54 攻勢に出る
ルーサイアの街は、尾張の国の南東に位置する。
俺が日本から落ちてきた場所がこの街だったのは、不幸中の幸いと言えよう。
ミスフィート軍の本拠地であり、すぐ隣は清光さん達がいる三河だったのだから。
そして今回目をつけたのは、西にあるパラゾンの街と、すぐ北にある鉱山だ。
「ミスフィートさんがピンチに陥った原因は、武器、すなわち鉄が不足していたからですよね?」
「そうだ。あの時はジャバルグの兵士から装備を奪うことで、なんとか鉄を確保していたのだ」
「53人分の武器は俺が用意出来ましたが、新たに兵を増やすとなるとやはり鉱山の確保は必要不可欠ですね。ジャバルグ兵を襲っての装備品確保じゃ供給が追いつかない」
「うむ。しかしジャバルグ軍と戦争するには、隣街からの徴兵も視野に入れる必要があるだろう。この街だけじゃ全然人が足りない」
そうなんだよな。他の街はどうか知らんけど、この街の住民の扱いは最悪で、人の数など減る一方という有様だった。此処を我々が占拠した所で、増やせる兵の数などたかが知れてるんだよ。
「ならばこうしましょう。ミスフィートさんは軍を率いてパラゾンの街を落とす。その間に、俺が単独で鉱山を手に入れます」
「単独で!?」
「鉱山なんて、ジャバルグ軍の兵士などそう多くはいないでしょう。監視係が大量の民を無理に働かせてる状態だと思われます。そして働かされてる人は、十中八九、死ぬまで鉱石を掘らされ続ける運命だ。そこで俺が扇動し反乱を起こせば、絶対にみんなミスフィート軍の方につく!」
「なるほど・・・。毎日地獄を味わっていれば、死ぬまで鉱山で働かされるなんてのは誰にでも想像がつく。逃げる隙があれば誰だって逃げ出したいであろうな」
「まあ、扇動に失敗した場合、速やかに逃げ帰って来ますよ」
「わかった。鉱山は小烏丸に任せよう」
鉱山はこれで良いとして、問題はパラゾンの街か。
「パラゾンの攻略ですが、ミスフィートさんだけ単独で櫓を落として行くのが最良と思われます。櫓さえ全て落としてしまえば、軍のみんなが街で動きやすくなりますから」
「前回小烏丸がやった行動だな?」
「櫓には7~8人の兵が詰まっているので少々やっかいですが、ミスフィートさんならば楽勝でしょう」
「ハハッ!面白い。その案で行こう!」
本来ならば、10人ほどで櫓を落として行くべきなのだろう。しかし、毘沙門天を持ったミスフィートさんの強さは一騎当千。他の仲間がまだ大業物を持って無い現状だと、今はむしろ単独の方がいい。
本当は曼殊沙華などを持たせたい強い人は何人もいるんだけど、大業物は数に限りがあるので、恩賞という形で渡さないと不平不満が出てしまう。
俺に時間的余裕さえあれば、ミスリルやオリハルコンの刀を打ったりも出来るんだけどなあ・・・。
ちなみに大業物というのは非常に斬れ味の良い名刀のことを指す。
最上大業物、大業物、良業物、業物、と細かいランク付けがあるようだけども、個人的には3段階くらいで十分と思ってるんだよね。
俺の打った刀で言うと、毘沙門天、曼殊沙華、雷神、風神は大業物。
軍のみんなに配った、二つの付与魔法がついた鉄の刀が業物。
付与魔法無しの、普通の刀が無銘ってとこだな。
ああ、でも俺の愛刀、天国のクラスまで行くと、最上大業物と言ってもいいな。となると4段階になっちまうか・・・。
とにかく大業物を手にする人が、自然と軍の幹部になって行くのだと思う。いや、逆か?働いた褒美として刀が貰えるのだから。
出世って夢があるよなー。
ミスフィート軍はまだ羽ばたく前の雛だ。
活躍次第で出世は思いのまま。そういう意味では夢のある軍と言えよう。
俺もみんなに負けないように活躍せんとな!
2日後、軍のみんなはパラゾンへ、俺は単独で鉱山を攻め落とすことが決まった。
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決行当日、俺は普通に道を歩いて鉱山が見える位置まで来た。
コソコソ隠れながら移動しなくても、どうせすれ違う奴らは皆殺しと決めていたからだ。
残念ながら、ココに来るまで敵と出会うことはなかったが。
さて、どうやって鉱山に侵入しようか。
最初から派手な戦闘をすると、敵に団結されてしまう恐れがある。
俺vs100人とかになっても、頑張れば何とかなるような気がしないでもない。でもそれは敵が全員雑魚だった場合だ。一人でも強敵がいれば、その他99人までもが脅威となってしまう。
ココはやはり、雑魚共を抑えてくれる仲間が欲しい。
こっそりと中に侵入して、力になってくれる人を集めよう。
どうしても邪魔な見張りがいたら、静かに、速やかに暗殺する。
「おうらあ!!キビキビ運ばんかい!」
バシッ!
「グハッ!!」
「もたもたしてたら日が暮れちまうだろが!!」
バシッ!バシッ!
「ホント使えねえクズ共だ!」
「オイオイ、あんまり無茶させるとまた死んぢまうゾォ?」
「そろそろ補充の人員が送られて来る頃だろ!」
「あー、そろそろかあ?俺らもそろそろ帰りてえなァ~」
「こんな場所にずっといたら、ゴミ共でストレス解消しねえとやってられんわ!」
「まあ殺さない程度にならば好きにすりゃいいサ」
思った通りクソみたいな現場だ。
どいつもこいつも腐れ外道だから、こんな状況だろうとは予測していたが。
だからこそ、働かされてる人はチャンスがあったら反乱を起こすハズなんだよ。
こんな所にずっといたら、自分がどうなるかなんて火を見るより明らかだ。
さあて、じゃあ中に侵入して扇動でも始めますかね!




