表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

【⑦-4/4】【31】今日は魚で明日は肉!


 警官を見送り、来客用テーブルの上のコーヒーカップを片付けるかい


「巡査長ってのは、前に来た中年警官のことだろうな。

 さっきの警官に、この辺を勉強させようとしたのかな?」


 給湯室でカップを洗いながら、呟く魁。

 手早くカップを洗い終えて時計を見ると、もう六時だった。


「商店街に行って、色々受け取ってこないとな……」


 十二月に入った今、外は既に日が落ちている時間だ。

 近くとはいえ、これから買い物に出ると考えると、気が重い。

 重くなった気を支えきれず、来客用ソファーに沈み込む魁。



 雪乃は先週から猫又の里に行っていて不在。

 習得したい術があると言っていた。



雪乃ゆきのを吸えてないからか……

 最近はなんだか、疲れが抜けない気がする……

 ……雪乃、雪乃、ああ雪乃――

 雪乃吸いたい雪乃吸いたい雪乃吸いたい――

 雪乃雪乃雪乃雪乃雪乃――

 ゆきのゆきのゆきのゆきのゆきのゆきのゆきの――」


 ソファーの背もたれに体を預けてぐったりしたまま、虚ろな眼差しで呪文のように繰り返す魁。



「……ゆ~き~のおおおおおおーーー!」


 もやもやとしたものが溜まっていた魁は、思わず叫んでいた。



「にゃー?」



 雪乃の返事?

 

 跳ね起きる魁。幻聴か?


 否。三階へ向かう扉の猫用通路から、白い天使が、しゅるりと現れた。



「にゃー!」


「雪乃! 帰ってきたのか!」


「にゃー!」


 文字通り目にも留まらぬ速さで駆け寄り、両手を広げた魁の胸へ飛び込む雪乃。

 そのまま、激しく顔を擦り付ける。


「ああ……雪乃……おかえり……」


 魁も、雪乃を強く抱く。

 そして、猫の雪乃と熱い口づけを交わした。


 無論、これも監視カメラに記録されている。


「にゃん……」


 雪乃は、うっとりと魁に身を委ねる。

 ソファーの上に寝転んで、お互いの存在を確かめ合う二人。


 このまま雪乃を吸い尽くしてしまいたいところだが――

 まだ六時過ぎ。


「……そうだ、修業は上手くいったのか?」

 雪乃を堪能たんのうした魁は、雪乃の頭を撫でながら修業の首尾を問う。


「にゃん!」

 頷く雪乃。小さな前足で、ふにゅりとガッツポーズ。


「そうか、よかったな。それで、何を覚えて来たんだ?」

 胸の上に雪乃を座らせ、問う。


 雪乃はツンと横を向き、一声。

「にゃ~ぬ」


 その答えに、おや? と、疑問符を浮かべる魁。

「秘密なのか?」


 横を向いたまま片目でちらりと魁を見て、また閉じた。再び一声。

「にゃ~ぬ」

 答えは変わらず、秘密らしい。


「そう……か……」

 多くは語らず、心底悲しげに、雪乃から視線を外す魁。


「にゃ!? にゃにゃ!」

 雪乃は、慌てて前足激しく動かして弁明をする。


 慌てる様子に、雪乃をぎゅっと抱いて笑う魁。

「はは。冗談だ。何か理由があるって、わかってるよ」


 前足を前に出したまま硬直し、大きく目を見開く雪乃。

 ぽかーんと、口も開いている。

 驚きの後、ゆっくりと目を細め、静かに右前足を頭上に掲げて――


「にゃ~ に゛ゃっ!」


 魁の額に、少し強めの猫パンチが繰り出された。


「いてて……悪かったよ。

 雪乃が帰ってきたのが嬉しくて、ちょっと舞い上がってたんだ」


 猫パンチは止めたが、依然としてツンとした表情で細めた目のまま。

 少し横を向き、横目でじっと魁を見る雪乃。


「頼むよ~ 許してくれよ~……」

 雪乃の背中を撫でながら、許しを請う魁。


 雪乃が魁を見る表情はそのままだが……二本の尻尾は素直だった。

 次第に、背を撫でる魁の腕へと絡みつき始める。


「にゃ……!」


 数週間ぶりの魁です。

 我慢するなんて、雪乃には無理なんです。

 限界なんです。


「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」

 魁の首元に顔を埋め、激しく体を擦り付け始める雪乃。



「許してくれるか? ありがとうな」

 魁は愛を込めてゆっくりと雪乃の背を撫で、雪乃はうっとりと魁に身を任せる。

 見上げた雪乃の瞳が、潤み始めていた。


 ――まだ六時過ぎだ。夜まで、夜まで、が ま ん だ ぞ。


 口を開くと忍耐力が逃げて行きそうなので、歯を食いしばったまま、目で語る。


 それは雪乃にも伝わったらしい。


 ギギギギギ、と、軋む音が聞こえてきそうな動きで、頷く雪乃。

 魁の胸に前脚を突っ張って、少し距離を取った。



 ――気を紛らわせるため、食べ物の話を持ち出す。


「そうだ、雪乃! 今日はカツオだぞ!

 徳さんが格安でカツオを流してくれるんだ!

 雪乃のお帰りパーティーだな!」


「にゃー!」


 魁の顔を見上げ、喜ぶ雪乃。


 雪乃も必死で意識を食べ物の方へ向けようと努力する。


「しかも、丸さんがいい肉をくれるんだ!

 それは明日食べような!」


「にゃにゃ!!」


 肉もあるのかと大喜びの雪乃。

 両方の前足を上げ、バンザイ!

 二本足で立ち上がった状態だ。

 普通に嬉しかったので、上手く気が紛れた。


「あと、カツオの燻製くんせいも作るぞ!

 それも少しずつ食べような!」


「にゃにゃにゃ!?」

 怒涛どとうのごちそうラッシュ!


「にゃ、にゃぁぁぁ……」

 雪乃は立ち上がってバンザイしたまま、衝撃に打ち震えていた。


「刺身もいいが、タタキも作ってみるかー?」

 バンザイした雪乃の前足を左右交互に押す魁。


「にゃ! にゃ! にゃ! にゃ!」

 押してくる魁の手に合わせて猫パンチを繰り出す雪乃。

 連続ハイタッチ。


「よーし、じゃあ、品物を受け取って、夕食の準備だ! 急いで支度しないとな!」

 最後に、雪乃の両前足をぎゅっと掴んで、離す。


「にゃーん!」


 バンザイをやめ、魁から離れる。

 そして、三階に向かう扉へ駆け出す雪乃。


 猫用の扉へ姿を消すと、すぐに人間用の扉が開いて獣人の雪乃が顔を出した。


「私は食器とかスープとかの準備!

 魁がカツオを切ったら、すぐ食べられるようにしとくからね!

 魁は商店街で材料調達だよ!

 はい、ミッション、スタート!」


 雪乃は元気にミッション開始を告げ、すぐに顔を引っ込めた。

 扉が閉まる音が響いた頃には、そこに雪乃の気配は無かった。

 足音さえしなかったが、全速力で三階へ上っていったようだ。



 魁は、仕事用のジャケットとベストを来客用ソファーの上に投げ出し、給湯室からエコバックを取ってくる。


「りょーかーいっ」


 雪乃に聞こえているか怪しいものだが、天井に向けて承諾の意を表明する。



 雪乃が帰ってきたとあれば、疲労も吹き飛ぶというものだ。



 魁は、軽快な足取りで商店街へ向かうのであった。



本作品をお読みいただき

ありがとうございます


もし気に入っていただけたのであれば


評価や感想など

何かしらの反応をいただけると

とても嬉しいです


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ