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【⑦-2/4】【29】事務所の映像


<<<<<監視カメラ映像 事務所内 再生開始>>>>>



 監視カメラの映像は、女性の依頼者が事務所を退出するところから始まった。


 女性の依頼者が退出してすぐ、かいは電話で出前を頼んでいる。

 時刻は十二時を少し過ぎたところだ。


 電話の後、デスクで作業を始める魁。

 魁が十分程度映像を早送りすると、問題の鈴木が怒鳴り込んできた。


『赤神ってぇ探偵を出しやがれ!』


 鈴木は怒りに任せて来客用テーブルやキャビネットなどを殴ったり蹴ったりしている。

 対する魁は、終始冷静な対応だ。


『私は、貴方の奥様から浮気調査の依頼を受けました。

 ここに来たということは、その件はご存知ですね?』


 鈴木の妻は色々と問題のある依頼者だったが、先日ようやく結果報告して、契約が終了したところだった。


『ああ、知ってるともよ!

 旦那の浮気に探偵雇うなんざ、女の浅知恵だなぁ!

 浮気は男の甲斐性だ!

 世間の奴に聞いたらよお!!

 俺が悪いなんて奴は誰一人居ねえぞ!!!

 アイツもアイツだ! 囲ってやった恩も忘れて、テメェみてぇな木偶の坊に入れ上げて、挙句の果てに別れたいだあ?

 アイツ囲うのに幾ら使ったと思ってんだ!

 女は黙って家で股開いとけってな!』


 魁の問いかけに対し、鈴木からは昭和的で過激な発言が飛び出す。


『俺も探偵雇ってな、テメェと女房が不倫してる証拠も押さえてあんだ!

 でもな、ただ裁判起こしてテメェから金ふんだくるだけじゃ、腹の虫が治まらねえからなあ!

 証拠突きつけて、テメェがうろたえるのを見物しに来たのよ!!!』


『なるほど? で、その証拠というのはどういったものでしょうか?』


 鈴木が探偵を雇って調べさせたという証拠は、大枠で二つ存在した。


 まず、鈴木の妻が赤神探偵事務所に訪れた際、ブラインドを閉め切って明かりを消していたこと。


 そして、都心の超高級ホテルで密会していたことだ。


 鈴木の言い分を聞き、魁は何か言葉を返そうとする素振りを見せた。

 その時、魁が何かを言う前に突然入り口のドアが開く。



『アニギ~』



 鈴木の声を塗りつぶすような、低音のしゃがれ声が事務所に響く。

 声の主は、カラシ色のスーツを着た巨漢の黒人男性だった。

 身長は赤神と同程度だが、各パーツの太さが全て二倍はあろうかという体格だ。


 鈴木には目もくれず、一直線に魁のデスクへ向かう。


 黒人男性は英語で魁へと語りかけ、幾つかの小袋を渡した。

 魁は小袋を受け取り、その中身を口に含んで何度か頷く。

 大きく笑い、魁と黒人男性は握手をした。商談成立、といった様子だ。


 魁は黒人男性を出入り口まで見送り、デスクに戻る。


 鈴木は麻薬取引のような場面を目の当たりにし、動揺していた。


 その動揺が冷めやらぬ間に、再び来客。



『赤神さん、居るかい……』



 現れたのは、隻眼せきがんの男だった。

 オールバックの髪に、黒のロングコート。上も下も靴まで黒。

 額から頬にかけて刻まれた深く長い傷が、左目を切り裂いている。


 隻眼の男は、魁と鈴木を交互に見てから無造作に言い捨てる。



『ん……先客か。また来る――』



 隻眼の男は退出しかけたが、

『いえ、こちらへ』

 魁が強引に隣室へ引っ張っていった。



 隣の部屋から、二人の会話が途切れ途切れに聞こえてくる……



『――ターゲット――始末――』

 おそらくは、隻眼の男の声だ。

『――なまり――いつかろうと思ってたので、丁度良かったです――』

 今度は魁の声。

『――支払いは現金で――』

 そしてまた、隻眼の男の声。



 会話からは、殺しの匂いがした。



 魁と共に隣室から戻ってきた隻眼の男は、すぐに事務所を去った。


 無言で、隻眼の男が出て行った出入口を見つめる鈴木。

 どうやら鈴木は、やや怯えて言葉を失っているようだ。


 時間の無駄とばかりに、

『鈴木さん。用が無いなら、お帰りください』

 鈴木に言葉を投げつける魁。



 魁の言葉をなんとか打ち返そうと、鈴木が口を開きかけたところで――

 またもや、事務所のドアが開かれた。



『こんちは~赤神さ~ん』



 無邪気な中年男性の声が、事務所に響いた。


 パーテーションの向こうから現れたのは、汚れたエプロンを付けた、恰幅かっぷくのいい男性だ。


 満面の笑みを浮かべ、瞳が見えない程細い、糸のような目。

 その表情は、何やら狂気すら感じさせる不気味なものだった。


 鈴木は反射的に吠える。


『な、なんだテメェ!

 今、俺がコイツと話してるとこだ!

 怪我したくなかったら出てけ!』


 エプロン男は僅かに目を開き、鈴木を値踏みするように観察する。

 そして、すぐに眉をしかめつつ首を振り、一言。



『キミ、不味そうだね~』



 そこで赤神が素早く席を立ち、鈴木に一言。


『失礼』


 そして、エプロン男を隣の部屋へ引っ張っていった。



 鈴木は咄嗟とっさに声が出なかったが、数秒して、ようやく呪縛が解けた。


『不味そうって、どういう意味だ……?』


 戸惑いながら呟いた鈴木の耳に、隣室から不穏な会話が届く。


『人間を――美味そう――控えた方が――』

 魁の声。

『え~? 思ったこと言ってるだけだよ~ アハハハハハハッ!』

 エプロン男の狂ったような笑い声が響く。

『――流通しないやつね~ アハハハハハハッ!――』

 再びエプロン男。けたたましい笑い。

『魚の餌――処分――おいしく食べちゃおう――アハハハハハハッ!』



 見聞きした内容を何度か反芻はんすうし、導き出された鈴木の結論は――

『まさか……人間を食って……死体処理して――』


 鈴木が呟いた直後、エプロン男と魁が部屋から出てきた。


 エプロン男は鈴木を一瞥いちべつ

 あわれむような表情で首を振り、事務所から去っていった。


 出入り口でエプロン男を見送った魁。

 入り口に背を向けてデスクへ戻ろうとしたが、そこでまたもやインターホン。

 次から次へと来客がある。

 きびすを返して再び出入口へ向かう魁。



 そわそわと落ち着きのない様子の鈴木。

 もう、この事務所から逃げ出したいのだが、その機会が掴めずにいるようだ。


 そんな折に、新たな来客。それにより、場の雰囲気に変化が生じる。

『……今だ!』

 このタイミングで事務所を出ようと、素早くソファーを立つ鈴木。


 しかし、扉の向こうには謎の箱を抱えた人物が立ちはだかっていた。

『……オトドケモノ……DEATH!』

 何の変哲もない言葉も、鈴木の耳には危険な一節となって届く。


 事務所を出ようと入り口に向かいつつあった鈴木。

 この言葉を耳にしたとき、既に魁の背後まで来ていた。


 鈴木は現在の状況について、任侠映画の知識を基にして、うわごとのように呟く。


『この配達員がヒットマンなら事務所内に向けて銃を乱射すっからこいつの後ろに居たら銃撃の巻き添えになる――』


『やべえ!!!』



 瞬間的にそう判断した鈴木は遮蔽物しゃへいぶつを探した。

 だが、事務所内には頼りになるものなど無い。

 ならばせめて、確実に銃弾が撃ち込まれる探偵の後ろからは逃れねばならない。

 探偵の後方から退避し、客用ソファーの後ろへ身を潜めて床に伏せた。



『ありあたっした~』

 気だるげな宅配業者の言葉が事務所内に響き、出入口の扉が閉まる音。


 魁は、受け取った荷物をパーテーションの陰に置いた。

 事務所内を振り返ると、来客用ソファーの陰から頭だけ出した鈴木が視界に入った。


『……何やってるんですか?』

 そろそろ、鈴木への対応も雑になってきた。


『……何って……テメェの巻き添えはご免だ!』

 怒鳴る声にも怯えがうかがえる。


『はあ? はあ。 ……?』

 言葉の意味がよくわからず、首を傾げる魁。

 ソファーの陰に隠れた鈴木の方を見ながら、事務所の入り口付近で、ぼんやり立ち尽くす。


 出入口の前から動かない魁に、痺れを切らした鈴木。

 相手が若いこともあり、魁に対してはまだ強く出られる。


『もういい! 退け! いつまでも、こんなとこに居られっか!』


 ソファーの陰から飛び出して出入口へ駆け出す。


 それは当然、出入り口前にたたずむ魁へ接近することになり――


『デ マ エ DEATH!』


 今度はインターホン無しで開かれる扉。


 何の変哲もない出前の配達なのだが、鈴木の認識能力は恐怖に浸食されて破綻していた。


 鈴木には、配達に来た店員の声が殺意に満ちたものに聞こえ、携えた岡持おかもちは、異様な光を帯びて見える。


『うおおお!』


 先程の宅配便と同じ理由で、銃撃を逃れるため床に転がる鈴木。

 転がった先は、魁がパーテーションの裏に置いた荷物の近くだ。


 荒い息を鎮め、事務所内の物音に耳を澄ますと――


 間近に、チクタクと時計の音がする。

 辺りを見回して最初に目についたのは、先程配達された荷物。


『な、なんだこの荷物! 時限爆弾かおい!?』


 鈴木は床を這って荷物から離れ、事務所奥の給湯室付近へ退避した。


 意味不明の言葉を喚きつつ事務所内を這い回る鈴木。

 一方魁は、ごく普通に出前の応対をしていた。


『配達ありがとうございます。どうも。代金はこれで』

『はい。確かに。 ……大変なんですね、探偵って……』


 奇行を繰り返す鈴木から目を背け、定食屋の店員は、そそくさと事務所を去った。



 山盛りフライドポテトと唐揚げ定食をデスクの上に運ぶ魁。

 給湯室前から、恐怖に満ちた鈴木の視線を感じる。


 ふと、思い出したように固定電話の受話器を取る魁。

 魁は鈴木に構わず、どこかへ電話を掛けた。


『どうも。赤神です。すぐ使いそうなので、一丁いただけますか?――』

『いえ、シャブを勧められまして――』

『今日知ったんですけど、バイヤーが本業らしいですよ。そんなわけで、仲間内に配る程度は大したことないそうです――』

『はは。では、二百万あれば足りますね?――』

『わかりました。裏ですね。ありがとうございます。それでは、また後ほど――』



 すぐ使いそう――

 一丁――

 二百万――



 鈴木の顔が、徐々に青ざめていく。


 銃を購入しているようにも聞こえる会話。

 麻薬売買にも触れているようだが、今はそれどころではない――



 受話器を置き、鈴木の方を振り返る素振りを見せる魁。



『じょ、冗談じゃねえ! 殺された上、食われんのはご免だ!』


 魁が振り返る前に、叫び声を上げながら走り出す鈴木。


 パーテーションに肩を、キャビネットに足をぶつけながら、転がるように事務所から飛び出していった。



<<<<<監視カメラ映像 事務所内 停止>>>>>



「彼が映っているのは、ここまでですね」

 魁は監視カメラの映像を停止した。



 そこで、興味深そうに映像を見ていた若い警官は、大きく頷きながら一言呟いた。

 


「なるほど……」


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