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たどり着いたアパートのドアを開くと、うだるような外の暑さとは対照的な冷たい空気が流れ出てきた。
部屋の中へと駆け込み、求めていた姿を見付けて走り寄る。
「流〜!」
「おー、お帰り〜」
のんびりとオレを出迎え両腕を広げる流。オレはその胸に飛び込んだ。流を吹っ飛ばさないように、直前でブレーキをかけるのは忘れない。
包み込むようにゆるりと抱きしめられた。
暑さで火照ったオレには、エアコンで冷やされた流の体はひんやりとしていて気持ちがいい。
オレを包み込む腕。ゆっくりと頭を撫でていく手の感触。服越しに伝わる命の鼓動。
それらを全身で感じて漸くホッと息をつけた。
子供扱いされているのは理解しているが、甘やかされているだけなので気にならない。
「って、お前ら何してんだ! 離れろ!」
まるで母親に甘える幼児だなと内心で自嘲していると、誰かの怒声が響いた。
「わっ」
「ぅお」
割り込んできた腕によって強引に流から引き剥がされ、数歩後ろへとたたらを踏む。
目の前に現れたのは西岡だった。彼は転びかけた流の腕を掴んで支えている。
何で彼がここに? 流は今日1日オレの為に空けてるはず。
体勢を立て直した流が西岡の腕を振り払った。
「切人! いきなり何すんだ」
流の言葉にギクリとした。
今、『切人』って呼んだ? そんな……嘘だろ。
「何すんだじゃねぇ! 俺が居るのに二人の世界に入ってんじゃねーよ」
「だからさっさと帰れって言ったでしょ。居座ったの君ですよ、切人君?」
「ふざけんな! 遊貴の心配してたのは、お前だけじゃねーんだよ!」
オレは二人が言い合うのを黙って聞いていた。
……二人の距離感が近くなってる。どうしてだ。一体いつの間に?
少なくとも、付き合い出した先月はどこかよそよそしかった。夏休みになってからも部活やバイトですれ違ってばかりで、デートどころか会ってすらないと聞いている。
それなのに何で?
「……何で……」
ポツリと無意識に声がもれた。
オレの小さい呟きに反応したのは流だ。
「ああ、切人? 遊貴達の待ち合わせ場所教えろって押しかけて来たんだよ。マジうるせーの」
オレの呟きを別の意味で受け取った流は、西岡がここに居る理由を話した。
「なっ……当たり前だろ! 一人で行かせたって聞いて、黙ってられるか! ……遊貴、怪我してないか? 春紀って奴に酷い真似されなかったか?」
前半は流に後半はオレに向かって言う西岡。
本当にオレを心配していたか? そのくらい電話するだけで事足りるだろ。流に会いに来るための建前じゃないのか?
胸に渦巻くモノを押し殺し、オレはニコリと笑顔を作る。
「大丈夫。何もなかったから。凄くあっさりとした別れだったよ」
オレがそう言うと西岡は安心したように表情を緩めた。
その顔に本当に心配していたんだと悟る。それと同時に自分の卑屈な考えに羞恥を覚えた。
「心配かけてごめん。来てくれてありがとう」
せめてと今度は心からの笑顔を西岡に向けた。




