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愛想はいいが人との間に壁を作る流は、他人を懐にいれる事は滅多にない。もちろん、恋人になった西岡に対してもそれは変わらなかった。
なのにそんな流がいつの間にか西岡に対する壁を取り払っていた。
再び始まった二人の言い合いも、オレには痴話喧嘩にしか見えない。
二人を見ていたくなくて視線をさ迷わせると、部屋の隅にある鞄が目に留まった。
流が実家に帰るために荷造りした物だ。
「もう荷造りは済んでるんだよな?」
言葉が途切れた隙に口を挟むと、二人は言い合いを止めてこちらを向いた。
「ああ。つっても着替えはあっちにもあるし、貴重品くらいしか荷物ないんだけどさ」
「なんだ、どこか行くのか?」
チラリと鞄に視線を投げた西岡が流に聞いた。
驚いた事に恋人のはずの西岡は何も知らされていなかったらしい。
「あ、言ってなかったっけ。ちょっと家に帰ろうかと思って」
付き合っているにも関わらず、西岡に対して淡泊に返す流。
それでいいのか、と問いたくなるのをぐっと我慢してオレは流の言葉を補足する。
「家の人に夏休みくらい帰って来るように言われたんだって。ほら、流は高校に入ってから全然帰って無いからさ」
高校入学を機に一人暮らしを始めた流は、今まで一度も家に帰っていない。今回が初めての帰省だ。
予定ではバイト先が盆休みに入ると同時に帰るはずだったのを、オレの事があったために延期したのだ。
「そうだったのか。てか、思って、じゃねーだろ。ちゃんと言えよ、そういう事は」
溜め息混じりに言う西岡。
まったく同感。幼馴染みには伝えてる事を恋人に伝えて無いってどういう事だ。
「悪い。それと、こっちに帰って来るのは月末になるから」
「え? 登校日、休むの?」
初耳だ。すぐに帰って来ると思ってたのに。
「ああ。もう担任には連絡してあるし」
「そう。……じゃあ、しばらく会えないんだ」
「? なあ、お前達って幼馴染みだろ? 流の家は遊貴の家の近くなんじゃないのか?」
西岡が疑問の声を上げた。
それを聞いて家の住所さえも伝えて無かったのかと、流の彼に対する対応の酷さにオレが焦った。
「家は中学卒業と同時に今住んでいる家に引っ越したんだよ。流の実家はここからちょっと遠いんだ」
地元の県には学びたい学科のある高校が無かったそうで、流は越境して今の学校に入った。そのため彼の実家までは距離がある。
気軽に訪ねて行くのは少々難しい。
親から引っ越しすると聞かされた当時は酷くショックを受けたものだ。
しかしオレにとって幸運な事に、新しい我が家と流が通う高校がそれなりに近くだった。
引っ越しを知って大泣きしたのも、流の進路を聞いて嬉し泣きしたのも、今となってはいい思い出だ。笑い話とも言うけれど。
よほど寂しそうな顔をしていたのか、慰めるようにぽんぽんと頭を叩かれた。
オレが頭を撫でられるのが好きなのを知っている流は、微笑みを浮かべゆっくりと撫でていく。
「だから、今日くらいは遊貴とゆっくりとしたくてさ」
そう言いながらも、帰省を遅らせるのはオレのためだろう。
流がオレに甘いのはオレ自身が1番よく知っている。
微かに糖分出せました。ラブじゃなくてライクですけど orz
流は遊貴の引っ越しにあわせて進路を選んだ訳ではありません。
遊貴が知った順番が、引っ越し→流の進路です。




