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ピ・エ・ロ ~流の場合~  作者: 岩石
遊貴の場合
28/33

epilogue



 結局、切人とオレはまだ別れていない。

 別れを宣言した後、押し問答の末に了承してもらえなかったからだ。

 そのため別れるのは一旦保留にし、後日改めて話し合う事になった。


「時間を置いた所でオレの意思は変わらないと思うけどね」


 自宅のベッドに横たわりながら独りごちた。

 オレの中の恋の終わりはいつも唐突にくる。まるでスイッチを切り替えるように、些細な事で一喜一憂していたのがいきなり凪ぐのだ。

 そうなると、ときめきも幸福感も、胸の痛みも全てが無くなり静かになる。今みたいに。

 いつもならすぐに流の元に行って、また笑うための活力をチャージする所だけど、それももう出来ない。その資格をオレは自ら放棄してしまったから。

 涙はもう出ない。受け止めてくれる人がいないからかな、と思う。

 なら流は? 流の涙は誰が受け止める?

 疑問が頭をもたげた瞬間、オレは勢いよく飛び起きた。



※ ※ ※ ※ ※



 日付は変わり、すでに電車は無い時間。オレはひたすら全力で自転車を漕いでいた。

 流が独りきりで泣いているかもと思ったら、居ても立っても居られなかった。

 守る力が欲しくて強くなりたかった。重荷になるのが嫌で独り立ちしたかった。

 何よりも大切にしたかった大事な大事なオレの幼馴染み。

 暗く静まり返ったアパートの前。聞こえる音はオレの荒い息遣いだけだ。

 なるべく足音をさせないように部屋の前に行くと、乱れた息を整える為に数回深呼吸を繰り返す。

 昨夜、この部屋を後にしてから半日も経っていない。どの面下げて、と少し躊躇するもインターフォンを押した。

 しばらく待ったが返事は無い。再度インターフォンに指が伸びるが、押す寸前で思い止まる。

 草木も眠る丑三つ時。流も寝ているのかもしれない。

 眠れているならいいか、と上げていた手を降ろした。ここに来る途中で脱いだコートを着てドアを背に座り込む。

 夜が明ければ、学校なりバイトなり行くときに必ずドアを開ける。それまで待てばいい。

 抱えた膝に顔を埋めた。

 流の気持ちを考えるなら、オレはここに居ちゃいけない。直ぐさま立ち去るべきだ。

 それは判っているがここから離れる気にはなれなかった。



※ ※ ※ ※ ※



 どのくらい経っただろう、気付けば空は明るくなっていた。

 底冷えするような寒さだが、服の下のカイロが暖かく我慢できないほどじゃない。

 念のために持ってきてよかった。

 座り込んだ体勢のまま目をつむり、背後のドアに意識を集中する。流はまだ寝ているらしく、部屋の中からは何の気配も感じない。

 コツ、コツ、と足音が聞こえてきたが、部屋の外からなので気にせず背後に意識を向け続けていた。

 バタバタと足音が急に荒くなったと思ったら乱暴に肩を捕まれた。


「ゆーき!! おい!」


 声にパッと目を開けた。目の前にいたのは流だった。


「……流?」


「お前、何してっ」


 あれ? 何で外に? ああ、それよりも。

 厳しい表情の流に詰問されるが、オレはそれに構わず流へと手を伸ばす。

 目も鼻も赤いし、まぶたが腫れていて顔も少しむくんでいる。

 泣いていたのは明かだ。

 涙の跡が色濃く残る目尻に触れると、指がよほど冷たかったのか流の肩がビクっと跳ねた。


「独りで泣かせてごめん。ごめんね」


「は!? おまっ。とにかく立て。ドアが開けれない」


 流はオレを引っ張り上げると慌ただしく鍵を開けた。

 外に座り込まれたままでは迷惑なのだろう、中へと促される。走り込んだ流の後に続いて部屋に入った。

 またここに立てるとは思わなかったな。

 玄関に立ち尽くして感慨にふけっていると、戻ってきた流に毛布をバサリと掛けられた。


「ちゃんと被ってろよ。すぐ温かい飲み物用意するから」


 言われるがままに毛布を体に巻き付ける。

 キッチンから顔を出した流に上がるよう言われるまで、玄関に突っ立ったままでいた。



※ ※ ※ ※ ※



 オレは今、流の足の間に座り込み毛布ごと後ろから抱きしめられている。

 コートは邪魔なので脱いだ。


「勘弁しろよ、マジで」


「ごめんなさい」


「まだ11月だからって油断してたら取り返しのつかない事になるんだぞ? 判ってんのか?」


「はい。もうしません」


 流はオレの肩に頭を乗せた体勢のまま、凍死が低体温症がと繰り返しぶつぶつと不満を口にしている。

 オレは反論する事なくひたすら謝り続けていた。

 帰って来た時の流らしかぬ少々乱暴な振る舞いは、疎ましさからでも怒りからでもなかった。

 ただただ、オレの身を案じていただけだった。

 そして今のこのぬいぐるみ状態と言う訳だ。

 心配と迷惑をかけて申し訳ない反面、縋り付く流が可愛くて仕方がない。先程から表情を引き締めようと頑張ってるけど、どうしても頬が緩んでしまう。ニマニマ。


「ニヤついてんなよ。ムカつくわ」


 オレを包み込んでいた体温が消えた。

 えぇ、もう終わり? ノーウゥ。流、カムバーック!


「つーか、もう帰れ」


 そう言ってバスルームへ引っ込む流。

 弾かれたようにオレは後を追った。オレを見て流は目を眇るが気にせず抱きしめた。


「おい」


「うん、帰るよ。でもまた来る」


 俺の腕を押し退けようとする流。オレは一瞬だけギュッと力を込めて、すぐにパッと離した。


「二度と来るな。俺はもうお前に関わりたくない」


「知ってる。それでもオレはまた会いに来るから。だから先に謝っておくよ。ごめんね」


 外で待ってる間ずっと考えていた。

 流の意思を尊重しなきゃって。でもそれって『流の為』って言い訳して放置するって事じゃないのか?とも。

 オレはどうすればいいのか、何が正しくて間違っているのか。何を選べば正解なのか。

 堂々巡りの思考に嵌まっていて結論なんか出やしなかった。

 でも流の顔をみたら、ごちゃごちゃ考えてた事が全部吹っ飛んだ。そうして一度真っさらになった頭にストンと一つの答えが出たんだ。

 悩んだ末に出た答えは、至極当たり前の事。

 そもそも、正しい選択も間違った選択も無いんだって。選んだ後で、自分が何をするのか、どう行動していくのかが大事なんだって。


「じゃあ、また来るね」


 完全無視を決め込んでいる流に向かって玄関を開けながら声をかける。返事どころか視線さえ寄越されないが、オレは笑顔で手を振った。


 誓うよ。オレはもう二度と君を諦めたりしない。いつかまた、二人並んで笑い合える日のために。



end




 ~ご挨拶~


 ピエロ完結です。

 この後の三人の関係ですが、どうなっていくのか敢えて結論を出すのはやめました。

 遊貴と流はやはり決別してしまうのか、それとも友愛or恋愛を新たに構築するのか。もしも恋愛に発展したら『遊貴×流』になるかな。

 全ては遊貴次第。

 切人と遊貴もです。このまま別れてしまうのかどうか。

 こちらは切人次第かと。


 一応は連載開始時は切人と遊貴のハッピーエンドルートを想定してはいました。ですが切人の空気っぷりに、いっそ最後まで空気でいてもらおうかと。

 別れ宣言→一悶着あって恋人関係継続→endとなる予定を【一悶着~end】を全面カット、【epilogue】を切人メインから流メインに変更し、カット部分を冒頭三行に集約してみました。

 中途半端な終わり方になりましたが、岩石的にはベストな終着点に辿り着くことが出来ました。

 遊貴編の開始当初は、切人の空気さに凹んだりもしましたが、結果オーライ。より納得の出来るものになったのでよかったです。


 拙い作ですが、ここまで読んで頂けて本当に嬉しいです。

 ありがとうございました!


2013.12 岩石

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