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ピ・エ・ロ ~流の場合~  作者: 岩石
遊貴の場合
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8月 後編


 固い表情でこちらに歩いてくる人を見付けて、オレは笑みを深くする。

 もたれ掛かっていたフェンスから背を離して彼を迎えた。


「おはよう、春紀さん。よかった来てくれて」


 幼馴染みの部屋に運ばれてから10日目のこの日、オレは春紀さんを強引に呼び出した。

 デートなんかじゃない。彼に別れを告げるためだ。


「朝から人を呼び付けるとは偉くなったもんだな。しかもこんな目立つ所とは。どういうつもりだ」


「ずいぶんご機嫌ななめだね。会社の近くはイヤだった?」


 今オレ達が居るのは、いつも待ち合わせる所とは別の場所だ。

 春紀さんはチッと舌打ちすると嫌そうな顔をする。


「知ってたんだな」


 わお。鎌をかけただけなんだけど、当たっちゃった。


「……まあね……ちょっと話があってさ。場所を替えよう」


 知ってるなんて嘘だよ。オレは何も知らない。会社どころかあなたのフルネームさえ。

 これだけ何も知らないのに、何で恋人だなんて信じていられたんだろう。自分でも呆れる。

 オレは春紀さんを伴って目の前の公園に入っていく。

 ここは有料の施設もある広い運動公園。まだ朝だというのに園内には早くもたくさんの人がいる。

 お盆という事もあってか、小さな子供からお年寄りまで幅広い年代の人が遊びに来ていた。

 そんな人達の横を通り過ぎながら予め決めていた場所に向かった。



※ ※ ※ ※ ※



 春紀さんは普段の彼からは考えられない事に、黙ってオレの後についてきている。

 そもそも彼が昼日中の呼び出しに応じる事すら今回が初めてだ。人目を気にする彼は、日が暮れてからしかオレと会おうとしなかった。

 これ夢じゃないよな? 春紀さんがオレに従ってるとか信じられないんだけど。

 初めてだらけの事態に戸惑いながらも目的地に着いたオレは春紀さんにイスを勧める。


「よかった誰も使ってない。……どうぞ。足元、気をつけて」


 誰もいなくて当然かもしれない。この辺りだけ地面がぬかるんでいるから。

 芝生があるからぱっと見ただけでは気付けないが、歩けばドロドロになっているとすぐに判る。

 示したイスに彼が大人しく腰を降ろしたのを見届けて、オレも彼の向かい側のイスに腰掛けた。

 ここは園内の至る所にある四阿(あずまや)。周りに遮蔽物がなく見晴らしがいい。

 オレ達の近くには人が疎らにしか居ないが、少し先に見える噴水の辺りには大勢の人がいる。

 二人きりではない。しかし、大声を出さない限り他人に会話を聞かれる心配のない絶好の場所だ。


「ちょっといい所でしょ? 友達に教えてもらったんだ」


「それで、話しとは?」


 無駄話はいい、さっさと本題に入れとばかりに春紀さんが切り出した。

 こちらを探るような態度の春紀さん。いつもと違う彼の様子に、オレは内心で首を傾げながら自分の意思をはっきりと告げる。


「別れてほしいんだ」


「……それだけ?」


「もう会わないし、連絡もしない。春紀さんももう連絡しないでほしい」


「今後、遊貴からのコンタクトは一切無いんだな?」


 あなたが気にする所はそこなんだ? 『別れ』もオレ自身もどうでもいいんだな。

 不思議と怒りはない。胸に沸き上がるのはただ虚しさだけだった。


「うん。これでさよならだ」


 そう告げると、春紀さんは固かった表情をほんの少しだけ緩めた。

 オレとの事はただの遊びでしかなかったのだと彼の態度は如実に物語っていた。いや、もしかしたらオレを疎んじてすらいたのかもしれない。


「今の言葉、忘れないでくれよ」


 彼が椅子から立ちながら言うのに合わせてオレも立ち上がる。


「さよなら。今までありがとう、春紀さん」


「……二度と俺に近付かないでくれ」


 オレが差し出した手を無視してこちらに背を向けた彼は、そう言い捨てて歩き出した。

 歩み去る春紀さんの足音を聞きながら、オレは彼が向かった方向とは別の出入口へと向かうべく体の向きを変える。

 他意は無い。単にこちらの方が駅に近いからだ。

 今はひたすら癒しがほしい。

 オレはオレを世界で1番甘やかしてくれるであろう幼馴染みの元へと足を急がせた。




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