第十三話「会いに行く理由」
次の日の夜。
仕事を終えて、トラックを降りる。
いつもなら、そのまま流れで動いていた。
でも今日は違う。
立ち止まる。
「……」
頭の中に、昨日の時間が残っている。
静かな車内。
何もない時間。
それでも消えなかった感覚。
(……会いに行くか)
理由は、はっきりしない。
でも――
逃げるためじゃない。
確認するためだと、分かっていた。
車に乗る。
エンジンをかける。
夜の街に向かう。
ネオンが見えてくる。
あの店の近く。
でも、今日はまっすぐそこには行かない。
少し手前の道で、ゆっくりと走る。
(……いるか)
確信はない。
でも、足が止まる。
あの時、会った場所。
信号の手前。
車を寄せる。
エンジンを切る。
外に出る。
夜の空気が、少しだけ冷たい。
(……)
少し歩く。
理由はない。
でも、探している。
人影が、いくつか通る。
違う。
また違う。
(……おらんか)
そう思ったとき――
「藤村さん?」
声がする。
振り返る。
れいかだった。
少しだけ驚いた顔。
でも、すぐに落ち着く。
「……こんばんは」
要は少しだけ遅れて言う。
「こんばんは」
れいかが軽く頭を下げる。
距離は、少しだけある。
でも――
前よりも、はっきりと近く感じる。
「また、偶然ですね」
れいかが言う。
少しだけ笑う。
「……そうですね」
本当は違う。
でも、そう言うしかない。
れいかはそれ以上聞かない。
「帰りですか?」
「……はい」
短く答える。
「そっちは?」
「同じです」
それだけ。
会話は続かない。
でも、気まずくはない。
前よりも、自然に立てている。
「……少し、いいですか」
要が言う。
れいかがこちらを見る。
少しだけ、真剣な顔。
「はい」
短く答える。
「……この前のこと」
言葉を選ぶ。
でも、逃げない。
「ちゃんと話しておきたくて」
れいかは何も言わない。
ただ、聞いている。
「……ようことも、なおみとも」
そこで少し詰まる。
でも、続ける。
「ちゃんと関わってます」
正直に言う。
隠さない。
れいかの目が、ほんの少しだけ揺れる。
でも、逸らさない。
「……そうですか」
静かに言う。
それだけ。
責めない。
でも、受け止めている。
「……それでも」
要は続ける。
「れいかさんとも、ちゃんと話したいと思ってます」
その言葉に、少しだけ間ができる。
れいかが、ゆっくり息を吐く。
「……ずるいですね」
小さく言う。
声は柔らかい。
でも、芯がある。
「……はい」
否定しない。
できない。
「でも」
れいかは少しだけ視線を外して、
「ちゃんと言ってくれる方が、いいです」
静かに言う。
その言葉が、やけに重く残る。
「……ありがとうございます」
要は小さく言う。
れいかは少しだけ首を振る。
「お礼言われることじゃないです」
それから、少しだけこちらを見る。
「ただ」
一拍置く。
「私は、曖昧なのは苦手です」
はっきり言う。
でも、強くはない。
「……はい」
要は頷く。
「だから」
れいかが続ける。
「今すぐじゃなくていいですけど」
少しだけ間を置いて、
「ちゃんと決めてください」
その言葉は、ようこと同じ。
でも、伝わり方が違う。
押しつけじゃない。
でも、逃げも許さない。
「……分かりました」
要は答える。
短く。
でも、今までで一番はっきりと。
れいかは少しだけ頷く。
それで十分だった。
沈黙が落ちる。
でも、嫌じゃない。
むしろ――
少しだけ、落ち着いている。
「……また、店で」
れいかが言う。
「……はい」
要は頷く。
れいかは軽く頭を下げて、歩き出す。
今度は、少しだけゆっくり。
でも、振り返らない。
その背中を、少しだけ見送る。
「……」
要はその場に残る。
胸の中が、少しだけ整理されている。
全部は決まっていない。
でも――
逃げていない。
それだけで、少し違っていた。




