表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラフォードライバー、夜の街で恋を知る 第一章 何もない日々  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/16

第八話「戻る理由」

次の日の夜。

気づけば、同じ道を走っていた。

ナビを見るまでもない。

身体が覚えている。

(……また来てるな)

自分でも分かっている。

でも、止める理由が見つからない。

店の前に車を停める。

エンジンを切る。

少しだけ、考える。

れいかの顔が浮かぶ。

昨日の言葉。

静かな声。

(……)

でも――

ドアを開けていた。

ベルが鳴る。

店の空気が流れ込む。

「いらっしゃい」

マスターの声。

いつも通り。

でも、少しだけ違う気がする。

カウンターを見る。

ようこがいた。

一人で、グラスを持っている。

こちらを見る。

一瞬だけ。

それだけで、分かる。

(……来てたんや)

何も言わない。

でも、全部伝わる。

「……どうも」

要は短く言う。

ようこは小さく頷くだけ。

「来ると思ってた」

ぽつりと言う。

その言い方が、やけに自然で。

「……そうですか」

それしか返せない。

ようこの隣に座る。

距離が、近い。

昨日よりも、自然に。

(慣れてきてるな……)

そう思った瞬間、少しだけ怖くなる。

「仕事帰り?」

「……はい」

「そっか」

それだけ。

でも、会話は途切れない。

沈黙が、前よりも重くない。

むしろ――

馴染んできている。

「考えた?」

ようこが聞く。

グラスを見たまま。

「……少しは」

曖昧に答える。

嘘ではない。

でも、全部でもない。

「そっか」

短く返す。

それ以上は聞かない。

でも――

そのあと、ゆっくりと手が動く。

要の手に、触れる。

自然に。

前みたいに、試す感じじゃない。

当たり前みたいに。

(……)

少しだけ、迷う。

でも、離さない。

ようこの指が、絡む。

ゆっくりと。

「分かりやすいな」

小さく笑う。

「……何がですか」

「戻ってきてる」

その一言が、刺さる。

「……」

否定できない。

「ええと思うで」

ようこが続ける。

「迷ってても、来るってことは、そういうことやし」

指が、少しだけ強くなる。

逃がさないように。

「……簡単ですね」

要が言う。

「そんなもんやで」

あっさり返す。

でも、その軽さが逆に深い。

「考えすぎると、動かれへんくなるし」

そのまま、少しだけ顔を寄せる。

距離が、近い。

「今は、動けてるやん」

声が低い。

耳に残る。

「……はい」

自然と答えている。

その瞬間――

唇が触れる。

店の中。

でも、誰も見ていないような距離。

短く。

でも、はっきりと。

「……な?」

ようこが小さく言う。

「戻ってきてるやろ」

言葉と感覚が、繋がる。

考えるより先に、身体が反応している。

「……」

何も言えない。

でも、離れない。

「無理に綺麗にせんでいい」

ようこが言う。

「汚いままでも、ちゃんとしたもんやし」

その言い方が、妙にリアルで。

逃げ場がない。

「……れいかさんに、会いました」

気づけば言っていた。

ようこの指が、ほんの一瞬だけ止まる。

でも、すぐに戻る。

「ふーん」

軽く返す。

「外で」

続ける。

自分でも、なんで言ってるのか分からない。

「ちゃんと話したんや」

ようこが言う。

責めてない。

でも、聞いている。

「……はい」

「どうやった?」

少しだけ顔を向ける。

視線が合う。

「……落ち着く感じでした」

正直に言う。

ようこは一瞬だけ黙る。

ほんの、短い間。

「そっか」

それだけ。

でも――

そのあと、距離が一気に縮まる。

肩が強く触れる。

指が、深く絡む。

「でも」

ようこが静かに言う。

「今ここにおるのは、こっちやろ」

逃げられない言い方。

「……はい」

否定できない。

「それでええやん」

軽く言う。

でも、重い。

「全部決めてから動くやつなんか、おらんで」

そのまま、もう一度唇が触れる。

今度は、少しだけ長く。

頭が、少しずつ考えなくなる。

「……戻ってきたら、ちゃんと受け取るから」

ようこが小さく言う。

「その代わり」

少しだけ離れて、

「中途半端は、やめてな」

目が合う。

逃げられない。

「……はい」

答えるしかない。

その瞬間――

完全に、引き戻された感覚があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ