

「そんなに待ってないよ。」

「美桜イケメーンっ」

瑠璃は美桜に腕を絡める。

美桜の心臓がうるさくなる。

口角が上がりそうになるのを必死に抑える。

「で、何の用だった?菊地」

美桜は道の桜の木を見て歩く瑠璃の横顔に問う。

「えっとぉ…告白でした。」

少し困った顔で言う瑠璃。

「なんて答えたの」

「それがまだ答えてなくて。保留にしてるのぉ。」

美桜は少しほっとして、胸をなで下ろした。

「保留かあ。」

分かれ道にさしかかったところで、美桜はその言葉が心につっかえるのを感じた。

「ねぇ瑠璃。保留ってことはさ、」

そう言いかけたとき、夕日に照らされた瑠璃が美桜の方へ振り返る。

「じゃあ、また明日ね。明日も隣にいてねー!」

瑠璃は美桜の言葉を遮る形で別れを告げた。美桜は小さく手を振るしかなかった。瑠璃の顔がどこか追い詰められていそうだったから。

「また明日。」






「ただいま」

美桜は2階へと駆け上がり、鞄をベッドへ放り投げる。そして自分もベッドに飛び込む。


美桜は瑠璃のことが頭から離れなくなっていた。毎晩、瑠璃のことを考えるが、今夜は違う。

芹那はなぜ瑠璃のことを質問したのか、瑠璃はなぜ菊地に対して保留という答えを出したのか。そんなことが美桜の頭をぐるぐると回り、悩ませる。

「保留ってことは、菊地は可能性あるってこと…?」

美桜はあのとき言いかけた言葉を一人、口に出してみる。

そして美桜は決意をする。







美桜は自分の席に鞄を置き、早歩きで菊地の席に向かう。菊地はずんずんと迫ってくる美桜に目を丸くした。

「菊地!!」

美桜は菊地を廊下へ連れて行く。自分より背の高い菊地を見上げる形ではあったが、目を細め、眉をひそめて威嚇した。

「どうしたの?美桜」

「菊地、瑠璃のこと…すき?」

美桜は少しうわずった声で言う。

菊地は頬を赤くして口元を抑える。

「もしかして、聞いた?」

「うん、瑠璃から」

菊地はその場にしゃがみ込んだ。

「あああぁ、聞いたのかぁ…。」

自分より小さくなった菊地に美桜は言う。

語を強くして。

「私も瑠璃が好きだから。菊地が何しようと、諦めないから!」

驚いた顔をする菊地を横目に美桜は教室へ走った。

その口元は少し笑みがこぼれていた。

あなたが誰を好きでも、

隣にいることを諦めません。

諦められないのが恋だから。

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